LMP1時代の終焉と、新たな“ハイパーカー”の到来/スペイン人ライターのWEC便り

 11月12~14日に、バーレーンのバーレーン・インターナショナル・サーキットで行なわれた2019/2020年WEC世界耐久選手権の最終戦バーレーン8時間レースをもってLMP1クラスが終了となり、2021年シーズンから新たに『ハイパーカー』クラスとなる。スペイン在住のフリーライター、アレックス・ガルシアがLMP1クラスの思い出と新たに始まる新規定について語る。
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 17年におよぶLMP1の歴史は11月中旬で終わりを迎えた。バーレーン8時間レースでは、2台のトヨタTS050がWEC世界耐久選手権で最後の戦いをした。それは長いものだった。というのは、LMP1レギュレーションは、ル・マン24時間の歴史のなかでも最も長く続いた一連のルールのひとつなのだ。2021年シーズンからはハイパーカーをベースとしたLMHとIMSAによって2022年から採用予定のLMDhレギュレーションとともに、将来の展望は明るく非常に興味深い。しかし私はLMP1クラスのマシンでレースをもう見ることがないと思うと、一抹の寂しさを感じざるを得ない。

 すべては2004年に始まった。その時にル・マンとスポーツカーレギュレーションを完璧なものにする大きな一歩が踏み出されたのだ。数年の間、ACO(フランス西部自動車クラブ)とFIAは完璧な形式を見いだすのに苦戦していた。LMP900はGTPとトラックを共有しており、ルールの点では非常に似ていることが分かった。またSR1もあった。基本的に同じクラスとして始まったが、自滅への道を歩み始めていた。この時の世界耐久レースは、将来への明確な道筋を持ち合わせていなかったのだ。その事実に加えて、LMP675が全面的な勝利を収めるだろうと予想されており、対処が困難な状況が残された。

 結局、ACOとFIAは一番単純な解決策を選んだ。それは素晴らしい名案となった。LMP1とLMP2を、“ル・マン・プロトタイプ”として第一と第二のクラスにしたのだ。分かりやすい名前と意味だ。LMP1は大規模マニュファクチャラーのもので、彼らのパワフルなマシンと全面的な勝利を目指すものだ。一方LMP2はプライベーターにとって完璧だった。彼らのエンジンは小さく、クラス優勝を目指して戦う。そうしてLMP1は明確な前進を見せた。そのために多くの異なるシャシーがこのクラスのために製作された。

 合計すると、約70種類のLMP1モデルがあった。そのうちの一部はLMP1クラスに適用された以前のレギュレーションに準じて製作されたものだ。一方で、他には“シンプルな”進化を見せたアウディ・R18やアウディ・R18ウルトラのようなマシンもある。結局、完全に異なるモデルの実際の数は60種近くにもおよぶ。このことは、モータースポーツの世界がそれほど楽ではない時代に、非常に成功したレギュレーションが描かれたことを表している。少なくとも、このレギュレーション一式を創り出すことになったアイディアは正しかったことが示されている。

 しかし、残念ながら、LMP1クラスの参戦モデルとマニュファクチャラーの数が危険なほどに減少していることを数字が示している。この7年にあったのはたった13の異なるモデルで、マニュファクチャラーの数はかつてないほど少ない。トヨタ、ポルシェ、アウディはこの10年間の伝説的なレースによって、LMP1クラスの顔として最もよく記憶されることになった。一方でニッサンが2015年に一度だけ出場したことは、かえって悪い理由で歴史に残るだろう。ただそのことによってLMP1は、参戦自体が非常に高コストなものになっていたという証明になるだろう。

 そうしたことはすべて真実だとしても、アウディとプジョーの間の偉大なバトルをどうして忘れられようか?2011年のル・マン24時間レースは信じられないくらいの接戦で終わった。ハイブリッドマシンの初登場。トヨタの参戦。WEC世界耐久選手権はプロトタイプレースをかつてないほど人気のあるものにした。そして過去3年におよぶドイツ勢の戦い(トヨタGRヨーロッパはドイツのケルンにある)。私たちは過去17年にわたって本当に数多くの素晴らしい瞬間を目撃してきた!そして、これからは、新たな“ハイパーカー”を歓迎する時だ。

 これはエキサイティングな節目であり、私はトヨタと他のマニュファクチャラーが、時機が来た時に何を明らかにするのかを楽しみにしている。ACOとFIAは、これがLMP1クラスの最高の要素と、GT1クラスのような過去の最高のレギュレーションが混ざったものにし、一方で比較的手頃なコストを実現することを望んでいる。LMP1クラスが誕生した時のように、成功への要素はそこにあるようだ。過去数年で世界は大きく変わり、耐久レースが変化に適応することを学ぶことが重要だ。私たちの前にあるものが、何年もの間私たちに夢を見させてくれることを確信している。

 1998年にル・マンに行った時、私は現代のマシンがGT1ほどにエキサイティングになることは不可能だと思っていた。そうしたマシンが私の心の特別な位置を占めていたことは事実だ。しかしLMP900とLMP1クラスは素晴らしかった。これらのマシンは、ル・マン・プロトタイプがどういうものであるかというイメージを再構築した。そしてその時、私は特にトヨタ、ポルシェ、アウディの三者のバトルと、サルト・サーキットでの印象深いラップタイムを生で見ることができて幸せだった。

 そしてこの記事を終わらせるのに良いニュースがひとつある。私が、LMP1マシンのレースをふたたび見ることはないと言ったのを覚えているだろうか?それは厳密に言えば真実ではない。なぜなら2021年に、アルピーヌが『アルピーヌ・エンデュランス・チーム』としてロゴを付け替えたレベリオンR13のLMP1マシンでWECに参戦するからだ。私は目を離さないでいる!

レベリオン・レーシングの1号車レベリオンR13・ギブソン 2020年WEC第7戦ル・マン24時間

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