最終戦ではリーグ優勝した巨人相手に劇的なサヨナラ勝ち
5年間の監督生活のラストゲームを終えたラミレス監督は、満面の笑みを浮かべて報道陣の前に姿を現した。新型コロナウイルスの影響により、リモート取材が続いたシーズンで最初で最後となる試合後の囲み取材だった。
「今日のような素晴らしい勝ち方は、最後の最後に取っておいたような感じがするほど。選手が最後まで諦めないでやってくれたおかげ。何よりホームのファンの目の前でこの勝ち方ができて、すごく嬉しい」
順位が確定した消化試合とはいえ、リーグ優勝した巨人相手に、終盤までのビハインドを跳ね返してサヨナラ勝ち。最終戦で入場者上限のチケットが完売した横浜スタジアムのスタンドが最高潮まで盛り上がった劇的な試合となった。
それでもシーズンの成績は、巨人に12ゲーム差も離されての4位。昨季2位の成績と投打に充実した戦力で、優勝候補と目されたチームにとっては、惨敗とも言うべき結果に終わった。就任5年目を迎えたラミレス監督にとっては、98年以来となるリーグ制覇が至上命題のシーズンだったが、悲願を果たせなかった。
「選手もみんな一生懸命、最後まで戦った。恥じることは何もない」
新型コロナウイルスの影響により、120試合制でクライマックスシリーズ(CS)が開催されない異例のシーズンは、皮肉にも優勝のみが求められる状況となった。ラミレス監督は就任以来、ペナントレースの情勢によってプランAと名付けた優勝争いから3位狙いのプランBに変更するなど、柔軟な発想で成功を収めてきた。そんな采配がコロナ禍のイレギュラーなシーズンでは機能せず、故障者が続出したチーム事情もあり、正攻法の戦いで巨人だけでなく他のチームにも後塵を拝した。
「残念ながら目標としていた優勝には届かなかったが、我々も選手もベストを尽くした結果なので、あれこれいう必要もないし、悔いはない。選手もみんな一生懸命、最後まで戦った。恥じることは何もない」
監督として5年間、常にポジティブな姿勢を崩さなかったラミレス監督だが、最後までその姿を貫いた。
「日本で監督をやることが夢だった」というラミレス監督は「現役最後の2年間をベイスターズでプレーして、このチームの監督になって、毎年Aクラス争い、いずれは優勝争いもできるようになりたいと思った」という長年の夢を現実にした。
事実、就任1年目から3位で球団初のCS進出を果たし、2年目には3位からCSを勝ち抜いて日本シリーズ出場も果たした。昨季は最後に優勝した98年以降、最高位となる2位にもなった。20000年以降、最下位が10回のチームを5年間で3度、CS出場に導いたラミレス監督の手腕をフロントも評価する。三原球団代表は「球団として、見たことがない景色まで連れていってくれた監督」と評し、南場オーナーも「負けることが当たり前ではない、今年の順位が悔しいと、ここまで進歩させた貢献度は大きい。戦えるチームにしてくれて、ワンステップ上がったことは間違いない」と、球団史上初となる外国人監督に感謝した。
来季にブレーク期待の選手は「敢えて名前を挙げるとすれば神里」
ラミレス監督の抜擢から首位打者に輝いた宮崎や、今季復活を果たした梶谷など野手の育成、相馬眼も評価が高い。その中でも最も印象に残っている選手として名前を挙げたのは、やはり今年大ブレイクを果たしたあの選手だった。
「佐野を4番打者、そしてキャプテンに抜擢したことは、5年間監督をやってきた中でも、ベストな決断だったと思う。プレッシャーは相当なものだったと思うが、彼なら克服してくれると信じていた。まさか首位打者を取るとは思っていなかったが、これを続けていけば、歴代でもベストプレーヤーになれるぐらいの力を持っている」
試合前に行われる会見などでも、たびたび「今日は○○が活躍する気がする」「○○は今日あたりに本塁打が出るのではないか」などと予言し、的中することも多かった指揮官が最後に来季以降、ブレークしそうな選手の名前も挙げた。
「いい選手はたくさんいるが、敢えて名前を挙げるとすれば神里。守備や走塁面でも、まだ修正すべき点はあるが、ポテンシャルは非常に高い。打撃でも3割3分ぐらいの打率を残せる技術は持っている。そうなるとタイトルの可能性も出てくる」
ラミレス監督の5年間で、低迷が続いていたチームが頂点を本気で目指せる位置まで上がったことは間違いない。志なかばでの退任となったが、夢は次の監督に託す。
「私は本当に負けず嫌いで、常に勝ちたいと思って5年間、監督をやってきた。残念ながら優勝はできなかったが、次の監督がこの夢を叶えてくれると信じている。これからはベイスターズファンの一人として、日本一のファンの皆さんと一緒に応援していきたい」
囲み取材の最後にはVサインで決まり文句である「バモス!」と叫んで満面の笑顔を見せたラミレス監督。時には奇抜とも思える采配で批判されることもあったが、様々な点でベイスターズを変えた“ラミレス劇場”が、ひとまず幕を閉じた。(大久保泰伸 / Yasunobu Okubo)