[ライブ配信手帖]Vol.31 V-1HD+に「プラス」されたのはプロ仕様の“機能”と“信頼性”

txt:ノダタケオ 構成:編集部

ビギナーの人にも手が届くスイッチャー「V-1HD+」

“ビデオ・スイッチャー”という言葉を耳にすると、テーブルの上にどどーんと大きく展開(設置)される、複数のカメラの映像やパソコンなどの画面を切り替えるためのたくさんのボタンが並んだ“小難しいキカイ(映像機器)”というイメージを頭の中で思い浮かぶビギナーの人はまだまだ多いのかもしれません。

いま振り返れば、私自身もライブ配信を始めたあの頃(=2010年の日本におけるライブ配信黎明期時代に)はそう感じていたわけですから、ビギナーの人たちがそのイメージを感じてしまうのは無理もないのでしょう。

でも、2015年に発売された(V-1HD+の基礎となる)Roland V-1HDは「それまで存在しなかった小型HDMIビデオ・スイッチャーというジャンルを誕生」させ、そのコンパクトさと、とっつきやすいインターフェースで“小難しいキカイ(映像機器)”というイメージを大きく変えるきっかけとなった製品であったと思うのです。

時が流れ、この5年の間に、国内外を問わず、さまざまなメーカーから小型HDMIビデオ・スイッチャー製品が発売されてきました。そんなビギナーの人たちも少しずつ、時間をかけて、小型HDMIビデオ・スイッチャーに触れる機会が生まれていきます。

そして、今年(2020年)は、企業のテレワークや、学校のオンライン授業なども一気に拡大し、YouTube Liveを中心としたライブ配信だけでなく、ZoomなどのWeb会議サービスを活用したウェビナー(オンライン上で実施されるセミナー)に注目が集まったということは皆さまがご承知のとおりです。

これによって、どちらかといえばこれまでニッチであった“ライブ配信”と、新しく登場した“ウェビナー”が大きく注目されたことによって、これらを「新しいチャレンジ」として始めるビギナーの人たちもすごい勢いで増えました。

また、中にはライブハウスのように、これまでと同じ営業ができなくなった業種もあり、やむなくライブ配信に取り組む必要が出てきたという方も多いでしょう。もうしばらくの間、こうした流れは続いていくと思います。

それらの状況を踏まえて、いま、できるだけ映像面、音声面、配信面すべてにトラブルなく、安定したライブ配信やウェビナーを実現するために試行錯誤を重ねている方も多いはずです。その一環として、ビギナーの人でも手が届きやすい“コンパクト”なHDMIビデオ・スイッチャーへ関心が集まっていると感じています。

ユーザーフィードバックを元に生まれたV-1HD+

その一方で、ライブ配信の業務を請け負う(いわゆる配信代行)人たちや、急速に盛り上がったニーズを受けて対応を始めている(これまで製品やサービスのプロモーションのための様々な映像制作を担ってきた)映像プロダクションに属するようなエキスパートが、実際の現場で手軽に、信頼して使える小型HDMIビデオ・スイッチャーは、正直なところこれまで限られていたのではないでしょうか。

先日、ローランド株式会社から発売されたHDビデオ・スイッチャー「V-1HD+(プラス)」は、2015年のV-1HDが基礎となり、「シンプルな操作性、豊富な機能を継承」を継承しつつ、「ユーザーのフィードバックを元に、様々なプロ仕様の機能を追加」した製品です。

型番だけ見ると V-1HD“+”は“V-1HDのマイナーバージョンアップ”のような控えめに見えてしまうかもしれませんが、「様々なプロ仕様の機能を追加」されただけでなく、操作性も大きく変わり、より直感的に触れることができるようになりました。

V-1HD+はライブ配信の業務を請け負う企業やフリーランスのエキスパートたちにも、「これから自社(自分たち)でライブ配信やウェビナーをはじめたい!(=始めなければならない)」と考えているビギナーの人たち“どちらにも推せる”製品であると感じています。

上位機種V-8HDに近い「様々なプロ仕様の機能」たち

ライブ配信業務を請け負う企業やフリーランスのエキスパートたちからすると、V-1HD+はV-1HDと比べてどのような「プロ仕様の機能を追加」されたのか?が最も気になる部分でしょう。

私が実際に本体を触れてみて感じた率直な感想は「V-1HD+は(私自身が普段ライブ配信の現場で使っている)上位機種のV-8HDに近い機能が実装されている」ことです。

■4分割(V-1HD)→10分割(V-1HD+)画面のマルチビュー表示

その中でも特筆すべきは「Input 1-4の4分割画面の“MULTI-VIEW”がPREVIEW端子から出力される(V-1HD)」仕様から「Input 1-4/STILL IMAGE 1-4/PREVIEW OUT/PROGRAM OUTの10分割画面の“MULTI-VIEW”がOUTPUT 1-2端子から出力できる(V-1HD+)」仕様へと変わったことでしょう。

V-1HD+ではフレームレートコンバーターを装備した4つのHDMI映像入力(Input 1-4)端子を備え、このうちInput 4端子にはスケーラーとEDIDエミュレーターが搭載されました。

また、新たに映像の背景としての使用や、DSKのソースとしてテロップの合成にも使用可能な4枚の静止画を本体内部に保存(STILL IMAGE 1-4)することができるようになり、スイッチングのソースとして再生する機能が搭載されています。

この、Input 1-4端子から入力される4つの映像入力と、STILL IMAGE 1-4へ保存された4枚の静止画をあわせた8つのソース、さらに、PREVIEW OUT(次に出力される映像)とPROGRAM OUT(最終出力映像)の2つを加えた、全部で10個の映像入出力を1つのディスプレイでまとめて確認をすることができるようになりました。

これは結果的に、スイッチングをするときのオペレーターの精神的な負担や、オペレーションのミスを軽減させる一助となることでしょう。

このほか、追加されたビデオスイッチングの機能面で触れておきたいのは「PinPとSPLITの機能強化」と「DSK機能を搭載」です。

V-1HD+ではPinP子画面のサイズ、位置、縦横比、ボーダーを自由に調整、形の選択が可能となりましたし、子画面をグリーンまたはブルーバック合成することも可能です。そして、SPLITは分割位置の調整が可能となりました。

これらはV-8HDと似た感覚で本体にあるCONTROL 1/2つまみを回したり、押しながら回すことで様々な調整を行えます。

また、DSK(ダウンストリームキーヤー)機能が搭載されたことにより、簡単にテロップの合成ができるようになりました。

PinP・SPLIT・DSKこれらの機能も活用することで、V-1HDで実現することが難しかった映像表現が気軽に利用できるようになり、また、その表現結果はマルチビューでしっかりと確認することができて便利です。

■RCA(V-1HD)→XLRの入力/TRS標準の出力端子(V-1HD+)搭載

一方、本体のリアパネルを見て真っ先に気がつくのはオーディオ機能の強化です。

V-1HD+では「XLRタイプの音声入力、TRS標準タイプの音声出力端子が備わり、業務用音響機器とバランス接続が可能となった」ことは大きなトピックと言えます。

V-1HDはRCAピン・タイプ(のL/R)のAUDIO IN端子に対し、V-1HD+では業務用音響機器とのバランス接続を可能とする2つのXLRタイプ(AUDIO IN 1-2)へ。

AUDIO IN 1-2端子の最大入力レベルは+24dBuまで対応、ライブハウスで用いられるような業務用オーディオミキサーから出力される高いレベルの音声信号をそのまま入力することができますし、マイクプリアンプを内蔵、ファンタム電源の供給もできるので、プロ仕様のコンデンサーマイクを直接接続できるようになりました。

そして、AUDIO OUT端子もV-1HDではRCAピン・タイプから、V-1HD+ではTRS標準タイプ(のL/R)へ。業務用オーディオミキサーへ音声を送り返すこともできます。

V-1HD+ではこの他にも「様々なプロ仕様の機能」が数多く備わりましたが、今回挙げたこれらの機能は、実際のライブ配信の現場において即戦力として使えるのではないでしょうか。

特に、業務用音響機器とバランス接続が可能となったパランスオーディオ入出力端子を備えている、VシリーズのHDMIビデオ・スイッチャーは(執筆時点において)V-1HD+のみ。V-1HD、V-02HD、そしてV-8HDにはない、V-1HD+だけの特徴です。

バランス信号とアンバランス信号の双方向の変換を行うレベルコンバーターを間に挟む必要がなくなることは、結果的に機材そのものの数だけでなく、変換のために必要となるケーブル類も減らすことができ、とても魅力的に感じるのです。

整理されたメニュー表示と直感的な操作性もプラス

■プロ仕様の端子が搭載されてもやっぱり“コンパクト”

先にも触れたように、V-1HD+はV-1HDの「シンプルな操作性、豊富な機能を継承」を継承しつつ、「ユーザーのフィードバックを元に、様々なプロ仕様の機能を追加」した製品です。

ライブ配信の業務を請け負う企業やフリーランスのエキスパートたちが現場で使える機能が織り込んだものとなっている一方で、小型HDMIビデオ・スイッチャーとしてのV-1HDの特徴である“コンパクトさ“はV-1HD+へも引き継がれています。

V-1HD+本体の縦、横の大きさはV-1HDとほぼ同じです。タリー出力用のTALLY端子や外部制御用のRS-232C端子、そして、XLRの音声入力/TRS標準の音声出力端子がリアパネルへ搭載されたこともあり、V-1HDと比べればV-1HD+本体の厚さは少し増しました。

それでも、化粧箱の中から取り出したV-1HD+に対する私のファーストインプレッション(第一印象)を言い表すならば…やっぱり“コンパクト”。飛行機の機内へ持ち込みが可能な小さめサイズのキャリーケースの片隅でもV-1HD+は十分収まりますし、気軽に現場へキャリーハンドできます。

■整理、洗練されたメニューも継承

V-1HD+ではメニューも整理され、設定したい項目への遷移、変更、決定の操作がとても楽になりました。こちらはV-60HD、V-02HD、V-8HDを経て、継承されたものです。

何か困ったこと(設定をしたいこと)があれば「とりあえずMENUボタン(を押す)!」というワークフローはV-1HD+でも変わりません。そして、VALUEつまみをまわしたり押したりすることでメニューを遷移し設定を変えていくところも同じです。

この部分はV-1HDとV-1HD+で比べると大きくアップデートされたひとつですが、VALUEつまみをまわしたり押したりしてメニューを遷移し、設定を変えていく操作性とメニューに慣れるのはさほど時間はかからないでしょう。

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