<社説>ハンセン病家族法1年 差別解消が真の解決だ

 国の誤った隔離政策などにより差別に苦しむハンセン病元患者の家族に対する補償法施行から11月で1年がたった。しかし、推計される補償対象者約2万4千人対し、11月13日時点の申請受け付けは6431人、認定は5885人で2割強にとどまる。 厚生労働省の担当者は新型コロナウイルス禍で必要書類の入手に支障が出ているとの見方を示すが、専門家や当事者は根強い差別や偏見が原因だと指摘する。

 厳しい差別や偏見に遭うのではないかと、申請自体におびえや迷いがある。これは、補償法を作っても根本的解決に至っていないことを物語る。法整備だけではなく社会での差別の解消こそが肝要だ。

 背景には、国と社会が一体となって元患者を差別した歴史がある。国は1996年のらい予防法廃止まで元患者らを療養所に隔離した。2001年、元患者による国家賠償請求訴訟で熊本地裁は隔離政策を違憲と判断、国は控訴を断念し謝罪した。その後、補償と検証は進んだが、家族の問題は取り残された。

 差別に苦しむ家族は16年に集団提訴し、熊本地裁は19年に国の責任を認め賠償を命じた。国は再び控訴を断念し謝罪した。同年、議員立法で家族補償法が施行された。元患者の親子や配偶者らに1人180万円、きょうだいらに130万円の支給が始まった。

 しかし支給は滞っている。その理由について訴訟の原告弁護士は「身内に元患者がいることを家族にも伝えていない人もいる。『秘密が明らかになってしまう可能性があるのに、この程度の金額なら』と思い、ためらうケースは多い」と解説する。

 実際、家族訴訟の原告の大半が匿名だ。元患者の存在を隠そうとすることで家族関係は切り裂かれた。家族は「患者予備軍」として就学や結婚、就職を拒まれ、家庭を築くことも難しかった。

 全国13の国立療養所で暮らす元患者は1090人、平均年齢は5月現在で86.3歳だ。被害の回復と家族関係修復に残された時間は少ない。

 市民を対象にした内閣府の世論調査では、回答者の3割近くが2017年時点でも元患者や家族への差別的言動はあると指摘している。補償法の請求期限は24年11月まで。政府や自治体は専門的相談窓口を設けるなど家族が申請しやすい環境をつくるべきだ。

 同時に、ハンセン病の元患者や家族にとどまらず、差別のない社会を目指す啓発活動を一層強化する必要がある。と言うのも、感染症を巡る人々の差別は決して過去の問題ではないからだ。

 新型コロナ感染者やその家族、医療従事者らに強い偏見や差別の目が向けられている現状が、その問題の根深さを証明している。ハンセン病差別の過ちを、教訓として今に生かす必要がある。行政任せにせず社会全体で差別解消に取り組む時だ。

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