分裂しても変わらない魅力、一筋縄ではいかない「10cc」ってどんなバンド? 1980年 3月28日 10ccのアルバム「Look Hear?」が英国でリリースされた日

__リ・リ・リリッスン・エイティーズ ~ 80年代を聴き返す ~ Vol.11
10cc / Look Hear?__

ポップセンスとおたくセンス、真っ二つに分裂してしまった10cc

1975年、シングル「I’m Not in Love」の大ヒットと、それが収録された3rdアルバム『The Original Soundtrack』の高評価により、世界的にブレイクした “10cc” ですが、翌年の4thアルバム『How Dare You!(びっくり電話)』を経て、5thアルバムの制作中に分裂してしまいます。

デビュー以来の4人組が、だんだん、エリック・スチュワート(Eric Stewart)、グレアム・グールドマン(Graham Gouldman)のコンビと、ケヴィン・ゴドレイ(Kevin Godley)、ロル・クレーム(Lol Creme)のコンビに分かれ、何かと対立するようになっていったんです。前のコンビをA、後のコンビをBとしますと、ABそれぞれはとても仲がよく、曲も共作が多いのですが、AとBがいっしょに曲作りをすることはまずなく、ともすればお互いの曲をけなし合うような状態。Aはライブも積極的にやりたかったが、Bはスタジオに専念したかった…… など。

で、Bの2人が脱退。“Godley & Creme”として再出発し、それなりの成功を収め、また80年代にはミュージックビデオ監督としても大活躍することになります。

残ったAの2人はそのまま10ccを維持していくのですが、たとえば「I’m Not in Love」の、ポップで美しい詞曲はAの共作、独創的で壮大なあのサウンドはBのアイデア、ということでも分かるように、AのポップセンスとBのおたくセンスという、2つのベクトルが共存しているのが10ccの強みだと思っていたので、正直、分裂は残念であり、魅力は半減するだろうなと考えていました。

分裂しても維持された “10ccワールド”

ところがどっこい、その後の作品、5thアルバム『Deceptive Bends(愛ゆえに)』(1977)、6th『Bloody Tourists』(1978)も、「一筋縄ではいかないポップ」ぶりに衰えはなく、実はコンビAだけでもタダモノではことが判り、ホッとひと安心。

そして1980年にリリースされた、この7枚目のアルバム『Look Hear?』を聴いてみると、どの曲をとってもスキのない構成、細部まで手を抜かない綿密なサウンド、なおかつ親しみやすいメロディという、堂々たる「10ccワールド」が展開されています。

特にいい意味で変わらないのが “音質”。バンドは5thアルバムのあとのツアーのサポートメンバーが、6thの時には正式加入して6人組となり(なぜかドラマーが2人)、そのまま7thも制作しているので、演奏の質はずいぶん変わっているはずですが、“音質” は変わらない。エリック・スチュワート自身がエンジニアも兼ねていること、ずっと自分たちのスタジオで録音していること(スタジオ自体は5th以降移転していますが)がその理由だと思います。エリックならではの音。

実は私、この音質が好きなのです。いわゆるハイファイではなく、わりと中域に集まった、ちょっと鼻詰まりのような音。その分暖かみがあって、刺激は少ないけど勢いはある。ブリティッシュと言ってしまうと広すぎます。ビートルズから、アラン・パーソンズに引き継がれ(彼はビートルズのアシスタントエンジニアからスタートした)、“ピンク・フロイド(Pink Floyd)” や “パイロット(Pilot)” や “アラン・パーソンズ・プロジェクト(The Alan Parsons Project)” に伝わった、その手法をエリックは取り入れていたんじゃないかと思います。

何度でも聴けるのは、音質が好きだから

少なくとも私個人にとって、音質はその音楽への好悪における大きな要素になっています。ビートルズが大好きで、何度でも、聴くたびに、「やっぱりいいなぁ」とつくづく思ってしまうのには、音質が好きだということがかなりあります。同様に10ccも、まずこの音質だけでホッと安心できて、気持ちよくその音楽に浸っていくことができるのです。

もちろん、この音質だけを好きなわけじゃなく、他にもいいと思う音質のタイプ(たとえばスティーリー・ダンとか)はありますが、「音質なんかより、詞曲やアレンジでしょ」という説には賛同できません。ミュージシャンにもそういうことを言う人がけっこういますが、私には、音質が好きじゃないと(「悪いと」… とは言いません)、詞曲もアレンジもノリも、うまく入ってきません。そして、たぶんみんなも、無意識にはそう感じているはずだ、と私は信じています。

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カタリベ: 福岡智彦

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