ダークサットが「光害」を軽減。石垣島天文台によるスターリンク衛星の観測結果

打ち上げ準備中のスターリンク衛星(Credit: SpaceX)

国立天文台は12月8日、人工衛星の一部を黒く塗装することで太陽光の反射を軽減できることが明らかになったとする堀内貴史氏(国立天文台)らの研究成果を発表しました。

スペースXが推進している衛星ブロードバンドサービス「スターリンク」のように、近年では数千~数万基の人工衛星から構築される衛星コンステレーションの整備が進められていますが、大量の人工衛星が太陽光を反射することで地上からの観測に深刻な影響を与える「光害」も懸念されています。米国科学財団(NSF)の国立光学・赤外天文学研究所(NOIRLab)とアメリカ天文学会(AAS)が2020年6月~7月に共同開催したワークショップ「SATCON1(Satellite Constellations 1)」のレポートによると、ワンウェブが計画している衛星コンステレーション(高度1200km)の場合、南緯30度の地域では衛星が夏季に一晩中視認できてしまう可能性も示されています。

2020年11月までに1000基近いスターリンク衛星を打ち上げているスペースXは光害を抑える取り組みを研究者らと進めていて、2020年1月には太陽光を強く反射するアンテナ部分を黒く塗装した「ダークサット(DarkSat)」仕様の衛星が試験的に打ち上げられています。研究グループによると、国内外の研究機関でスターリンク衛星の明るさの調査が行われるようになったものの、従来の調査では単一の波長(たとえば緑色のg’バンドフィルター)のみが用いられていて、ダークサットに用いられている黒い塗装の具体的な効果に対する詳しい検証はされていなかったといいます。

今回、堀内氏らの研究グループは石垣島天文台にある口径105cmの「むりかぶし望遠鏡」を使い、2020年4月から6月にかけてダークサットと通常のスターリンク衛星を合計4回観測しました。むりかぶし望遠鏡による観測では、スターリンク衛星が緑色(g’バンド)、赤色(Rcバンド)、近赤外線(Icバンド)の3種類の波長で同時に撮影されています。衛星の高度や速度などの条件がそろった異なる波長の情報をもとに明るさを評価することで、ダークサットと通常のスターリンク衛星の違いをより良い精度で把握できるといいます。

堀内氏らによる観測の結果、ダークサットの反射率が通常のスターリンク衛星と比べて約半分に抑えられていることが実証されたといいます。また、黒い塗装の有無にかかわらず、長い波長ほど(言い換えれば色が赤に近づくほど)明るく観測されることもわかったといいます。国立天文台では、人工衛星にダークサットのような塗装を施すことで、地上からの観測に与える影響を軽減することが期待できるとしています。

なお、スペースXは2020年6月以降、アンテナに入射する太陽光をブロックするサンバイザーを装備した「バイザーサット(VisorSat)」仕様の衛星も打ち上げています。研究グループは、通常のスターリンク衛星やダークサット、バイザーサットといったさまざまな仕様のスターリンク衛星が天文観測にもたらす影響を今後も比較することが重要だと指摘しています。

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Image Credit: SpaceX
Source: 国立天文台 / 石垣島天文台
文/松村武宏

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