強まる中国政府の弾圧

日本国籍取得の動き加速 在日ウイグル人

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 理由のない拘束に移動の制限―。イスラム教徒が多い中国新疆ウイグル自治区で治安維持を目的とした同国政府による弾圧が深刻化している。2千人以上いるとされる在日ウイグル人の間では、帰国を諦め日本国籍を取得する動きが加速しつつある。「祖国の家族を案じ、生まれ故郷を失う苦しみを分かってほしい」と悲痛な声も。ただ日本にいても中国政府関係者とみられる影が忍び寄る。(共同通信=上松亮介)

 ▽故郷なのに…

 「もう日本しか居場所はない」。首都圏に暮らす30代のウイグル人男性会社員は約6年前、一時帰国した時、こうした思いを強くした。生まれ故郷のウルムチでは自動小銃で武装した警察官がそこかしこで目を光らせ、別の町に移動する際は漢民族であれば受けることがない身分証の提示や、滞在理由の説明を必ず求められた。「生まれ故郷なのに滞在許可証がないとバスにすら乗れない。日本で自由な生き方を知ってしまった自分には耐えられなかった」。

取材に応じたウイグル人男性=10月

 2002年に大学で経済を学ぶため留学で来日。卒業後そのまま就職したものの、いずれ帰国し、漢方薬の原料や食品の輸出入を手掛ける貿易会社を起こしたいと夢見てきた。だが、一時帰国した時の経験や激しさを増す弾圧を伝え聞き、日本にとどまらざるを得ないと考えるようになった。17年には親戚4人が理由なく収容所に入れられ、しばらく留め置かれた。

 現在は幼い子ども3人を養い、勤め先では企画力を認められ部長職まで昇進。中国語が堪能な社員として、中国出張も期待されているが、法務省に申請中の国籍取得はなかなか許可が下りない。一方で中国のパスポートのままだと拘束される可能性もあり、いら立ちは隠せないでいる。

 「国という支えてくれるものがないと、命を守ることさえ難しい。祖国という存在の大切さは誰よりも分かっているつもりです」。取材中、男性の顔は終始曇ったままだった。

 ▽高いハードル

 昨年、在日ウイグル人でつくる「日本ウイグル協会」が86世帯に行ったアンケートでは「困っていること」について、多くが「家族の安否を確認できない」と回答し、また約9割が日本国籍取得を希望。近年は官報の日本国籍を取得した人の欄でもウイグル人特有の長い漢字名を多数確認できる。弾圧がひどくなったとされる17年より前は、在日ウイグル人の間で永住権取得について話題に上がることがあったが、最近は協会に国籍取得に関する相談が多く寄せられるという。

 ただ、法務省に国籍取得を申請する際、国籍や家族関係を示す中国政府発行の証明書などを提出する必要があり、在日ウイグル人にとっては高いハードルだ。同協会によると、在日中国大使館で証明書を発行してもらえないケースが相次ぎ、現地から取り寄せる必要がある書類についても、代理で取得しようとする家族が当局に尋問されたり、拘束されたりする恐れがある。

 実際、法務省には「国籍取得申請の事実を当局に知られると、現地家族に危険が及ぶ」と訴える声が多く寄せられているという。同省担当者は必要書類を用意できない申請者については事情を聴き取り、個別に対応していると配慮をにじませる。

中国当局による弾圧に抗議し、デモ行進する在日ウイグル人ら=10月

 ▽当局の影

 だが、日本に暮らしていても、中国当局の影は忍び寄る。日本国籍を取得し、首都圏で暮らす30代の自営業男性は約2年前、中国政府関係者とみられる男に電話で在日ウイグル人の動向を報告するよう要求された。漢民族ながら流ちょうなウイグル語を操り、両親の写真を送りつけ「高齢の彼らに迷惑かけないで」と物柔らかに話す男に底知れぬ恐怖と怒りを覚えた。その後も男は頻繁に連絡をよこし、情報提供を迫ったという。

 同様のケースは日本ウイグル協会が把握するだけで10件以上。社会人や留学生など立場を問わず、取材に応じた多くのウイグル人は当局関係者とみられる人物から連絡があったと証言する。だが、密告を恐れるウイグル人同士で当局の話は共有されにくく、実数はもっと多いとみられる。同協会のアフメット・レテプ副会長(43)は「新疆ウイグル自治区と聞くと、遠い国の話に聞こえるかもしれないが、日本国内でも人権問題が実際に起きている。日本政府には中国に強い姿勢を示してほしい」と訴える。 

取材に応じたウイグル人男性=10月

 □取材を終えて

 「名前を出すと、現地の家族が…」。取材に応じた多くのウイグル人が日本に暮らしていながらも、忍び寄る中国当局の影におびえていた。読者にとって、遠く離れた新疆ウイグル自治区の話を理解する上で必要不可欠と考える年齢や名前を、影響を考えて伏せざるを得ないことに、事態の深刻さを改めて痛感した。