【Red vs. Blue】投資家に5兆ドル超の損失をもたらしたトランプ氏のツイッター

 米二大政党、共和党と民主党。保守派共和党の公式カラーは赤、リベラル派民主党は青。アメリカの分断は両者の意見が大きく異なるためだ。当連載ではアメリカで報道された新聞記事について各派のアメリカ人が見解を披露する。今回は『フォーブス』誌による、トランプ氏のツィッターのつぶやきが投資家心理を悪化させて株価が急反落し、投資家たちは約5兆ドルも失ったという記事について。

 2019年8月23日、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は講演の中で、FRBによる追加利下げの期待を匂わせたものの明確な利下げのスピードを示さなかった。トランプ氏はそれに対して不満を表明。直後に中国が米国の制裁関税「第4弾」への報復措置を発表したことを受け、トランプ氏は「我々は中国を必要としていない」とツイッターに投稿。米企業に対し、中国から事業を撤退し、米国内生産を拡大するよう求めた。米中対立の不安を高めた大統領の一連の発言が投資家心理を悪化させ、米ダウ工業株30種の平均が急反落。下げ幅は1時間以内に500ポイントとなり、投資家は約5兆ドルを失った。

米メディアはトランプ氏の言動に世界の株式市場が振り回され、景気の動向に影響するという見方だが、保守派とリベラル派のアメリカ人の見解はいかなるものだろうか。

出典:Forbes
https://www.forbes.com/sites/chuckjones/2019/08/24/unpacking-trumps-tweets-about-the-fed-and-china/#74e2a8498b6e

Red: トランプが株式市場も支配している? フォーブス誌よ、しっかりしろ

Now even the stock market is controlled by Trump? Forbes needs a reality check

 『フォーブス』誌の強みが、ビジネスとイノベーションのニュース掲載であることを考えると、トランプに関するこの記事は冗談としか言えない。トランプのツイートは株式市場をコントロールすることなどできない。できるわけがない。

トランプの“ツイッター・マジック”によって、投資会社や民間投機家、世界中のさまざまな種類のデイ・トレーダーたちが、全員同時に彼らの株を売却する可能性があるという主張は、正気の沙汰ではない。株式市場は通常、いくつかの確立された傾向とパターンに従うものだが、市場がどのように反応するか、反応するタイミングや、そのスピードへの絶対的な保証はない。

ここで、ある程度の確実性を述べることのできるいくつかの事実を示してみよう。
(1)市場は概して強気であり、2016年以降、上昇し続けている。フォーブス誌の記事で説明されている修正(または市場のわずかな下降)は、市場の持続的な上昇トレンドでは非常に典型的なものであり、慎重な投資家が彼らの株式ポジションから利益を得ていることを反映している。
(2)2019年8月23日の市場の低迷は、その日のトランプのツイートの結果だとするのは疑問であり、むしろ貿易交渉、FRB金利、銀の価値、石油価格の驚異的な回復と上昇などへの投資家の期待の集大成だったと考えられる。「投資家の期待」を現実が超えると、市場全体が上昇する傾向がある。しかし、これらの同じ期待が満たされない場合、市場の反応は悪く、売り手と買い手がさまざまなタイプの投資のその時点における理想的な価格で取り組むため、下降が数日続くことがある。

私見では、これはすべて、この記事を書いたフォーブス誌のジョーンズ記者のような世界経済と株式市場の記事を書く人にとっては学術的なものだろう。フォーブス誌は、もし彼らが真剣に一人の男(それがトランプでも)が世界中の株式市場をツイートひとつでコントロールできると信じるのであれば、リアリティ・チェックが必要だ。

Blue: 信じられない? もう、それはないな

Unbelievable? Not Anymore

トランプが何かとんでもないことを言ったり、彼がすることに驚かされる人が今、世の中に残っているだろうか? 彼はハリケーンの被害者にペーパータオルを放り投げ、戦争の可能性がある国をツイッターで脅し、自らの政府のメンバーに人種差別的な発言をしてきた。しかし、我々がもうこれ以上、驚かされることはないだろうと思った矢先に非常に馬鹿げたことをするので、我々は期待度を下げて、また周期を再スタートさせることになる。

経済に関するトランプのツイートは、それがもし他の国のリーダーから発信された場合なら、世界的な抗議を引き起こすことになるだろう。トランプが、金と権力に取りつかれている人間だということは明白だ。彼は株式市場を自分の個人資産のスプレッドシートであるかのように自慢している。実際、彼があまりにも頻繁に株式市場についてツイートするものだから、『ブルームバーグ』は彼のツイートと、それに対応する市場価値を追跡する専用のページを設けているくらいだ。トランプは自分のツイートで市場を動かし、彼と彼の友人に何百万ドルも稼がせているのだろうか? それとも単に、何かから世間の注意をそらすために適当なニュースを作っているのだろうか? 我々は彼のとんでもない振る舞いに慣れてしまい、疑うよりも肩をすくめて済ませてしまいがちだが、たぶん、それこそトランプが望んでいることなのだろう。

トランプの行動に関して信じられないことはたくさんあるが、なかでも特に信じられないことは、共和党の誰一人として彼に立ち向かう者がいないことだ。たとえばイギリスなら、ジョンソン新首相がイギリス政府を独裁政権のように動かそうとすると、彼自身の政党でも彼に反抗する。しかし、トランプの場合は、ほんのいくつかの例外を除き、共和党議員は自身の落選を恐れるあまり何も発言しない。トランプ政権下の共和党は、アメリカや米国民の健康よりも、個人の富と権力の維持に関心があることを示している。こうしてトランプを止めることのできる唯一の人々が傍観している間に、アメリカ合衆国は週を追うごとに、まるで「トランプ株式会社」のようになっていく。

(2019年9月公開記事)

寄稿者

ジム・スミス(Jim Smith)農場経営者

1965年生まれ。アラバマの伝統的な保守派の両親のもとで生まれ育った影響から、自身も根っからの保守支持に。高校卒業後、アメリカ陸軍に入隊。特殊部隊に所属し8年軍に従事するも、怪我が原因で除隊。その後テキサス州オースティンの大学で農経営学を学び、現在は同州アマリロ近郊で牧畜を中心とする多角的な農場を営んでいる。地元の消防団に所属し、ボランティアの消防隊員としても活動するなど、社会奉仕活動多数。妻と子供3人の家族5人暮らし。

ポール・クラーク(Paul Clark)データ分析コンサルタント

1972年、オレゴン州のリベラルな街に生まれ、両親も親戚も学友も周囲は皆リベラルという環境で育つ。カリフォルニアのベイエリアにある大学へ進学し、英文学とコンピューターサイエンスを専攻。卒業後はベイエリアの複数の企業に勤務し、各種のデータ分析業務に従事。現在は家族と共にオレゴン州に在住。趣味はサッカーとクラフト・ビール造り。

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