『35歳の少女』ドラマを通して名作『モモ』が鳴らす警鐘とは?

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柴咲コウ主演・遊川和彦脚本、毎週土曜日よる10時放送中の日本テレビ系土曜ドラマ『35歳の少女』。先週の第8話では、家族と結人(坂口健太郎)の前から姿を消した望美(柴咲コウ)が、動画サイトを使って“時間”の売買を斡旋するYouTuberになっていた……。

25年の眠りから覚め、変わってしまった家族や好きな人、そして社会の現状を理解できず不安に苛まれる望美を常に支えてきたのは、愛読書の『モモ』。1973年に岩波書店から刊行され世界中の人に愛される児童書で、主人公の少女・モモが、時間どろぼうからみんなの時間を取り戻す話を描いている。その描写は2020年の私たちが読んでも新鮮であり、時を超えて「現代を映し出している」とも言われる名著だ。その『モモ』はドラマ内で、25年の眠りから目覚めた望美とリンクしている。そこでドラマの台詞に登場する『モモ』から、「35歳の少女」を読み解く。

【名言1】「ながいこと…」「ねむっていた」「もう、だれも、いない」「すべては、すぎさった」

25年の眠りから目覚めたとき、その絶望を「ながいこと…」「ねむっていた」「もう、だれも、いない」「すべては、すぎさった」と、時間の国に迷い込んだモモが元の世界に戻った時に言われた言葉で自身の現状に置き換える。

【名言2】「大きな不安と、もっと大きな勇気」

そんな望美を結人は同じく『モモ』の「大きな不安と、もっと大きな勇気」という言葉を借りて、「大きな勇気を持って、これから色んなものを一杯見るんだ、聞くんだ、考えるんだ」と、現実世界と向き合うように励ました。

【名言3】「話す声は聞こえるし、言葉は聞こえるのですが、話す人の心は聞こえてこないのです」

結人が自分の気持ちにウソをつき、代行業を続ける姿を見て、望美が言った一言。『モモ』では、時間どろぼうに時間を盗まれそうになったモモが言った言葉を引用し、辛い現実から目を反らし逃げようとする結人に「自分の心に向き合え」と訴えた。

【名言4】「結人君は、カメのカシオペイアだったんだ?」

「2020年って、モモに出てくる、時間どろぼうに乗っ取られた国みたい」と、なかなか周りになじめない望美。しかし、自分のせいで壊れてしまった家族を前に、「あたし、目覚めてからずっと、モモみたいに時間どろぼうに時間を盗まれたと思ってたけど…」「本当は、あたしがみんなの時間を盗んでたんだね」と落ち込んでしてしまう。その姿を見た結人は、「苦しみを救えるかわからないけれど、お前のそばにいる」と告白。望美は結人の気持ちを聞き、『モモ』に登場するカメのカシオペイアの言葉「わたしがついている」と同じだと救われ、はじめてのキス。

この言葉のように、「望美=モモ」「結人=カシオペイア」としてドラマ内では象徴的に描かれています。

【名言5】「今は灰色の男たちの気持ちが分かる。少しでいいからさ…」

「みんなが無駄にした時間、あたしに頂戴!」

望美はアナウンサーに、結人は再び教師に、それぞれ夢に向かって歩き出すが、厳しい現実を前に徐々に不協和音が生じてくる。そして、望美の思い出の家を売ることになり家族が集まるも、互いを責めるような激しい言い争いばかり。ついに望美は「モモに出て来る灰色の男って知ってる? 街の人から盗んだ時間で生きてて、大嫌いだったけど、今は灰色の男たちの気持ちが分かる。少しでいいからさ…」「みんなが無駄にした時間、あたしに頂戴!」と吐き捨て家族を見限ってしまう。さらに、またも夢を諦めようとする結人にも失望し、お守りのように持ち続けていたカメのぬいぐるみを置いて去ってしまった……。

【名言6】「家族、友人、恋人、そんなもののために生きても裏切られるだけ」

8話で明らかになった望美のYouTuberとしての姿に視聴者は騒然。これまでかわいらしい服装を好みいつも明るく笑顔だった望美は、灰色の服に身を包み、無表情で、『モモ』に出て来る“灰色の男”のよう。コンクリート打ちっぱなしの壁、灰色の家具が置かれた無機質な部屋で、「家族、友人、恋人、そんなもののために生きても裏切られるだけ」とYouTubeで語り掛ける。

【名言7】「周りの人みんなを幸せにするモモだった筈なのに、みんなから時間を盗む灰色の男みたいになってる」

25年という時間を失い2020年に目覚めた望美が気づいたのは、「多くの人が何も生み出さずに、ダラダラ時間を無駄にしている」ということ。望美が欲しいのは、眠ってしまった25年の時間を取り戻すこと。そこで望美は“暇を持て余している人から時間を買って、やることが一杯あって時間が足りない人のために使う”という仕事を始めたのだ。「時間を売買したときの手数料と、アクセス数が爆発的に伸びて入ってくる広告収入」で自分の父親の年収を1カ月で稼ぎ、「ここから一歩も出なくても、食糧から何からとどけてもらえるし、ネットで必要な情報はすぐに手に入るし、世界中の誰とでもコンタクトとれる」と、今や当たり前とも言えるネット社会の恩恵をフル活用して2020年を“らしく”生きる。そして、SNSに夢中になり目の前のことに目を向けない、時間ばかりを使ってしまう現代人を『モモ』を通じて風刺している。

しかしそんな望美を結人は「周りの人みんなを幸せにするモモだった筈なのに、みんなから時間を盗む灰色の男みたいになってる」と感じてしまうのだった。

一見、まさに現代社会のベンチャー企業の成功者のような望美。しかしその表情は暗く、さらに、10歳のころの自分の幻影を見てしまう。10歳の自分に言われた言葉は「ひとりぼっちで全然幸せそうじゃない」。実際に、数多くのネットを介した成功や恩恵の裏には、多くのSNSトラブル、不幸な出来事が絶えない。時間を削って人を介さず手に入れるお金、物、コンタクト。そこにどれほどの価値があるのか。それは人と人がとるコミュニケーションよりも大事なことなのか。

娘が目覚めることだけを生きがいに25年看病して来た母・多恵が、そんな娘を見て出した結論は、一緒に心中すること――。その母が病に倒れ、望美が出す結論は……。

第9話は、12月5日(土)夜10時!

【9話 あらすじ】

望美(柴咲コウ)は多恵(鈴木保奈美)が倒れたことに衝撃を受けつつも心を閉ざしたまま、危険な状態の母を愛美(橋本愛)と進次(田中哲司)に任せて病院を後にする。

そんな中、愛美は入院道具を取りに寄った時岡家で、多恵が倒れる前に日記に書かれた思い「望美が改心したら家族みんなですき焼きを食べたい」を知り、望美のマンションに説得に行く。しかし別人のように変わってしまった望美は聞く耳を持たず、結局言い争いになってしまう。

時岡家を訪ねた結人(坂口健太郎)は、進次から多恵が倒れたことを聞く。多恵を望美の元に行かせたことに責任を感じながらも今の自分のままでは望美に何を言っても届かないと感じる結人……。学校では不登校になった生徒をどうすることもできず、さらに実家に行くと寝たきりの父親の容態が急変していた……!

一方進次は、自分の今の家族のことを何とかしようと決意。止める加奈(富田靖子)を振り切り、達也(竜星涼)が引きこもる部屋に突入する!

そしてたった一人、自分の幸せだけを考えて生きる決意をした望美は、なぜか再び10歳の自分が現れる夢を見ていた。多恵が倒れたことを機にそれぞれの歪んでしまった時計の針が動き始める、果たして、凍り付いた望美の心に届く言葉はあるのか……!?

「35歳の少女」、第8話はTVerで配信中。

https://tver.jp/

第7話 ダイジェスト

ドラマタイトル『35歳の少女』

番組概要

放送枠 2020年10月期土曜ドラマ(レギュラー放送枠 毎週土曜22:00~22:54)

脚本 遊川和彦

主題歌 『三文小説』King Gnu (ソニー・ミュージックレーベルズ)

製作著作 日本テレビ

番組HP 

番組Twitter: @shojo35

※ハッシュタグは #三十五歳の少女

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