島原市のこれから 古川市政3期目へ<上>「防災」 住民主導の体制 急務

安中地区で15日にあった避難訓練。後方は、崩壊の懸念が拭えない溶岩ドーム=島原市鎌田町

 長崎県島原市長選は現職の古川隆三郎氏(64)の無投票3選が決まった。同市は島原半島の中核都市だが、人口減少の波が容赦なく押し寄せ、災害という不安と隣り合わせの日々も続く。古川市政3期目の現状と課題を考える。(島原支局・大田裕)
 「日本一の自主防災会をつくる」。雲仙・普賢岳噴火災害で、消防団員ら43人が犠牲になった1991年6月3日の大火砕流から来年、30年の節目を迎えるのを前に、古川氏が今回の市長選で掲げた新たな目標だ。
 15日午前、雲仙・普賢岳の噴火活動で形成された溶岩ドームを望む安中地区では、住民が学校や公民館に向かっていた。約1億立方メートルもの規模で不安定に堆積する溶岩ドームが、地震によって崩壊の恐れがあるとの想定で訓練を実施。自力移動が難しい要支援者の家庭訪問などもあった。
 大火砕流で甚大な被害に遭った同地区の訓練は、2014年に市が主催。以降は住民主導に切り替え、19年からは自主防災会が担う。拭えない崩壊の懸念を背景に、横田哲夫会長(70)は「行政任せでは意識が弱い。自主防災会が立ち上がることで、住民一人一人の災害に対する備えの意識が高まった」と話す。
 市によると、市内の65歳以上の高齢化率は35.06%(10月末時点)。43人の犠牲者を出した大火砕流前の1991年3月(16.17%)に比べ、約19ポイントも上昇した。市は今後、避難時に支援を必要とする人が市内全域でさらに増えてくる、と危機感を募らせる。
 逆に災害対応に当たる市の職員数は約360人(11月現在)で、この約30年間で約100人減少。旧南高有明町との合併で行政区域も広がり、市担当者は「職員だけでは対応できないケースも出てくる。災害時の避難活動は住民同士の協力が不可欠」と指摘する。
 市は昨年度、消防・警察経験者らを町内会単位で代表に据え、地域防災力の向上を図る自主防災会の強化に着手。なり手不足で町内会長らが兼務し、形骸化が進む現状改善に向け、まず安中地区に働き掛け、33ある自主防災会の会長を専任化。災害時の避難誘導など中心的役割を担ってもらう。
 特別警報級の台風10号が接近した9月、同市の避難者は最多で2100人超。避難所20カ所の運営に市職員約140人が従事。この避難者数は、7208人(91年9月)に上った噴火災害時に次ぐ数で、「今回は事前に準備ができたが、限られた人員では大地震など突発災害の対応は困難」(市担当者)。行政主体の対応が、限界に来ていることが浮き彫りとなった。
 大規模災害が頻発する近年、住民主体の対策が急務となっている。先進地視察や研修会への協力を進めた結果、専任の自主防災会長が誕生したのは現在、市内225町内会・自治会のうち56団体。市全域への同会長の専任拡大が課題だ。

© 株式会社長崎新聞社