「医療崩壊の瀬戸際」大阪で何が

吉村知事に高まる批判

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 大阪府で新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。人口当たりの新規感染者数や療養者数などの指標は東京を上回り、「医療崩壊」の懸念が高まる。

 春の緊急事態宣言時には、全国に先駆けた対応で評価を上げた吉村洋文知事だが、今回はなぜ抑え込むことができていないのか。医療現場の声に耳を傾けると、瀬戸際に追い込まれている状況が浮かび上がった。(共同通信=大野雅仁、山本大樹)

新型コロナウイルスの対策本部会議で発言する大阪府の吉村知事=11月20日

 ▽「至る所でクラスター」

 「病床はほぼ埋まり、重症用は一杯の状況が続く。医療崩壊の一歩手前だ」。大阪市立総合医療センター(同市都島区)の白野倫徳医長は危機感をあらわにする。大阪府の感染症指定医療機関である同センターは、府内で感染が広がり始めた春先から感染者対応の中核を担ってきた。

大阪市立総合医療センターの白野倫徳医長

 7~8月の「第2波」では、あらかじめ病床を多めに確保していたが、秋からの「第3波」は「準備をする間もなく、急激に患者が増えた」と語る。今後は一部の病棟を閉鎖してマンパワーを新型コロナ対応に集中させる方針で、綱渡りの運営が続いている状況だ。

 命に関わる重篤な疾患や外傷の患者を受け入れる3次救急医療機関でもあるが、白野医長は「新型コロナ以外の救急患者の受け入れや、急ぎでない手術は制限せざるを得ない」と苦しい内情を明かす。

 大阪府病院協会の佐々木洋会長は「介護施設など重症化リスクが高い場所だけでなく、至る所でクラスター(感染者集団)が発生している。ウイルスが持ち込まれた経路も特定できていない」と現状の危うさを指摘する。

 ▽後手に回った行政

 府内の新規感染者数は10月下旬から増加傾向に転じたが、府の対策には遅れが目立つ。吉村知事は11月中旬まで「一人一人が感染対策の意識を高めることが最も有効な手段」と強調し、特別な対策を取ってこなかった。

 府は1日の新規感染者が370人に上った11月20日に開いた対策本部会議で、府民に対し「宴会や会食は4人以下、2時間以内」とするよう呼び掛けることを決定。ただ、北海道で始まっていた時短営業の再要請については「重症病床の使用率が50%になれば考える」(吉村氏)と慎重姿勢を崩さなかった。

 背景にあったのは経済的な影響の懸念だ。府庁内では部局間で温度差があった。医療機関との調整に当たる健康医療部は「地域や世代を問わず、感染が広がっている」と強く警鐘を鳴らしたが、政府の「Go To キャンペーン」などで回復基調にある経済状況に冷や水を浴びさせる時短や休業の要請は「そう簡単にはできない」(府幹部)との意見に押し戻された。

 事態が急変したのは11月21日からの3連休だ。同日の新規感染者は415人、翌22日は490人と、ハイペースで過去最多の更新が続いた。吉村氏が時短営業要請の目安とした重症病床使用率は23日時点で47・6%まで上昇。府は急きょ連休明けの24日にも対策本部会議を開き、大阪市北区と中央区の飲食店などを対象に午後9時までの時短営業を要請する方針を決めた。

 記者団の取材に「病床の積み上げより重症者が増えるペースが速かった」と焦りの色を見せた吉村氏。もっと早い段階で対策を打てなかったのかと問われると「感染がどれくらい増えるかは誰にも予測できない。(判断は)難しかった」と釈明した。医療関係者からは「対応が遅すぎる」と強い批判が上がった。

飲食店などへの時短営業要請を決めた大阪府の新型コロナウイルス対策本部会議=11月24日

 ▽病床使用率86・7%

 大阪府が新型コロナの重症者向けに確保している病床は最大206床。毎日公表する使用率はこれを分母にして算出している。ただ、206床の中には現在、別の傷病の患者が使っている病床も含まれており、これらを除き実際に使える病床に限定すると、11月末時点の使用率は86・7%に跳ね上がる。

 とりわけ心筋梗塞や脳卒中の患者が増える冬場は、感染者向けの病床を確保するのが難しくなる。府の担当者は「重症者は新規感染者のピークより遅れて増えてくる」と語り、年末年始にかけて予断を許さない状況が続く。

 医療提供体制の逼迫を受け、府は11月下旬に吉村知事名で医療機関向けの緊急要請を出した。①新型コロナの受け入れ病院で入院・治療後、他人にうつす心配がなくなれば、最初にかかった病院に戻す②回復傾向にある高齢者には積極的に療養病院に移ってもらう―ことなどを呼び掛ける内容だ。それでも重症病床が足りなくなった場合は、緊急避難的に中等症の受け入れ病院で重症者を診てもらうことを検討している。

 ▽看護師が足りない

 府が「最後の切り札」とするのが「大阪コロナ重症センター」だ。府立病院機構が運営する「大阪急性期・総合医療センター」の敷地内にプレハブ施設を建て、新型コロナの重症者だけを受け入れる。計画している全60床のうち、第1期分の30床が11月30日に完成した。

大阪コロナ重症センター=11月27日、大阪市住吉区

 ただ、設備は整ったものの、患者の受け入れに必要な医療従事者は確保のめどが立っていない。重症者への対応は専門知識や経験が求められるが、全国的な感染拡大で「人材の取り合いになっている」(松井一郎大阪市長)ためだ。

大阪府医師会の茂松茂人会長

 人手不足が特に深刻なのが看護師だ。大阪府看護協会の高橋弘枝会長は「元々、慢性的に不足していたところへコロナ対応が重なった。業務の激増で休職者や退職者が相次ぎ、現場の負担がさらに増す悪循環に陥っている」と説明する。

 何としてでも看護師をかき集めたい大阪府は、他府県への協力要請や、自衛隊への災害派遣要請も検討しているが、大阪府医師会の茂松茂人会長は「以前から、病床は余っていても運営するスタッフが足りていないと言ってきた。ずっと議論してきたのに、慌てて対策を講じても遅い」と府の対応を批判する。

 ▽13%が「うつ症状」 

 現場の負担は限界を迎えている。府が5~7月、新型コロナ対応に当たる医療従事者約1200人を対象に実施した調査では、13%が「中等度以上のうつ症状」とされた。担当者は「第2波、第3波の対応を経て、もっと増えている可能性もある」と推察する。感染者対応の最前線では、多忙な業務に加え自身の感染リスクもつきまとう。府内の医療機関に勤めるある女性看護師は「一度でも院内感染が起きれば大問題になる。緊張感がずっと続いている」とため息をつく。

 看護協会の高橋会長は「防護具を着用しての活動は過酷。今なお、子どもが保育園で別室にされるといった差別に遭う人もいる」と話す。医師会の茂松会長も現場の窮状をこう訴えた。「人手がぎりぎりで夜間や休日もない。長期の対応で疲れ切っていて限界だ。このままでは救える命も救えなくなる」