行政と医学の「限界」 子や孫にどんな症状が出ているのか…「政治を動かすしかない」 カネミ油症被害者支援センター アンケート<3>

カネミ油症被害者らの訴えに耳を傾ける坂口氏(右)=2019年6月4日、東京都千代田区の弁護士会館

 1年半前、カネミ油症の被害者や支援者が、元厚生労働大臣の坂口力(86)を囲んで訴えていた。「子が黒い肌で産まれた」「長男を亡くした」-。子や孫ら次世代被害者の救済を願う声を、目を閉じて聞いていた坂口はおもむろに口を開いた。
 「子や孫にどんな症状が出ているのか、皆さんの経験を集めてもらわないと。まとまるか分からない問題をまとめるのが政治。政治家が動く材料、原点を提供してほしい」
 この言葉は、カネミ油症被害者支援センター(YSC)が、前例のない次世代の健康実態調査に乗り出す端緒となった。
 坂口は厚労相時代、油症の主因は食用油に混入したダイオキシン類であると国として初めて認め、2004年の診断基準改定を導いた。被害者の新たな認定につながった反面、ダイオキシン類の血中濃度が基準に達しない被害者は除外されることに。基準は、汚染油を直接摂取せず母親の胎内などで影響を受けた可能性がある次世代の認定を、今も阻み続ける。
 「濃度が高くなくても症状がある人はいる。そういう人を(現状では)救えない」。坂口は18年に五島市であった油症発覚50年の式典でじくじたる思いをにじませていた。
 一方、油症を主管する厚労省は、被害者と国、加害企業による年2回の3者協議でも、次世代の認定を求める親たちの訴えをまともに受け止めることはなかった。歴代担当者は「全国油症治療研究班が新たな科学的知見を示すのを待つしかない」と繰り返してきた。
 また、同研究班長を務める九州大の古江増隆(64)は、油症に関する報告会議で被害者にこう述べた。「次世代への影響の有無を調べるには50年かかる」。現実に病で苦しむ子や孫がいるのに、あと50年も待てというのか-。既に事件発覚から半世紀以上がたち、高齢となった親世代の怒り、焦りは限界に達していた。
 行政と医学の「限界」を突き付けられてきた被害者たちは、坂口の「政治家が動く材料を提供してほしい」という言葉に励まされた。「政治を動かすしかない」。被害者支援に20年以上携わるYSCが、調査に向け動きだした。しかし世代を超えた被害の“連鎖”を明らかにする調査には大きな壁があった。まず、次世代被害者本人に会うことすら容易ではなかったのだ。

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