冒頭から傑作の気配が漂う。“息”にまつわる映画であることを示唆するファースト・シーンが、とにかく見事なのだ(邦題のチョイスも!)。演出からも編集からも並の才能でないことが伝わってくる。その直後、テロップを用いずに10年以上の時間経過を説明する選択にも、映画作家としての矜持が感じられる。監督は、これが実質的な日本初公開となるフィンランドのユッカペッカ・ヴァルケアパー。
妻を亡くしてから10年以上も失意の日々を送る外科医が、ふと迷い込んだSMクラブで客と間違われる。喉元を締め付けられる窒息寸前の状態が、湖底から妻を助け出そうとした瞬間を思い出させ、その間だけ妻と再会できることに気づいた彼は…。
SMという題材ゆえに説得力を持つ極彩色のライティング、身体パーツのクローズアップやガラスなどの反射を多用した画面設計、遮蔽物などを利用して横に長い画面を自在にコントロールすることでシネスコのスクリーンサイズを機能させる腕前…。そんな映像表現もさることながら、何よりSMという設定自体に説得力があることに感心させられる。恐らく、性癖のノーマルな観客にも受け入れられるはず。それ以前に、SM=性欲をこれほど神秘的に描けるとは! SMを純愛へと落とし込もうとする試みは数あれど、最も成功した例ではないか。ヴァルケアパー監督の過去2作品も、ぜひ日本公開してほしい。★★★★★(外山真也)
監督:ユッカペッカ・ヴァルケアパー
出演:ペッカ・ストラング、クリスタ・コソネン
12月11日(金)から全国順次公開