政権は新型コロナ「抑えた」

安倍晋三前首相インタビュー(1)

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 安倍晋三前首相が8月28日に急きょ退陣表明してから約2カ月半。新型コロナウイルス対応、長期政権の総括、安倍外交の成果などについて11月12日、議員会館の事務所で幅広く話を聞いた。(共同通信=倉本義孝ほか)=4回続き

インタビューに答える安倍前首相=11月12日、国会で撮影

―引退後、体調はどうですか。

 新しい免疫抑制剤は5割の確率で効くと言われていた。これが大変よく効いて、正常値までは来た。1回2時間ぐらいかかる点滴を、最初は1週間後にやって、次は3週間後かな。そして、次に6週間で、今8週間に変え、をあと数回やれば、治療が一通り終わる。だからあと半年ぐらいはかかるかな。

―政権の最終盤には、新型コロナウイルスへの対応に追われ続けましたね。感染拡大に伴う緊急事態宣言の発令時の判断について、詳しくうかがいます。4月7日が発令日となりました。何をきっかけに、いつごろから危機感を抱いて決断したのですか。

 まず、特措法の権限について、考えを整理したい。原子力災害特措法にしろ、特定非常災害特措法にしろ、中央に権限を集中する。しかし、新型コロナウイルス特措法は、むしろ権限が地方に散るわけだ。だから強制力は欧米のものとは違う。ということは、最悪の事態は緊急事態宣言を出して、かつ空振りになることだと考えた。

 だから、国民への強制力に乏しい。その要請を守ってもらう必要があるということであれば、国民的にもこれは緊急事態宣言が必要だという認識が高まらないといけないという風に考えた。首相官邸の中には強い慎重論と、早く出すべきだという考え方の両論があった。

 強制力に乏しい要請ベースの、今のわが国の特措法だったとしても、緊急事態宣言を出せば、経済に与える影響は非常に大きなものがあることは容易に想像できた。そこで、当初から重症者の数と死者の数に注目しながら、重症化を防ぐことを中心に政策を政権として進めていった。

 重症化を抑えて医療崩壊を絶対に防がないといけないということもある中で、時期について、判断した。あの段階のわれわれの持ち得た知見の中で、あのタイミングだった。ある程度、緊急事態宣言が必要だという国民的な認識が高まるという観点からは、だいたいうまく合ったのではないか。

 もちろん、ピークがもっと早かったという議論があることは十分に承知している。

 ▽ロックダウンはできない

―民間臨時調査会の報告書には、3月28日、29日ごろに、首相から西村康稔担当相に緊急事態宣言を「早めに出したほうがいい雰囲気だよな」という発言があったと記されています。本当にそのような発言をしたのですか。

 タイミングを考えないといけない状況になった。緊急事態宣言は、出さずに終わるということはないと思っていた。

―4月以降は『早く出せないか』という指示を出していたと聞いています。最終的に4月7日になりました。休業要請の対象や、経済対策を考え、7日になったのですか。

 当然、それはいろいろな準備は必要ですしね。

 あと、小池百合子東京都知事を非難するために言っているわけではないが、彼女はロックダウンという表現を使った。強制力を持つ都市封鎖であるロックダウンは、法律がないので、できないわけだ。さらに、ああいうことをできるようにしろという意見があったが、経済にも計り知れない影響がある。

 ロックダウンという誤解があると、例えば、東京から一気に人が出る可能性があった。パニックになって、一気にモノが、いろいろな生活必需品が消えていくという可能性があったわけだから、そうでないということをよく理解してもらう必要があった。

 小池さんがロックダウンを言い始めてから、むしろ私は「それはできないのだ」と意図的に答弁するようにした。

新型コロナウイルスに関する記者会見を終え、引き揚げる東京都の小池百合子知事=3月23日、東京都庁

―小池都知事がロックダウンについて3月23日に言及した後、27日には、首相も「仮にロックダウンのような事態を招けば甚大な影響を及ぼす…」と、答弁していたと記憶しています。

 ロックダウンはできないというのは分かっている。国会での質問に対して、そう言っているわけですよ。「ロックダウンのような事態を招けば」と言っているのであって、ロックダウンができないということを答弁していると思うけどね。

―引き締めを図ったと受け止めていました。

 だから、これは「ロックダウンのような」という話を言っているんだよね。ロックダウンできないということは分かっているわけだから、これは小池さんと同じようなことを言っているわけではない。

 彼女はロックダウンという言葉を明確に発言した。私はロックダウンのような事態を招けば大変な事態に陥ると、ロックダウンを避けるために、質問に対して答えている。

―誤解を解くための発言だったのですか。

 うん。このとき官邸では「ロックダウンはできないじゃないか」と、みんなで話題にしていたから。

―小池都知事のロックダウン発言がなければ、緊急事態宣言をもう1週間早められたという言い方をする人もいます。

 ほかの官邸のスタッフは、そう思った人もいるかもしないが、それはなかなか、どうなのかなあ。重症者と死者の数を見れば、私は、その1週間が決定的なものだとは、どちらにしろ思わない。

記者会見で新型コロナウイルス特措法に基づく緊急事態宣言の一部解除を表明し、質問に答える安倍首相(右)=5月、首相官邸

 ▽経済への打撃は計り知れず

―4月7日になったのは、直接きっかけがあったというより、重症者や死者数を精査しながら、準備の期間があったからでしょうか。

 要するに、緊急事態宣言は経済に大きな打撃を与える。だから、そのあんばい。よく「経済か命か」という議論を聞くが、経済も命に関係あって、自殺者の数と相関関係にある。

 自殺者との関係においてね。経済に、例えば1%の経済打撃が出れば、どれぐらい自殺者が出るということは、今既に、これは明らかになっている。

 だから、そこでいけば、内閣府が8月に発表した2020年4~6月期の国内総生産(GDP、季節調整値)速報値の年率換算は、日本はマイナス27%。例えばニュージーランドはうまくいっているといっても、マイナス44%なんだよね。5割が吹っ飛んでいる。

 じゃあコロナによる死者の数、8月時点でみると、日本は100万人当たり8人だけど、ニュージーランドは5人ですよね。向こうは半分、吹っ飛んでいて、日本は27%で、EUはマイナス約40%ですよね。だから、そこを考えれば、そのあんばいをどうするかという意味においては、安倍政権はある程度、これは対応できたのではないか。

―結果論ですが、欧州からの入国者の水際対策が遅れたという評価もあります。

 あの時、結構既に多くの日本人は欧州に行っていた。この人たちの入国を止めるわけにいかない。修学旅行なんかも含めてね。その中で、どう対応するか。今から言えば、あのとき止めておけば、完全に欧州からのコロナ感染を止めることができたかというと、これは分からない。だから、これはもう少し後になって考えないといけないと思う。しかし、それは早めに止めるべきだったかどうかは、よく専門的に分析をしていただければと思う。

 だけど、どの時点、どこからの人を止められるか、ということなんですけどね。既に多くの人が欧州に駐在もしているし、武漢のオペレーションでは、武漢にいる日本人を全部帰しましたよね。欧州ではそんなことはどちらにしろ、できないわけです。

 当時の日本のPCR検査の能力からいっても。経済に対する打撃は計り知れないものがあった。緊急事態宣言後は事実あった。だから、そういうのを勘案しながら、そのときは判断しているということだ。

記者会見する西村経済再生相=11日午後、東京・永田町

 ▽緊急事態宣言で結果出した

―記者会見などのリスクコミュニケーション、国民への発信の内容や頻度を含めて、いろいろな意見がありました。

 基本的には西村康稔担当大臣が対応した。私も相当回数、国民への発信を行った。リスクコミュニケーションができていない、ということはない。

 強制力のないものではあるが、事実、緊急事態宣言を出すことで、結果を出すことができている。だから、何回も申し上げるようだけど、8月1日の時点では、日本の死者は100万人当たり8人。例えば、英国なんかは100万人あたり678人になっていて、米国は460人、ドイツですら109人だから、桁が違う。私たち安倍政権は、新型コロナウイルスを抑えることができたと思う。

 日本は、死者を100万人あたり8人に抑えつつ、経済の打撃をマイナス27%に抑えた。

 今から考えれば「あの時そうやっておけば良かった」というのはいくらだってありますよ。それは。ただそのとき、果たして、それができたかどうかということは分からない。

 欧州からの入国を早期に止めて、それに伴う事態に対応できたか。十分な対策がないままに、経済に相当の影響が一気にくるということにもなったのだろう。

▽検査態勢整備は不十分

―後悔や反省点はありませんか。

 私が、あのときやってなかった、やらなくてよかったとか言っているわけでは全然ない。今から思えば、やっておけばよかったかもしれないとは、それぞれのね、緊急事態宣言をもっと早く出せたかもしれないとも。ただいろいろな条件を考える中において、あの時はベストの判断をしたのではないか。

―記者会見では、検査態勢整備はちゃんとやっているとのことだったが、実際はなかなか首相がおっしゃった数字に上がるのに、タイムラグがありました。

 それは反省点ですね。新型インフルエンザの時に、他の国は結構、整備していた。検査態勢をね。日本の場合は、非常にうまくいったものだから。その時、抑え込みがうまくいったものだから、今回は対策が不十分だったかもしれない。

―役所の縦割り、直接的に言えば、厚生労働省の対応に問題はなかったでしょうか。

 全てに責任を負う者として、それぞれの役所の責任にする気持ちはありません。ただやはり、今後の大きな反省点だとは思います。政府全体として、検査態勢を十分に整えられなかったということはね。

 ▽五輪はコロナに打ち勝つ証

―東京五輪・パラリンピックを、2021年夏に延期した。世界にどういうメッセージを発していきたいですか。

 コロナ禍の中、今も欧米で大変感染者が増える中、依然として厳しい状況にはあります。同時に、ワクチンの開発が進み、国際的な接種が来年進んでいくことも期待される。やはり人類がコロナウイルスに打ち勝った証として、オリンピック・パラリンピックを成功させる。この強い意志の下に、準備を進めて成功させたいと思う。IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長も、そのことを確信していると思う。観客をどうしていくかというのは、コロナ対策次第なのだろう。

東京五輪のメインスタジアム、国立競技場=7月

―大会組織委員会の森喜朗会長は、新ポストを用意し「安倍さんの五輪にしたい」と言っているが。

 まあ、個人が実施することではない。

―名誉最高顧問みたいな肩書で五輪外交に関しても、積極的に展開していく形になるのか。

 それは、基本的には菅義偉首相がされることですから。

―首相をサポートするようなことは。

 まずは、主役は菅首相。その中で、まあ、古い友人の方々が来られればね。相手方の時間があれば、お目にかかればと思いますね。

(共同通信=倉本義孝、小笠原慎二、蒔田浩平、杉田雄心、編集は西野秀)

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