DeNAバッテリーが振り返る「会心の1球」 守護神・三嶋がレベルアップを感じた球

DeNA・三嶋一輝【写真提供:(C)YDB】

10月16日の本拠地・巨人戦、9回2死から吉川尚輝を仕留めた膝元ストレート

シーズンを通じて、捕手は数多くの投手を相手に何千球という球を受ける。投げ込まれる球は投手によって多種多彩。試合状況を加味すれば、全く同じ球が生まれることは2度とない。それぞれの球が様々な意味を持つ中で、バッテリーの心に鮮烈な印象を残す「会心の1球」とは……。

DeNAの8年目右腕、三嶋一輝が記憶に残る1球に挙げるのは、10月16日、本拠地・巨人戦で試合を締めくくった最後の1球だ。今季途中から守護神を拝命した三嶋は、同級生キャッチャーの戸柱恭孝とコンビを組み、巨人・吉川尚輝を時速153キロのストレートで見逃し三振に仕留めた。ハマの同級生バッテリーが揃って「会心の1球」と話す、このボールについて三嶋、戸柱、それぞれのストーリーをお届けする。三嶋が語る、この1球に込めた想いを聞いてみよう。

◇ ◇ ◇

コロナ禍により開幕が遅れた今季。異例づくしのシーズンを送る中、セ・リーグは中盤から巨人が独走態勢となる。10月16日。着実に優勝マジックを減らす巨人を本拠地に迎えたDeNAは、中日、阪神との2位争いにとどまるべく、1つでも多く勝利を重ねておきたい状況だった。

カード初戦のこの日。両チームは互いに一歩も譲らず、7回までスコアボードには「0」が並んだ。そして8回、巨人が坂本勇人の犠飛で1点を先制すると、その裏にDeNAは主将・佐野恵太が同点ソロ。さらに、2死二塁から大和が右翼へタイムリー二塁打を放ち、2-1と逆転に成功。ここで9回のマウンドに上がったのが、守護神・三嶋だった。

先頭の田中俊太にいきなり右翼へ三塁打を許し、無死三塁の大ピンチ。だが、大城卓三と立岡宗一郎を続けてフォークで空振り三振に斬ると、最後は吉川尚を3球で見逃し三振。左打者を3者連続三振に斬った三嶋は、今季15セーブ目をマークした。

吉川尚との対戦を、三嶋はこう振り返る。

「最後のアウトを取るまで、それまで2人の左バッターに対してフォークを多めに使った結果、三振、三振と取ることができました。そして、吉川(尚)選手も同じ左バッターで、ボールに当てるのがすごくうまい選手。なおかつストレートが強いというデータも、もちろん頭の中に入っていました。

追い込む過程の2球はフォークを使わずに、初球はまずインコースにスライダー。ギリギリのコースをファウルにしてもらいましたが、あれも狙い通りだったんです。その後の2球目はフォークという選択肢もありました。でも、フォークという意識は頭の中のどこかにあるだろうと考えて、真っ直ぐを投げました。これがファウルになったんですが、吉川選手にしては意外と差し込まれ気味の打球だったんですね。そこで僕は『もう1球、インサイドに真っ直ぐ。高さは2球目よりも低く、もっと厳しいコースを突けば通る』と思ったんです」

吉川尚を3球三振「あそこに決めないと見逃し三振はないと思いました」

ファウルになった2球目の高めストレートを見て、決め球は膝元ギリギリに決まるストレートだと決心。「戸柱も同じ考えでした」と三嶋は頷く。

「多分、普段だったらバッターは振りにくるコースだったと思ったんですけど、そこで前のバッターの打ち取られ方を見て、フォークの意識を持っている吉川選手の裏をかけたのかなと思います。あそこは狙い通り、3球三振を取れた。戸柱と本当に同じ意識、考えを持って、意思疎通できた1球だったと思います」

1点リードの9回2死三塁、カウント0-2から三嶋が投じた膝元いっぱいに決まる153キロのストレートに、吉川は微動だにすることができなかった。「本当にすごくバットコントロールがいい選手。対戦成績はいい方だとは思っていない」という打者に対する、まさに「会心の1球」だった。

「2ストライクに追い込んだ瞬間、あそこ(膝元)に決めないと見逃し三振はないと思いました。空振り三振はあるかもしれないけど、バットに当てられると何かが起こる。だから、あそこは絶対に見逃し三振を取るという思いを込めたボールを投げました」

強い思いを込めた1球がズバリと決まって、試合終了。その瞬間、マウンド上の三嶋は両腕を天に突き上げるガッツポーズを見せた。「あまり品のない、相手に失礼なガッツポーズだったなって反省しました」と苦笑いするが、普段はポーカーフェイスを崩さない守護神が、思わず感情をむき出しにした瞬間でもあった。

「抑えたことはもちろん、しっかり配球できたことが自分の中ですごくうれしくて。力だけではなくて、ちゃんと考えて、戸柱とも意思疎通ができた共同作業での1球でした。今までできていなかったことができたので、ピッチャーとして少しレベルアップしたかなと思えて、やっぱりうれしかったですね。だから、ああいう風に両手を挙げちゃって……。戸柱にはロッカーで言われました。『甲子園で優勝したのか?』って(笑)」

走者を三塁に背負った状態からの3者三振。先頭打者に出鼻をくじかれ、そこから崩れてしまう可能性もあったが、切り替えた。

「三塁打を打たれたボールは、すごく反省しなければいけないボール。甘い球でシーズン中に同じようにやられていた配球でのスライダーでした。ただ、打たれてからは切り替えて、フォークと真っ直ぐで(勝負した)。うまく切り替えができました」

以前はうまく切り替えることができず、「どうしようもなく苦しい」時もあったという。だが、自分のやるべきことは「3アウトを取って、しっかりゲームを締める。あるいは次に繋げる」とシンプルに考え始めると、「まずい、次の打者を抑えなきゃ」というバタバタとした感情は沸かなくなった。

「準備はやり過ぎるくらいがいい」 木塚コーチに学んだ「本当に大切なこと」

バッテリーを組み始めてから5年目となる戸柱と、意思疎通ができる場面が増えたことも大きい。コミュニケーションを積み重ねてきた結果、初球の入り方、アウトを取る結果球のイメージがシンクロ。「試合終了の時に戸柱とハイタッチしながら『最後のセカンドゴロはあれでいいよね?』『あ、俺もそう思った』っていうことが結構多いので、すごくいいことだと思っています」と頷く。

守護神という大役を任されるようになったことも、三嶋に大きなやり甲斐を与えているようだ。

「9回を任されると試合を見る時間が長いので、みんなが必死で繋いできたものが見えるんです。そこを勝利で締めなきゃいけないポジションは、もちろん今でもプレッシャーはありますし、緊張もします。ただ、すごくやり甲斐を感じていますし、そこを僕に任せてくれたことをすごく意気に感じています。

9回、クローザーって中継ぎとは違う名前までついている。そこで何をしなければならないかとなった時、攻める姿勢も大切ですが、しっかり自分ができること、自分ができる打ち取り方を動揺せずにやろうという意識を持っています。もちろん悪い日もありますけど、今のところ、いい打ち取り方、抑え方をできているのかなと思いますね」

自分らしさを発揮するために、日々心掛けていることがある。それは「準備を怠らないこと」だ。それこそが、1軍の木塚敦志投手コーチに学んだ「本当に大切なこと」だという。

「周りから見たら、試合で投げるのはたった1イニングだと思うかもしれません。でも、その短い1イニング、3アウトを完璧に抑えるためには、毎日しっかり体を動かし、同じようなパフォーマンスを続けて一喜一憂しないこと。そのためには準備が一番大切なことで、準備はやり過ぎるくらいがいいと思っていますし、しっかりやっている自覚はあります」

今シーズンも残りわずかとなったが、「最後までしっかりこのポジションの役割を果たしたい」と語る声は力強い。「毎日100パーセントの準備をして、攻める気持ちを持ちながら、なおかつどのボールでどう抑えたいのか。丁寧に投げながら引き出しを増やしていきたいと思います」。こういった積み重ねが、また次なる「会心の1球」が生まれる伏線となるのだろう。
(Full-Count編集部)

© 株式会社Creative2