本物の路面電車でGO!!

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大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)

共同通信ワシントン支局次長

大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)

共同通信ワシントン支局次長

1973年東京都生まれ。97年に入社し、松山支局、本社経済部、ニューヨーク支局、経済部次長などを経て2020年12月から現職。運輸と旅行、国際経済の分野を長く取材。日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」の審査員を務めている。

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(上)運転体験に使った岡山電気軌道の7601形(右)と、LRTの「MOMO」=いずれも9月、岡山市の岡電車庫で、(下)運転士さんの指導を受けてマスコン、ブレーキを操作する息子

 【汐留鉄道倶楽部】「新型コロナウイルス感染防止に適した、あなただけの路面電車の運転体験教室を開催」。メールで届いた案内に、目がくぎ付けになった。差出人は岡山市で路面電車を走らせる岡山電気軌道の取締役を兼務する両備グループの山木慶子広報部長だ。

 岡電は公共交通への理解を深めてもらおうと毎年夏に2001年以降、小学生を対象に車庫内で路面電車の運転体験を開催してきた。今年夏は新型コロナ感染防止のために1回1組に限定し、大人にも門戸を開いたところ好評だったため通年で募集することにしたという。1組当たり1時間の貸し切りとし、運転士さんに添乗してもらって約50メートルを数往復する。大人1万円の参加費を支払えば、中学生までの子ども1人が無料になる。

 本物の運転士さんが指導してくれる安全な環境で、本物の路面電車で「憧れの運転士」を体験できると考えれば決して高価ではない。しかも、フジテレビジョン系列で放送中のテレビアニメ「チャギントン」に登場する機関車をイメージした岡電の車両「おかでんチャギントン」のプラレール(価格2970円)と、車庫に隣接する「おかでんミュージアム」の入場(1人千円)もおまけで付いてくるので、1人当たりの参加費は実質的に2500円だ。

 参加意欲が募り、「子鉄」の中学2年生の息子も飛びつくに違いないと確信して“見切り発車”で申し込んだ。かくして山陽新幹線で岡山駅へ駆け付け、岡電東山線の終点、東山停留所で降りて会場の岡電本社に着いた。

 出迎えてくださった山木さんと、山木さんの飼い猫で「おかでんミュージアム」館長代理を務める「SUNたまたま」にあいさつし、建物2階の受け付け場所へ向かった。

 受付で37・5度以上の熱がある場合は参加できないが、検温で私も息子も問題なかったため自腹の参加費1万円を支払った。冒頭で待ち受けていたのが、「運転士が実際に免許取得時と、3年に1度受ける適性検査を二つ受けてもらいます」というミッションだ。

 一つは制限時間内に受検者に一桁の数字をひたすら足し算をさせ、その結果を分析して作業量や精神状態を調べる内田クレペリン精神検査だ。用紙に記された横一列の数字を足し、5と3が並んでいれば合計の「8」と記し、もしも3と9が隣り合わせならば12なので一桁目の「2」を書く。

 続いて速度反応検査を受けた。装置には赤色・黄色・緑色のいずれかが表示され、対応するボタンを押す。30秒間実施した中で、息子は51回押せたが2回間違いがあり、私は44回にとどまったが失敗はなかった。両方の検査で大きなミスがなく、運転体験に進めた。

 この日の運転体験で用意されたのが、岡山の銘菓「大手まんぢゅう」の広告をラッピングした7601形だ。運用中に乗ったこともある車両で、その運転席に乗り込めることに気持ちが高ぶった。

 最初に息子が運転席に乗り込むと、隣に立った運転士さんが「ブレーキを緩めた後、マスコンのノッチを1に入れてください」と教えてくれた。息子がブレーキハンドルを回してブレーキを解除し、マスコンを回転させると「グオーン」という重厚な音色が響いた。

 これは、車軸と台車枠にモーターを吊り掛けた旧型電車に見られた構造の吊り掛け駆動方式が発する音だ。国内の電車で主力のカルダン駆動方式では聞くことができない。鉄道の音を楽しむ「音鉄」ならば駆動音を録音することも多い吊り掛け駆動方式の車両を動かせるのは貴重な体験で、「大切に取り扱わないといけない」と緊張する。

 息子がブレーキをかけると、制動がやや強かったもののほぼ停止目標位置に止めた。運転士さんが「よくできたね。他でも運転体験をしたことがあるの?」と目を丸くした。息子が「ありませんが、ゲームセンターで(タイトーの運転シミュレーションゲーム)『電車でGO!!』でたまに遊ぶので」と答えると、「『電車でGO!!』の威力、恐るべしだな」と笑っていた。

(上)最後に岡山電気軌道7601形の車内で「運転証明書」を受け取った、(下)岡山電気軌道7601形の隣で「運転証明書」を持つ筆者と息子

 息子が1往復した後、運転席に乗り込んだ。ブレーキを緩め、マスコンを入れたものの発進がぎこちない。運転士が「ブレーキを緩め、圧力計の針が200のメモリを切ったところでマスコンを入れましょう」と助言してくれ、発進のこつをつかむことができた。

 しかし、難しいのはブレーキだ。速度反応検査の結果にも現れていたように、私は慎重な面がある。車庫の奥へ走る際、隣に停車していた次世代型路面電車(LRT)「MOMO」の先頭の横に止めるように言われたが、どうしても手前で停車させてしまう。

 一方、反対方向の車庫入り口へ向かう際は、自動車が多く行き来する県道へ向かうので迫力満点だ。車道に突き進む恐れがある場合、隣の運転士さんがアシストして阻止してくれるだろうが、あくまでも非常手段とわきまえるべきだ。

 「確実に停止させないといけない」との強迫観念もあり、マスコンを早めに切って低速で走行させた。すると、目標位置の手前で止まってしまった。運転士さんは「ここは少し坂になっています」と教えてくれたが、事前に調べた上で乗務すべきなのだろう。勉強不足の“にわか運転士”ぶりを恥じた。

 本物の路面電車を運転できた満足感は大きく、最後に「運転証明書」を頂いた。「親バカ」かもしれないが、私の採点では息子が「よくできました」という合格レベルだ。対照的に、私は「もう少しがんばりましょう」の水準だったと自己採点した。

 私たちの安全、安心な移動を支えるために運転士さんたちは細心の注意を払いながら、重要な職務を遂行している。 “にわか運転士”ながら、職業体験を通じてそう改めてかみしめる貴重な機会となった。

 ☆大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)共同通信社編集局経済部次長。「この前は小学1年生のお子さんが家族と一緒に来て、1人でちゃんと運転していたわ」と両備グループの山木慶子広報部長は話していた。恐るべし!

 ※汐留鉄道倶楽部は、鉄道好きの共同通信社の記者、カメラマンが書いたコラム、エッセーです。