キム・カーダシアンのブランド「スキムス」が提案する“私らしさ”

キム・カーダシアンのシェイプウェアブランドが好調

  キム・カーダシアン・ウェスト。言わずもがな、世間を賑わすお騒がせセレブであり、アメリカのリアリティ番組『カーダシアン家のお騒がせセレブライフ』に出演したファミリーの次女で、カニエ・ウエストの妻である。先日もコロナ禍の中、40歳の誕生日をプライベート・アイランドで多くのゲストと豪華に祝ったことでかなりのバッシングを受けた。

  以前から、そんな空気が読めない行動でおなじみの彼女だが、ビジネスの面では、かなりうまくいっている。今年6月、キムは彼女の美容ブランド「KKW BEAUTY」の20%の株式を化粧品大手企業のコティに2億ドルで売却し、戦略的パートナーシップを結んだ。そして彼女のシェイプウェアブランド「スキムス ソリューションウェア」は、2019年9月の発売以来、約300万個を販売している。当初ローンチした時は、「キモノ」という無策なブランド名で商標登録を申請したため、文化の盗用だとSNSを中心に一大論争へと飛び火したのだが、そんな不具合もいまとなってはどこへやら、である。  

 この「スキムス」人気には、もちろんキムの巨大な知名度とマーケティング力が役に立っているわけではあるが、シェイプアップウェアの新しい時代の到来を告げるものでもある。これまで、シェイプアップウェア=補正下着といえば、コルセットのように体を締め付けるもの、つまりは心地よくない、という不快なイメージが大半だったのではないか。しかし、キムは快適性、機能性、手に取りやすいカジュアル感に重点を置き、驚くほどやわらかい生地なのに補正力が高く、かつ個々の体の最も魅力的なパーツを引き立てるプロダクトにこだわった。

 XXSからXXXXLまでの幅広いサイズを用意し、それぞれの人種の肌の色に合った色展開、そしていまではアンダーウェアやランジェリー、ルームウェア、アクセサリーまでラインナップを広げている。今年はルームウェアを販売するタイミングで新型コロナウイルス感染が拡大、逆に売上増の追い風になったというが、パンデミックの影響を受けながらも、順調に成長した要因は何なのだろうか?

ミレニアルやZ世代に響くダイバーシティ & インクルージョン

  様々な理由あれど、ここでは成長要因について2つ挙げてみよう。

ボディ・ポジティブへの共感

 成長の要因について、ユーロモニターのファッション&ビューティーアナリスト、ニーナ・マーストンは『VOGUE BUSINESS』のインタビューで「カーダシアン家は、特にミレニアル世代やZ世代の消費者と卓越したコネクションを築いてきた」と語っている。

 1周年記念キャンペーンでは、アディソン・レイのようなZ世代の人気ティックトッカーを集め、「スキムス」のファンと一緒に、年齢、サイズ、民族を問わず、様々な人々に製品を見せる個別のビルボードキャンペーンでポーズをとってもらった。

  ここで、キーとなるのが「ボディの多様性と包摂性」。つまり、最近よくいわれるダイバーシティ & インクルージョンだ。近年、ボディポジティブな運動が盛んになっている。これは、#Me Too運動の広がりとも重なっている。ファッションショーでスキニーなモデルがランウェイを歩くことは今もあるが、最近はそれよりもプラスサイズやリアルサイズのモデルが自然だ、と共感を集めている。海外の下着ブランドでは、リアーナの「サヴェージ & フェンティ」が有名だろう。日本でも、ピーチ・ジョンがリアルサイズのモデルを募集したところ、1,200人の応募があったと話題になった。

 「スキムス」も消費者のためにダイバーシティとインクルージョンを前面に押し出し、シェイプウェアの必要性についての議論を促している。そして、現代の若い消費者はフェミニズムやルッキズムに対して高い意識を持っている。そういったお互いのフィーリングがマッチングしたところが、キムの知名度以上に売上に繋がる大事なポイントとなっているのではないだろうか。

社会貢献と選択の自由

 若い消費者はブランドがパンデミックにどのように対処しているか、つまりどのような社会貢献を行っているか、についても関心を持っている。「スキムス」は、LA地域のフードバンクや様々な慈善団体に100万ドルを寄付した。そうした活動の一環もキムのSNSによって随時報告され、若い世代の共感を集めているようだ。

 また家にいながらにしてカジュアルなスタイルへの需要が急増している中、「スキムス」はシェイプウェアを特別な日だけでなく、普段着の下に着るための日常的なソリューションに変え、快適さを求める若い世代に焦点を当てた。特にボディスーツが売れ筋だが、他の製品カテゴリーも拡大している。同じ肌色の商品カテゴリーを横断して拡大することで、消費者はミックス & マッチが可能なベーシックアイテムを自分の好みで作ることができる。例えば、あるコレクションの下着が好きで、お揃いのルームウェアが欲しい場合、簡単にコーディネートができるということだ。そんな選択の自由も、人気を後押ししている。

 シェイプウェアを含むアンダーウェア市場は、一般的なアパレルに比べると規模は小さい。またパンデミックの影響で、ビジネスは依然として厳しい状況のままだ。とはいえ、「スキムス」はランジェリーやシェイプウェアを服の下に着ても、また家の中だろうが外だろうが、それだけで着られるアイテムとして、シェイプウェア市場の認識を変えていく力がある、と期待されている。今後、おかしな方向に炎上することなく成長を持続させることはできるのか、その動向を見守りたい。

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