<社説>嘉手納新格納庫 沖縄の空は住民のものだ

 沖縄の空は一体誰のものなのか。住民のものである空を米軍は都合のよい訓練場所と勘違いしていないか。その振る舞いに強い疑念を抱く。

 米空軍嘉手納基地内に米海兵隊の格納庫が新設された。明示こそしていないが、発表では最新鋭ステルス戦闘機F35Bの運用を示唆している。

 F35Bは戦闘機の中でも特に騒音が激しい。2019年5月に岩国基地(山口県)から普天間飛行場に飛来した際は、宜野湾市大謝名の測定器で過去最高となる124.5デシベルを記録した。人間の聴覚の限界に迫るレベルとされる。

 配備が現実となれば、嘉手納基地周辺の騒音激化は避けられない。過去にF35Bが訓練した伊江島も同様だ。明らかに基地負担が増加する。

 菅義偉首相は初の所信表明演説で「沖縄の基地負担軽減に取り組む」と述べた。ならば日本政府は米側に説明を求めるだけでなく、負担軽減に逆行するF35Bを配備しないよう要求すべきだ。

 嘉手納基地周辺の騒音は既に暮らしを破壊するレベルに達している。県の19年度調査では、嘉手納基地周辺の19測定局中、6局で環境基準値を超えた。日米政府が合意した騒音防止協定で飛行が制限される午後10時から午前6時の騒音発生は月平均で70回前後起きている。

 同年度の沖縄防衛局調査でも同じ時間帯に1172回の離着陸を確認している。月平均97回の夜間騒音が発生したことになる。単純計算でも毎日3回は騒音によって住民の安眠が破られたことになる。

 米軍が滑走路を改修した伊江島には何度もF35Bが飛来している。訓練激化は火を見るより明らかだ。

 「よき隣人」を掲げる米軍はこのような状態をどう捉えているのか。今回の格納庫建設に伴う発表は、こう述べている。「(陸海空軍の連携を強化し)最高の訓練空域を提供する」「沖縄での統合作戦の新時代を切り開いた」

 米軍機が飛ぶ空の下には住民の生活があり、騒音や事故の危険におびえる。にもかかわらず、訓練を優先し、軍の論理を振りかざす。住民は視野に入っていない。とても「隣人」と呼べる存在ではない。

 軍事優先の意識は今回の対応でも顕著だ。新格納庫建設に当たり、米側は日本政府、県、周辺自治体に事前連絡をしなかった。嘉手納飛行場に関する三市町連絡協議会の首長が一様に「地元への配慮がない」と反発するのは当然だ。

 新格納庫の建設やF35B配備の背景には、東・南シナ海で挑発的行動を続ける中国へのけん制があるとされる。

 だが大国のはざまで翻弄(ほんろう)されるのは基地が集中する私たちの住む島だ。有事の際は軍事基地が真っ先に目標となり、軍は住民を守らない。75年前の戦争から得た教訓だ。

 軍の論理を最優先し、住民を無視し続けるのであれば、米軍機は沖縄の空を飛ぶ資格がない。

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