【薬剤師養成検討会】医師会・宮川氏が文科省に「薬学生総量適正化」の意思質す/過剰養成懸念に一石

【2020.11.25配信】厚生労働省は11月25日、薬剤師需給や教育の問題を議論する「第4回薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」を開催した。同検討会はテーマが多岐にわたるため、現在、個別テーマごとの議論を進めている最中。今回は「薬学教育」がテーマ。現状と課題について広範な議論が交わされた一方、日本医師会常任理事の宮川政昭氏が文部科学省に対し、薬学部定員を適正化する意思があるかどうかを質す場面があった。これに対し、文科省は、「現状は規制する対象ではない」と回答。その上で、「医師の需給が議論され、それに応じた養成が話し合われるので、その流れの中で薬剤師に関しても国が方向性を示すのであれば可能性はゼロではない」と見解を示した。

帝京大学井上副学長「発展途上で完成ではない」

今回は「薬学教育」のテーマに関して、出席した三人の参考人が資料を提出。三人からの資料説明ののち、質疑応答となった。

井上氏は、薬学教育6年制導入までの過程を振り返り、「ヒトを対象とする薬物治療に直結する学問、実学としての医療薬学、幅広い教養、患者とのコミュニケーション能力、問題発見・解決型能力、倫理観などの育成を目指すために悪戦苦闘してきた」と話した。 特に実務実習が皆無だった薬学部もあった中、「すべての薬学部に実務実習を求める体制整備には相当な苦労があった」とした。

2009年には文科省で「文科省・薬系人材養成の在り方検討会」が発足。「この検討会では『6年制によって何が変わったのか見えない』という指摘を多くいただいた。これがコアカリキュラムの改訂にもつながっていった」(井上氏)。

モデル・コアカリキュラム改訂では卒業時に必要とされる資質を分かりやすくし、学習成果基盤型教育を推進してきた。
評価機構も設立されたが、「発展途上にあって完成には至っていないと思う」との見方を示した。

薬物療法における実践的能力に関しては、「“主体的に”という言葉が入るなど、従来のどちらかというと受動的であったものが能動的になっているほか、平成25年のモデル・コアカリキュラムでは、“医師に対し、薬剤の種類、投与量、投与方法、投与期間等の変更を提案出来る”とするなど、はるかに前進した内容になっている」(井上氏)との見解を示した。

このようにモデル・コアカリキュラムが充実されている一方、コアカリキュラムの項目が1000以上と多いため、それ以外の大学固有のカリキュラム(30%)による個性が発揮されていないことは問題視した。

モデル・コアカリキュラム自体も改善の余地はあるとした。「今でいえば、薬機法の改正やAIの進展の中で薬剤師の役割も相当変わる。そういったところからコアカリキュラムを改善していく方向もあると思う。公衆衛生の項目も乏しかったという反省もある」(井上氏)

さらに、現場感覚のある教員の不足にも危機感を示した。「現場に出たことがない教員もいることは大きな課題。大学と医療機関との相互連携により教員が医療現場を知ることが重要」と話した。
教員数の確保については、「国公立はクリアしているが、私立は経営の問題もあり、できていない」と指摘した。

薬局実習の評価、薬局と大学で乖離

2人目の参考人は、名古屋市立大学大学院薬学研究科教授の鈴木匡氏(薬学実務実習に関する連絡会議 副座長、病院・薬局実務実習東海地区調整機構 委員長)だ。

鈴木氏は「薬学実務実習の現状と今後の展望」について話した。

実習の内容は充実してきているとした。「以前は処方箋調剤ばかりという薬局実習もあったが、かなりの薬局施設で薬物治療の評価やセルフメディケーション支援、在宅療法支援、地域包括ケア、学校薬剤師の活動などが行われている。一方、重複なく効率化するために病院では、薬局にはない注射剤調剤やDI業務などを中心に行われている」(鈴木氏)。

施設の“作業”ではなく、行っている業務の“意義”を教えてもらうよう要請しているとし、「医薬品が実際に患者さんに使われることで緊張感、責任感、心構えを醸成していく」と実習の意味を話した。

こうした参加・体験型の実習を実施することができたかどうかを聞いたアンケート(2019年度)では、実習を行った薬局(2514施設)では「全員実施」の回答が高い比率を占める一方、学生から意見を聞いた大学側の評価(75学部)では、「全員実施」の回答は極めて少なく、「90%以上実施」の回答も、半数以下、項目によっては5%程度と、薬局の自己評価と大学の評価に大きな乖離がある。

鈴木氏は、「学生の評価が厳しめになっている結果だが、学生はもっと学びたかったという思いではないか。今は改善傾向になっていると感じている」と話した。

一方、大学の役割については、薬局や病院から学生の実習にかなう能力を身に着けていたかという調査に対し、コミュニケーション能力や薬学の基礎能力が足りなかったとする声が挙がっているとした。

「実習の定性的な評価を学生にフィードバックすることで、学生に成長を実感する進め方が重要。実務実習からの評価は大学にとってみれば、学生の臨床能力を評価できる唯一の場だ」(鈴木氏)と指摘した。参加型を推進するには、例えば、実習に出る薬学生に資格を与えるなどの制度も必要との考えを示した。

私見と断った上で、「お手伝いになっている実習施設もみられる。薬学生のロールモデルになれるような施設の充実が必要であるとともに、大学側が積極的に関与すべきだ」と提案した。
従来はなかった実務実習開始によって、大学と医療機関・薬局との連携が広がっていることには評価をし、大学と医療機関・薬局で共同で講座を開いたり、共同研究などが生まれていることを紹介した。

薬学教育評価では5大学が「評価継続」

3人目の参考人は、大阪大学大学院薬学研究科教授の平田收正氏。

平田氏は2つのテーマで説明。1つは大学院教育で、2つ目が薬学教育評価についてだ。

1つ目の大学院教育に関しては、大学において教育研究を行う教員の養成のためにも重要な位置づけとなるが、現状は需要数に対して不足している。平田氏の推計によると、全国の薬学部で年に200人の助教候補者が必要になるというが、このうち、薬剤師の免許を持った教員は4分の1、薬学部出身の教員は2分の1しかいないという。

大学院の充実においては、大阪大学大学院の試みとして、「新全6年制」を紹介。薬学部4年生ののちに大学院修士課程4年を積み、その後、薬学部5・6年制に戻るプログラムとなっている。この間、学費支援なども行う。このプログラムはまだ実施2年目のため、成果を論じることはできないが、大学院拡充の一つの案として注目される。

2つ目のテーマの薬学教育評価については、、薬学教育評価機構が全学部の評価を行った第1期が終了している段階で、来年度から2期目に入るという。

1期目の結果は、「適合」が69大学で、一部に問題があり判定を保留している「評価継続」が5大学、「不適合」はなかったという。

平田氏は1期目はプログラムの評価が行われたが、2期目には「質やアウトカム」を行うような内容にしていきたいと話した。

COML山口氏「教員数確保難しい中で学生は多い」

3人の参考人の説明のあと、質疑応答が行われた。

井上氏は、変化については難しい面があるが、発展途上でもっと努力をする必要があると回答。

処方提案については、「モデル・コアカリキュラムはあくまで理念として、望ましい姿を記載している」とした上で、「実際の現場で薬剤師さんが積極的に(医師に)提言をしていうかというと非常に限られた先生がやっているのではないか。医師との関係にもよるし、医師が受け入れてくれないということもあるだろうし、気持ちとしてはこういった方向性にしたいということになる」と話した。
教員数の確保については、教員の数を増やして密度を高めることが理想であるものの、経営の問題からなかか達成できていないとの見解を述べた。

名古屋市立大学大学院薬学研究科教授の鈴木匡氏は、医師への処方提案と実習との連携に関連して追加発言し、「薬学教育で求める基本的な資質10のうち7つは実習に関わるもの。検査値が見られる処方箋なども出てきており、疑義照会だけの実習から大きく変化している」と指摘した。

野木氏「学生に何かしらの免許を」

日本精神科病院協会副会長の野木渡氏は、参加型実習の拡充に向けて、研修医でも学生が対応することに不信感を示す患者もいることから、薬学の実務実習でも「何かしらの免許を持った人がほしい」と述べた。「薬局で仕事がない時は売り子をしている学生もおり、保護者からすれば授業料を払わないといけないのかという思いもある。実習をしっかり評価していかなければいけない」と述べた。

井上氏は、「実習に出る薬学生に資格を与えてもらえたらいいというのは、まさにその通りで医師でもスチューデント医師などの議論がある」と話し、賛意を示した。

ここで、日本薬剤師会副会長の安部好弘氏は発言を求め、野木氏の“売り子”という言葉に対し、「地域の薬局はOTC医薬品販売を通して相談に乗っていることもあり、そういったセルフメディケーションの取り組みが保護者の方からすれば“売り子”という表現になった可能性もある」と理解を求めた。

武田氏「数のマッチングを今一度しっかり」

日本病院薬剤師会副会長の武田泰生氏は、自身の鹿児島の例を紹介し、「鹿児島県には県内に薬学部がなく、実習は(鹿児島県出身の学生を受け入れる)“ふるさと実習”になる。そうすると、地域の患者さんたちは、いつか地元で薬剤師の人に活躍してほしいという思いから協力的」と話した。その上で、「鹿児島県内の受け入れ施設では、受け入れ可能数に学生数が半分も満たっていない。そう考えると、実習の期間を1年にするなど、延長する議論の余地はあるのか」と提言した。

これに対し、井上氏は、「毎年1万人近い学生をすべて1年間受け入れることは、実際の医療機関側の体制としてもすぐにできることではなく、カリキュラムも現状の基礎や卒業研究の時間を削ることになる。時間ではなく、質を上げることが先決ではないか」と回答した。

武田氏は「指導薬剤師の養成も進んでいるので、数のマッチングをもう一度、しっかりやっていただきたい」と指摘した。

名古屋市立大の鈴木氏は、一律的な期間延長には慎重な立場を示しつつも、実務実習の枠にこだわらず臨床を学ぶ機会を増やすことはあってよいとの考えを示した。例えば、名古屋市立大では、アドバンスドで実務実習が終わった学生が地域医療を学んでいるという。

NPhA藤井氏「実習施設の評価をしてほしい」

日本保険薬局協会常務理事の藤井江美氏(アイセイ薬局社長)は、実習先の評価をすべきとの考えを示した。「受け入れ施設として反省する意味でも、実習施設に対する評価はあるのか。受けた学生の印象の調査結果で薬局側との乖離があった。実習施設の評価基準はあるのか教えてほしい」と話した。

これに対し、「実習施設の評価はない」との現状が説明された。大学側が学生からの意見を施設にフィードバックすることになっているというが、これにも明確な評価基準はないという。

医師会・宮川氏「現実的な話を」

日本医師会常任理事の宮川政昭氏は「教育の質の転換はすばらしい方向性と感銘を受けた」とした上で、「現実的な話をするべき」と切り出した。

これに対し、オブザーバーとして出席していた文科省高等教育局医学教育課長の丸山浩氏は、「少なくとも現状は定員を抑制する対象になっていない」と回答。薬学部を設置したい大学の申請があり、基準が満たされていれば認可していくしかないと説明した。

「別の分野、例えば医師では需給分科会で医師をどの程度養成すべきかの議論があり、こうした流れの中で(薬学部も)行われるのであれば、規制をかけていくことも可能性としてゼロではない。国がどう方向を示すか次第だ」(丸山氏)と話した。

宮川氏は再度、「規制ではなく、適正化だと思う。文科省として、薬剤師の需給データを求めているということでよいか」と質問。文科省は、「まずはそういう議論が必要ということ」と回答した。

これに対し、座長の西島正弘氏(薬学教育評価機構理事長)は、「この検討会が重要な意味を持つ。これから頑張っていきたい」と発言した。

実習先の評価基準確立を

今回の検討会では、薬学教育6年制導入に関わってきた参考人の話を聞くことができ、歴史を振り返ることができる場となった。

ここで改めて分かったことは、実習を必須としなかった4年制から6年制に移行する際に、実習先の調整で関係者は多大な苦労をしてきたことだ。そこに改めて敬意を表したい。

一方で、6年制導入の意義が常に問われてきた歴史も分かった。井上氏が指摘したように、「発展途上であり完全ではない」のが現状であり、改善を繰り返していく丹念な作業が必要だ。それには厚労省、文科省、大学、実習先である薬局・医療機関、評価機構等々、幅広い関係者の意欲が欠かせない。加えて、現場ですでに働いている薬剤師が多大な関心を寄せ、意見を発信していくことも国が方針を定める際には不可欠になるだろう。

現状の課題は、実習の拡充やそこに向けた具体的な施策の導入、さらには薬学部自体の学生総量規制だろう。

まず、実習の拡充について。

6年制の意義を可視化するために、定められたのが、「薬学部6年卒業時に必要とされている資質」であり、その7割が実習に関わることだとされた。

鈴木 匡氏は、2019年度改訂版コアカリに基づく実務実習の実施状況等アンケート調査(連絡会議資料)として、薬局側と大学側の評価に乖離があることについて、「学生はもっと学びたいという思いがあるのだろう」と解釈したが、ここはもっと深刻に受け止めるべきではないか。

驚いたのは、実習の評価はベーシックな評価基準がないという。評価が薬学教育評価機構もプログラムの評価に比重が置かれており、基本は大学の自主点検に基づくという。実習先の評価基準を早急に定めるべきではないか。

加えていうならば、6年制の実習先の評価基準がオーソライズされていない現状下で、卒後研修を義務化することなど、不可能ではないのか。「お手伝いの実習施設がみられる」という参考人の懸念を払しょくしない限りは、有効な卒後研修の担保はされておらず、あまりにも未来の薬剤師への負荷だけが重い結果にならないだろうか。
活躍する後進を思うのであれば、まずは現行の実習の中身の質の担保・改善が先決ではないだろうか。今回、以前の検討会に続いて、「スチューデント医師」の紹介がされた。これは、学生に資格を与えることで、実習中での医療への参加を深めるための施策だ。薬学部でも、まずはこうした施策で卒業前の実習を拡充する余地がある。

さらに、実習先のマッチングの見直しも必要だ。鹿児島県では受け入れ可能数に、半分以上の余地があるという。“ふるさと実習”をもっと活用することも一案だろう。

これに関連し、日本保険薬局協会の藤井氏が実習先も評価の必要性を提案したことは、理にかなっている。
こうした受け入れ側から能動的に評価の必要性を働きかけ、仕組化していくことは望ましい姿ではないだろうか。

藤井氏の提案が単なる意見を聞いただけに終わらず、具体的な仕組みが議論される展開を望みたい。

関連して、心配なのは、高校生が薬学部を選ぶとき、評価機構の判定が「適合」がほとんどで、残りは「評価継続」という結果であるのは、参考になるのだろうかということだ。3つの結果だけではなく、10段階評価などで受験生にとって参考となる評価公表は必要ではないのだろうか。経営の問題から教員数拡充に二の足を踏んでいる現状も紹介されたが、大学にも市場原理が働く以上、教員数と学生数の密度などの尺度も評価基軸に入れることはできないのか。一方、最大の受験生の関心は国試合格率だというが、ストレート合格率を大学として提示していない場合もあり、提示を推奨する必要もあるのではないか。ただし、どのような客観指標を開示しても、それが“自然淘汰”には進みづらい独特の背景があるとの指摘もある。「通常であれば合格率の低い学部に進学する意欲は低下するにもかかわらず、親が薬局を経営している場合、子供の偏差値と比べわずかでも薬剤師になれる可能性のある薬学部に進学してしまい、通常の市場原理、自然淘汰が進まない薬学部独自の背景がある」との意見も聞かれる。

次に、薬学生の総量規制について。

日医の宮川氏が文科省の意向を質したのは、この検討会の第1回から提示されてきた薬学生総量規制の問題をうやむやにしない意味でも大きな意味を持つ。
今後、薬剤師の需給調査公表ののちに、あるべき薬剤師の養成数と適正化が現実的に進むことを期待したい。

なお、今回から参加となった日本チェーンドラッグストア協会副会長(榊原 栄一氏)からは特段の発言はなかった。

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