「司法の“包囲網”屈しない」 開門派漁業者側 馬奈木昭雄弁護団長【インタビュー】 諫干開門確定判決10年

開門派漁業者側の馬奈木昭雄弁護団長=久留米市内

 国営諫早湾干拓事業の潮受け堤防排水門を巡り、「3年猶予後、5年間の常時開門」を命じた福岡高裁判決の確定から10年を迎えるのを前に、開門派漁業者側の馬奈木昭雄弁護団長に、司法の場で論争が続く現状と有明海再生に求められる視点を聞いた。

◎「司法の“包囲網”屈しない」 開門派漁業者側 馬奈木昭雄弁護団長

 -開門確定判決が持つ意味とは。
 官僚は上告したかったのだろうが、時の総理大臣(菅直人氏)が判決に服すと言った。官僚はそれに従って行動するのが当たり前だ。しかし、私が知る限り、国の方針と反する確定判決が履行されたことは一度もない。確定判決は「干拓で重大な漁業被害が起きているので、止めないといけない」と言っている。その手段として開門調査があり、最終的な目的は有明海の回復。ところが、国は地元住民の抵抗を受けて、開門調査が実行できないという。実行しなければいけないのは、有明海の回復。回復させる道を尽くせと問い掛け続けてきたのがこの10年だ。

 -国は2004年から毎年17億円余り、有明海再生事業に投じている。
 ノリの色落ち被害に端を発した第三者委員会の提言を受け、短期開門調査を実施し、諫早湾近傍部の漁業環境が回復した。それにもかかわらず、国は中長期開門調査を拒否し、有明海再生事業を始めたのが、そもそもの問題の始まり。

 -国は17年、開門せずに100億円の基金による和解を目指す方針を示したが、見通しは立っていない。
 原告漁業者は基金制度に反対していない。国が勝手に原告の同意を基金実現の条件にしているだけだ。基金は4県と漁業団体が運営するのだから、原告の同意は関係ない。再生事業が始まって16年、それが効果を上げ、有明海再生が達成できていたら、裁判も終わっているはず。漁業者がそう実感できていないから、有明海再生の手段である開門調査を含めて、議論してほしいと言っているのだ。

 -長崎地裁の開門差し止め訴訟の和解勧告以降、裁判所も「開門せずに基金で和解」を打ち出している。
 国は裁判所まで巻き込んだ一大包囲網を築いている。そう考える根拠は、請求異議訴訟の福岡高裁の和解勧告(15年)は「話し合いによる解決」を促したが、長崎地裁は16年の和解協議で「差し止め判決が確定したら、国が開門できない請求異議事由になる」と言い出した。オール司法で追い込もうとしているのだろうが屈することはない。

 -請求異議訴訟差し戻し審の行方は。
 負ける理由がない。確定判決を実行したら、権利乱用になると、裁判所が言うことではない。国は、開門と開門禁止の二つの確定判決が残るだけだと見越して、負けてもいいと思っているはず。その間、原告漁業者が年老い、漁ができなくなるまでの時間稼ぎをしていくのだ。国は甘く考えているのかもしれないけど、闘いは終わらない。ほかの漁業者も海が回復していないことを分かっているし、干拓農地の農業者も厳しい営農環境に苦しんでいる。被害者を黙らせようとしても、必ず立ち上がる。

 【略歴】まなぎ・あきお 1966年、司法試験合格。水俣病や長崎北松じん肺両訴訟などを経て、よみがえれ!有明訴訟の弁護団長。78歳。

国営諫早湾干拓事業を巡る経過

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