『パリのどこかで、あなたと』男女のすれ違いと出会い

(C) 2019 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA

 日本でも人気の高いフランスの監督セドリック・クラピッシュの新作だ。『スパニッシュ・アパートメント』に始まる3部作など恋愛を絡めた青春群像劇に定評があるが、今回は男女2人のシンプルな物語。ただし、二人はよくすれ違うものの、言葉を交わすのはラストシーンだけ。パリの隣り合うアパートメントに暮らす男女が出会うまでを描いた異色のラブストーリーなのだ。

 とにかくロケ地が素晴らしい。部屋は(ベランダも)完全に隣り合っているのに、お互いの姿は見えない。建物が違うので当然入口は別々だし、廊下で接触する機会もない。二人がすれ違うのは、電車や道、買い物をする店のみ。そんな二人の生活を交互に見せていくのだ。何て映画的!と何度も感嘆した。しかも、心療内科への通院や風呂場から漏れ聞こえるシャンソン、子猫の飼い主が入れ替わるエピソード…二人が出会うきっかけとなりそうな、つまりは伏線と思わせる場面が散りばめられている。

 にもかかわらず、二人の出会い方は想定外のものだった。これまた映画的な出会いと言っていいのだが、設定はシンプルなのに一筋縄ではいかない凝った展開を見せるところが、いかにもクラピッシュらしい。欲を言えば、生活音などからお互いが相手の存在を意識するニアミス感をもっと入れてほしかったが。日本にも同じような設定を持つ『おと・な・り』という秀作があるので、ぜひ観比べてほしい。★★★★☆(外山真也)

監督:セドリック・クラピッシュ

出演:アナ・ジラルド、フランソワ・シヴィル

12月11日(金)から全国順次公開

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