【大阪都構想住民投票】畠山理仁の現地ルポ! 有権者は選挙の度に試される(1)

私には投票する権利がない。しかし、どうしても気になる。これまで選挙の度に訪ねてきたこともあり、我慢できずに大阪へと向かった。

大阪市役所

目的は一つ。11月1日(日)に大阪市で行なわれる住民投票を見るためだ。
今回の住民投票の正式名称は「大阪市を廃止し特別区を設置することについての投票」という。大阪維新の会が主導してきた、いわゆる「都構想」の是非を問うものだ。

大阪以外の人は忘れているかもしれない。大阪維新の会の関係者は忘れたいと思っているかもしれない。だから、あえて書く。大阪都構想に関する住民投票は、2015年5月にも行なわれた。その結果は「反対多数」であった。

当時、大阪維新の会の代表であり、大阪市長でもあった橋下徹氏は「大阪がひとつになるラストチャンス」と訴えて「都構想」の住民投票に臨んでいた。大事なことなので強調しておく。橋下氏は最初から「ラストチャンス」とはっきり言っていた。「ラストチャンスの日本語訳は、誰がどう考えても「最後の機会」である。

2014年、タウンミーティングを行う橋下徹氏

2015年に行なわれた住民投票の結果は「反対」70万5585票、「賛成」69万4844票だった。僅差ながらも答えは一つ。大阪市の有権者は都構想に「反対」の意思を表明した。

この住民投票結果を受け、橋下氏は政界を引退した。当時を振り返るために、その時の橋下氏の言葉を再録しておこう。

「大変重く受け止めます。僕が提案した大阪都構想、市民の皆さんに受け入れられなかったということで、やっぱり、間違っていたということになるんでしょうね」
「政治家は、もう僕は、僕の人生からも終了です」

普通ならここで都構想は終わるはずだ。しかし、大阪維新の会は「都構想」をあきらめなかった。

2015年の住民投票終了時には、「結果を重く受け止める」と謙虚な態度を取っていた。しかし、「大阪都構想否決」から約半年後に行なわれた大阪府知事選挙と大阪市長選挙では「都構想をバージョンアップさせる」と訴えて選挙を戦った。

その結果、大阪府知事に松井一郎氏、大阪市長に吉村洋文氏が当選した。大阪の有権者が大阪維新の会の二人を首長に選んだことで、再び「都構想」は復活することになった。

2015年の大阪ダブル選挙。橋下氏の後継として吉村氏が市長に当選

2度目の都構想が頓挫しそうになった2019年には異例の事態も起きている。松井一郎大阪府知事と吉村洋文大阪市長(いずれも当時)が任期途中でダブル辞任したのだ。

この時、大阪府知事だった松井氏が大阪市長選挙に、大阪市長だった吉村氏が大阪府知事選挙に立候補する「クロス選挙」をしかけてまで「都構想」にこだわった。クロス選挙にしたのは任期を伸ばすためだ。クロス選挙に臨むにあたり、松井氏も吉村氏も「公明党に裏切られた」と明言し、公明党との対決姿勢を鮮明にした。

このダブル選挙で大阪維新の会は圧倒的な強さを見せつけた。それにより、これまで都構想に反対してきた公明党の協力を取り付けることに成功した。そして、またしても「ラストチャンス」と叫んで2020年の住民投票にこぎつけた。

筆者は2度目の住民投票に至るまでの経緯をかなり端折って書いている。その上で、話を簡単にまとめてみる。

大阪維新の会は「負けを認める」と言いながら、看板をかけかえて「都構想」にこだわり続けてきた。大阪の有権者は、そんな大阪維新の会を選挙で勝たせ続けてきた。毎日新聞の報道(https://mainichi.jp/articles/20201101/k00/00m/040/162000c )によれば、2013年4月以降、都構想関連の事務には少なくとも100億円を超える府市の公金がつぎ込まれてきたという。大阪の人たちはそれを許容してきたのである。

そして迎えた今回の住民投票。賛成派、反対派は、それぞれ投票を呼びかける運動を街中で活発に展開した。その結果、またしても「大阪都構想」は否決された。

投票率は62.35%。開票結果は「反対」が69万2996票(50.63%)、「賛成」が67万5829票(49.37%)。この結果には法的拘束力があり、僅差でも否決された事実は重い。

11月1日夜、「反対多数が確実」と判明した後の記者会見で、松井氏は市長としての任期満了をもって政界を引退すると明言した。吉村氏は進退を明らかにしなかったが「都構想は間違っていた」「3度目はない」と断言した。松井・吉村両氏の「敗戦の弁」は、2015年に橋下氏が発した言葉をなぞるようなものだった。

「あまりにも似ている」
 この記者会見の場で両氏の言葉を聞いた筆者は思った。
「簡単にあきらめるはずがない」

2020年11月1日投票結果判明後の記者会見

本記事は複数部構成です。続きはこちら>>【大阪都構想住民投票】畠山理仁の現地ルポ! 有権者は選挙の度に試される(2)

 

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