大音寺のイチョウ

 長崎市鍛冶屋町の古刹(こさつ)、大音寺(だいおんじ)には、本堂裏手の墓所に、市の天然記念物に指定されている「大音寺のイチョウ」がある。樹高20メートル、幹回り3.9メートル。雄大な木は、秋から初冬にかけて見事に黄葉する▲こけむした幹には、つる草が絡み、古木に生じる気根が鍾乳石のように垂れ下がっている。傍らの説明板によると、樹齢は300年を越えるという▲先週訪ねると、既に半分ほど落葉していた。それでも、初冬の日差しを浴びて黄金色に輝く姿は神々しささえ感じさせた▲〈これは/はるばると東洋から/わたしの庭に移された木の葉です〉。ゲーテは1815年に「銀杏(いちょう)の葉」という詩を書いている。イチョウは17世紀末に長崎から欧州へ伝わった。出島オランダ商館医を務めたケンペルがオランダに持ち帰ったのだ▲イチョウは太古の昔、世界中で繁栄していたが、中国の一部を残して絶滅した。ところが千年ほど前に大陸から日本へ伝わると、長崎を経て再び世界中に広がった。イチョウは美しく、そしてたくましい。コロナ禍の今にあって、その生命力に力づけられる思いがする▲冷たい風が吹いて、枯れ葉がはらはらと舞った。落ち葉を踏みしめて歩く。さくさくと心地よい音がする。きょうは二十四節気の一つ「大雪(たいせつ)」。本格的な冬の始まりである。(潤)

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