「このまま死ぬんじゃ」睡眠時間1時間の時も…鷹・周東、苦しみの末に掴んだ盗塁王

ソフトバンク・周東佑京【写真:荒川祐史】

開幕スタメン逃して当初は「諦めていたところもあります」

ソフトバンクの周東佑京内野手が育成選手として初の盗塁王に輝いた。9日に本拠地PayPayドームで行われたレギュラーシーズン最終戦の西武戦で今季の全日程が終了。周東は2位の日本ハム・西川遥輝に8個の差をつけて、初のタイトルを獲得した。

6-2で快勝した西武戦。周東自身も有終の美を飾った。3回1死からの第2打席で四球を選んで出塁。続く中村晃の2球目でスタートを切ると、育成出身者として初の50盗塁に。試合後に「キリ良く終われました。49と50では違うので、どうしてもというのがありました」と振り返ったように念願をかなえる盗塁だった。

左腕の齊藤大から3球連続で牽制されるなど警戒された中でもスタートを切った。この日に限っては憤死も覚悟の上。「走れば何かが起きるかなと。走れなくて50盗塁できなかったら悔しいので」。捕手・柘植の送球はワンバウンド。周東の思った通りに“何か”が起きた。

育成出身者として初の盗塁王。このタイトルを目標に掲げてきた周東自身だが、開幕当時の胸の内は「獲れるとは思っていませんでした」。開幕スタメンを逃し、序盤は代走や守備固めでの起用。塁に出ても、なかなかスタートを切れずにいた。

「諦めていたところもあります。スタメンで出ていてこそ獲れるものだと思っていたので、今年は厳しいだろうなと。こうなるとは思っていませんでした」。今季初盗塁は7月24日の日本ハム戦で、今季31試合目のこと。レギュラーとしてコンスタントに試合に出始めたのは7月も終わりになってから。レギュラーの座を掴んだのは終盤になってからだった。

9月12日の西武戦で2失策して涙、寝られず「このまま死ぬんじゃないか…」

ただ、徐々に盗塁数を増やし「1位と7個差くらいになったくらいに、この残り試合数ならいける」と思い始めたという。そこから盗塁を量産し、10月16日からはプロ野球記録となる13試合連続盗塁。トップに立ち、2位以下を突き放して、タイトルを手にした。

この1年を「正直キツかったです。体のキツイのもありますけど、気持ちが疲れました。どんどん気持ちが疲れていくなと感じていました」。レギュラーとして試合に出続ける大変さを身をもって痛感した。

9月12日の西武戦では2つの失策を犯してベンチで涙を流した。悔しさから、その日はほとんど寝られなかった。「このまま死ぬんじゃないか」と思うほど追い詰められた。翌日はデーゲーム。「球場に行かなくていいなら、行きたくないと思っていた」。睡眠時間わずか1時間ほどで翌日の試合に臨んでいた。

「今はもうあまり考えすぎないようにしています。寝られない時もあったけど、寝られないなら寝られないでいいや、と。帰ったら切り替えられるようになりました」。精神面でも一皮剥けた。かかるプレッシャーに立ち向かい、そして、目指したタイトルを手にした。

「一生懸命やってきてよかったです」と、試合後にはホッとしたような笑顔を見せた周東。苦しみ抜いた末に掴んだ栄光。あの日の涙は決して無駄ではなかった。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)

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