資産運用でよく出てくる「年率5パーセントで運用」は実現可能なのか?

老後資産が不安で専門家に資産運用の相談をした知人から質問がありました。「資産運用によって得られるリターンが毎年5%でずっと仮置きされていたけれど、本当にそれは実現可能なのでしょうか?」というものです。

結論から言ってしまえば、将来のことは分かりませんから、実際には仮定よりも高いリターンを得ることもあるでしょうし、その逆もあるでしょう。とはいえ、「将来は分からない」だと話が進まないので、年率5パーセントで仮置きしたのだと思います。資産形成の説明では、かなりの割合で年率5パーセントの仮定が多くでてきます。今回は過去のデータを見て、それがどれぐらい確からしいのかを見てみましょう。


しっかりとデータを確認しよう

1年だけの結果を見ても特殊要因の影響が大きい可能性もあるため、2008年から2019年までの10年間を見てましょう。資産の種類は株(日本株式、先進国株式、新興国株式)と債券(先進国国債、新興国国債)、リートと呼ばれる不動産投資信託(日本、米国)の7種類の年率リターンを確認します。年間リターンというと難しいかもしれませんが、1年間の騰落率と考えてください。全て通貨は円ベースに修正されています。

さて、表を見て何を感じたでしょうか?たとえば2008年は9月にリーマンショックがありましたから、どの資産に投資をしていたとしてもマイナスです。最も安全性が高いとされる先進国債券であっても1年で-10.0パーセントです。先進国株式や新興国株式に至っては1年間で半分以上もマイナスになっています。恐ろしいですね。しかし、翌年、新興国株式は1年間で80パーセント以上も上昇しています。

仮に日本株式に上記の10年間投資をしていた場合、1年間の平均リターンは7.3%でした。つまり、この10年間に限れば、冒頭の「年間5パーセント」という仮定よりも有利な条件で資産運用ができていたことになります。嬉しい誤算となるでしょう。しかし、先進国国債で運用していた場合の1年間の平均リターンは3.3パーセントとなり、冒頭の仮定よりも低い利回りでの運用になってしまったとなるのです。

将来は予測できないという真実

もう一度、先程の表を見てください。資産ごとに色分けしていますが、10年間で全7資産のうち新興国国債を除く6資産が年間リターンで1位を記録しています。つまり、どの資産に投資をすれば必ず儲かるのではなく、その年ごとにリターンが高い資産はバラバラだということです。そして、この年はどの資産が最もリターンが良いという事は、事前に分かる人は誰もいないのです。

極端な例を出してみると、2008年に新興国株式に投資をしてしまった人は1年間で6割以上の資産が溶けてしまった訳ですが、2009年に新興国株式に投資をした人は1年間で8割以上も資産が膨れたことになります。

タラレバの話をしていても仕方がありませんから、大事な老後資産の源となる投資資産を過度なリスクに晒さないためには、「この資産が上昇すると思う」とアタリをつけて一括投資をするのではなく、多くの資産に分散することが重要なのです。

当然、投資対象を分散することによって、期待できるリターンが1つの資産に一括投資する場合に比べて低くなる可能性もありますが、その代わりにリスクを抑えることができるのです。

結局は基本に回帰する

どの資産の年間リターンが高くなるかは分からないので多くの資産に分散をする。そして、1年間だと特殊要因に左右される可能性が高いため、長期で投資をする。この話、どこかで聞いたことありますよね?そう、投資の王道としてこれまでも連載の中で何度も紹介してきた「長期×分散×積立」という考え方そのものなのです。

タイトルにもあるように「年率5パーセントで運用しましょう」が実現可能かどうかは、この10年間で見れば、それほど無理のある仮定ではないと言うことはできるかと思います。しかし、それはあくまでこの10年間はそうだったということでしかありません。これまで見てきたように、年によって年間リターンはバラバラですし、どの資産に投資をしていたかによっても左右されます。

つまり、将来の資産設計をする際には年間5パーセントとリターンを仮置きすることは問題ありませんが、実際に投資をする場合は想定されるあらゆる事態に備えて、やはり基本に回帰して分散しながら長期投資をするに尽きるのでしょう。

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