【レースフォーカス】大接戦となったバレンシアの優勝争いを制したモルビデリ。2021年に駆るマシンは/MotoGP第14戦

 MotoGP第14戦バレンシアGPは、ジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)のチャンピオン獲得がセンセーショナルに話題をさらった。一方、バレンシアGPには注目したいトピックスがいくつもある。今回はそれらのトピックスを見ていきたい。

■最終ラップまでの大接戦となった優勝争いと、モルビデリが2021年に駆るマシン

 バレンシアGPの決勝レースは最終ラップのフィニッシュラインまで大接戦が繰り広げられた。その役者はフランコ・モルビデリ(ペトロナス・ヤマハSRT)、そしてジャック・ミラー(プラマック・レーシング)だ。

 モルビデリはポールポジションからスタートすると、レース終盤までトップを守っていた。しかし、1秒ほどの差で2番手につけていたミラーが終盤に入ってその差を詰めていき、残り2周でほぼその差がなくなった。最終ラップにさしかかるメインストレートでは加速に勝るドゥカティ デスモセディチGP20を生かして前に出ると、1コーナーのブレーキングでミラーがモルビデリの前に出る。

 しかしすぐさまモルビデリがトップを奪い返し、さらにミラーがオーバーテイクを仕掛け……と、激しい優勝争いが展開された。ミラーはこのバトルについて「すべてのエイペックスでインサイドに入ろうとしたし、11コーナーではすごく接近した」と振り返っている。最終コーナーを先頭で立ち上がったモルビデリはミラーを振り切り、0.093秒というほんのわずかの差で勝利を手にしたのだった。

 モルビデリはレース後の会見で最終ラップの攻防について問われると「あまりよく覚えていないんだ。でも、何がなんでも前に出ると思ったのは覚えているよ」と語り、「自分のMotoGPにおけるベストレースだったと思う。すごく、すごくいいリズムを刻んだし、最後にはとても素晴らしいバトルをした。間違いなくベストレースだ」とも振り返った。

 これまでタイトル争いを意識したコメントをしてきたモルビデリは、予選後の会見でも「可能性は少ないかもしれないけれど、タイトルを目指す」と語っていた。決勝レースでは大接戦を制して、自身が出しうる最上の結果を手にしたのである。チャンピオンはミルが獲得したが、モルビデリはチャンピオンシップのランキングで2番手に浮上した。また、シーズン3勝目となり、チームメイトであるファビオ・クアルタラロと勝利数でも並んだ。

2020年MotoGP第14戦バレンシアGP フランコ・モルビデリ(ペトロナス・ヤマハSRT)

 そんなモルビデリ、2021年シーズンも引き続きペトロナス・ヤマハSRTから参戦するが、来季も引き続き2019年型YZR-M1を駆ることが決まっているという。予選後の会見でこれについて問われたときにそれを認めた。なお、2021年シーズンはコンセッション(優遇措置)を受けないマニュファクチャラーの場合、2020年に承認を受けたエンジンでシーズンを戦うことになる。

 2019年型と2020年型にの違いについて、ロッシはこれまで「(2020年型と)あまり大きな違いはない」と言い、一方、クアルタラロは「2020年型と2019年型のバイクは大きく違っている」と、異なる見解を示している。

 さて、タイトルを争っていたクアルタラロについて触れておきたい。クアルタラロはバレンシアGPを11番グリッドからスタートした。タイトル争いを展開するミルはすぐ後方の12番グリッド。クアルタラロは1周目に2コーナーでオーバーランを喫して後退すると、9周目には転倒。リタイアという結果でチャンピオンシップをも失った。

「2コーナーではブレーキが遅すぎた。マーベリック(・ビニャーレス)に接近しすぎて、アウトに行ってしまった。そして転倒したときは、前のライダーのコーナリングスピードが速かったので、同じようにしようとして転倒してしまった」

 クアルタラロはバレンシアGPの初日、「大きな変更をしたにもかかわらず、フィーリングが変わらなかった。これはおかしい」と訴えていた。思うようなフィーリングが得られず、予選では4列目からのスタートとなり、無理な走りをせざるをえなかったのかもしれない。

■KTMの3ライダーがトップ6に

 バレンシアGPでは、ポル・エスパルガロ(レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング)が3位表彰台を獲得。後半戦で苦しい結果が続いていたブラッド・ビンダー(レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング)が久々の躍進を見せて5位、ミゲール・オリベイラ(レッドブルKTMテック3)が6位フィニッシュを果たした。オリベイラは序盤、中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)と4番手争いを展開するシーンも見せていた。

 P.エスパルガロはレース中盤、中上と3番手争いを展開した。19周目には最終コーナーで中上がP.エスパルガロのインに入った。しかし、中上はここでクラッシュ。目の前で起きた転倒だったが、幸いにもP.エスパルガロは中上との接触を避けることができた。ただ、このあとに1秒をロスしたという。「このアクシデントでの(避けられた)幸運をヘルメットのなかで感じ、まだ信じられず、さらに0.5秒失ってしまった。ナーバスになってしまったから」なのだとか。

 ともあれ、P.エスパルガロは今季5度目の3位獲得した。2020年シーズン、こうしてKTM勢が上位フィニッシュを果たすことはすでに珍しくなくなってきてもいる。レッドブル・KTM・ファクトリーレーシングとしては、第14戦バレンシアGP終了時点で、チームランキング3番手。チームタイトルはチーム・スズキ・エクスターに決まっているが、2番手につけるペトロナス・ヤマハSRTとは21ポイント差だ。

 P.エスパルガロは決勝後の会見でこうした結果について問われると、「(第6戦からの)9レースで5度の表彰台を獲得している、現実じゃないみたいだ。それを実現するために4年間懸命に取り組んできた。夢のようだね」と語っていた。

■中上、優勝を目指して喫した転倒

 すでにKTMのトピックスで触れた通り、中上は決勝レース19周目に転倒を喫してバレンシアGPを終えた。予選では3番グリッドを獲得。今季4度目、3戦連続のフロントロウに並んだ。第12戦テルエルGPではポールポジションからスタートして1周目で転倒。第13戦ヨーロッパGPでは3番グリッドからスタートして、レース序盤から中盤のペースを抑えすぎたために表彰台を逃した。バレンシアGPでは3度目の正直なるか、と思われた。

 ヨーロッパGPの反省を生かすように、一度は5番手にまで落としたポジションを10周目には回復して4番手に浮上。その前の3番手を走るのはヨーロッパGPと同じくP.エスパルガロで、2秒ほどの差も前戦と同じだった。そこから追い上げ、18周目を終えるころには0.2秒ほどにその差を縮める。前戦と同じ轍は踏まない。そんなレースを展開していた。

 しかし、19周目、最終コーナーでP.エスパルガロのインを突いたそのとき、フロントが切れ込んだ。わずかなバンプに乗ってしまったのだという。

2020年MotoGP第14戦バレンシアGP 中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)

「言えることは何もありません。すべてコントロールできていたんです」。レース後、中上は何度も「コントロールできていた」という言葉を口にした。

「バイクもよく、ギャップも詰めていました。セクター4の長い左コーナー(13コーナー)では誰よりも速くコントロールできていて、ポルを最終コーナーでオーバーテイクできると思っていたんです。先週はタイヤをセーブしすぎて、攻めるのが遅すぎたので、今回は、もしオーバーテイクができるのなら、待たない、アグレッシブに行く、と思っていました」

「でも、あのとき、フロントを失いました。どうしてクラッシュしたのかわかりません。ブレーキングもそんなにきつすぎなかったし、遅くもなかったと思います」

「表彰台ではなくて、優勝を目指していました」と中上は言う。2020年シーズンの躍進は疑いようがない。表彰台の頂点に臨んだ今回の強い意志が、最終戦に最上の結果をもたらすことを期待したい。

■Moto3クラスでタイトル争いを展開する小椋藍

 こちらはMoto3クラスの話題である。小椋藍(Honda Team Asia)がこのクラスでチャンピオン争いを繰り広げている。シーズン序盤からコンスタントに表彰台を獲得し、ランキングトップ、または2番手を維持してきた。

 後半戦に入りやや苦戦を強いられているが、前戦ヨーロッパGPで表彰台に返り咲き。ただ、バレンシアGPでは表彰台を争うトップ集団から引き離され、8位でフィニッシュ。ランキング2番手は変わらないものの、チャンピオンシップでランキングトップにつけるアルベルト・アレナス(Gaviota Aspar Team Moto3)が4位フィニッシュを果たしたことで、ポイント差は8ポイントに広がった。

 小椋がチャンピオンを獲得するには、最終戦ポルトガルGPで2位以上の結果を出したいところ。3位以下でもアレナスの結果によってはチャンピオン獲得となるが、あまり現実的ではないだろう……もちろん、レースでは何が起こるかわからないが。小椋が優勝した場合、アレナスが3位以下、小椋が2位の場合、アレナスが5位以下で小椋がタイトルを獲得。一方、アレナスは2位以上でチャンピオンが決まる。

 二輪ロードレース世界選手権でチャンピオンを獲得した最後の日本人ライダーは、2009年250ccクラスのタイトルに輝いた青山博一。現在小椋が所属するHonda Team Asiaの監督である。ポルトガルGPでは小椋のタイトル争いに注目したいところだ。

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