バブル期に咲いた二輪の花、Wink「愛が止まらない」と80年代洋楽カヴァーブーム 1988年 11月16日 Winkのサードシングル「愛が止まらない」がリリースされた日

Wink「愛が止まらない」オリジナルはカイリー・ミノーグ

当時のナンバーワンアイドル、南野陽子の主演ドラマ『追いかけたいの!』が1988年10月26日にフジテレビでスタートした。ナンノはスポーツ新聞の新米記者に扮し、相手役は野村宏伸。宮沢りえの連続ドラマ初出演作品でもあった。

その主題歌としてヒットしたのが、Winkの「愛が止まらない ~Turn it into love~」である。11月16日に発売された後、徐々に売上げを伸ばし、年が替わって1989年2月13日付のオリコンでは、ついに1位を獲得するまでの大ヒットを記録した。よく見られた初登場1位から失速してゆくパターンとは異なる、アイドルとしては珍しいチャートアクションだったといえる。

オリジナルはオーストラリアのシンガーソングライター、カイリー・ミノーグ。及川眠子が日本語詞を書き、船山基紀がアレンジを施している。Wink盤のリリースから1ヶ月後にはカイリー・ミノーグ盤も日本独自でシングル・リリースされて共にヒットした。

無表情の笑わないアイドル、サードシングルで本格的ブレイク

Winkは同年4月にルベッツのカヴァー曲「Sugar Baby Love」でデビューしており、やはり南野陽子主演のドラマ『熱っぽいの!』の主題歌としてスマッシュヒットさせていた。

セカンドシングルのオリジナル曲「アマリリス」はそれほど揮わなかったものの、3枚目の「愛が止まらない」で本格的なブレイクに至ったのだった。さらに次作「涙を見せないで」もナンバーワンヒットとなり、5枚目のシングル「淋しい熱帯魚」ではレコード大賞を獲得してトップアイドルとして君臨する。

無表情で歌い “笑わないアイドル” などと言われたが、従来のアイドルらしくないクールさを前面に押し出したその戦略が功を奏したといえるだろう。後に本人たちは「完全に作られたキャラクターだった」と語っている。そこへ無機質な印象を与えるユーロビートのアレンジを鮮やかに填め込んだ船山の功績は大きい。

Winkのカヴァーに連なる伏線、BaBe「Give Me Up」

このカヴァーにはさらなる伏線があり、前年の1987年にフジテレビで放映された斉藤由貴主演のドラマ『あまえないでョ!』の主題歌に起用された新人デュオ・BaBeのデビュー曲「Give Me Up」がヒットしたことにもよる。

こちらのオリジナルはマイケル・フォーチュナティ。Winkがカヴァー曲で再びドラマ主題歌に起用されたのは、BaBeの成功を踏まえてのことでユーロビートも継承された。ちなみにBaBe「Give Me Up」の日本語詞は、Wink「Sugar Baby Love」と「アマリリス」の日本語詞と作詞を手がけた森雪之丞によるもの。

WinkやBaBe以外にも、この時期は外国曲のカヴァーがドラマ主題歌に起用されるケースが極めて多かった。

80年代洋楽カヴァーブームのきっかけ、それは大映ドラマ

木曜8時枠の『熱っぽいの!』の前番組だった『ときめきざかり』の主題歌はKAYOCO「TOY BOY」でシニータのカヴァー。そして『追いかけたいの!』が放映された水曜8時枠はそれまで大映ドラマの枠で、前番組の『ザ・スクールコップ』の主題歌は長山洋子「ロンリーグッドナイト」だった。

同枠ではほかにも、『スタア誕生』の葛城ユキ「ハートブレイカー」、『ヤヌスの鏡』の椎名恵「今夜はANGEL」、『花嫁衣裳は誰が着る』の椎名恵「愛は眠らない」などカヴァー曲の主題歌が連なっている。

大映ドラマはそれ以前からTBSでも展開されており、遡れば1983年の『スチュワーデス物語』の主題歌となった麻倉未稀「ホワット・ア・フィーリング」を皮切りに、『不良少女とよばれて』のMIE「NEVER」、『スクール☆ウォーズ』の麻倉未稀「ヒーロー」など、80年代洋楽カヴァーブームのきっかけを作ったと言っても過言ではない。

その流れもあってトレンディドラマ時代前夜の『男女7人夏物語』の石井明美「CHA-CHA-CHA」、『男女7人秋物語』の森川由加里「SHOW ME」の大ヒットへと繋がるわけで、バブル時代を彩ったユーロビートの流行に重なる。さらには90年代のパラパラ・ブームへと通ずるのだが、それはまた別の話。バブル期に咲いた可憐な二輪の花、Winkはもはや伝説のアイドルとなっている。

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カタリベ: 鈴木啓之

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