年額39万円 「加給年金」がもらえる夫婦の条件とその“落とし穴”

条件を満たしたら年額約39万円が支給される「加給年金」と呼ばれる“スゴい年金”があるのを、あなたはご存知でしょうか? この言葉をはじめて聞く人は、多いはず。なぜなら、「加給年金」は「ねんきん定期便」に掲載されていないからです。なぜ、掲載されていないのか? それは、加算されるしくみや条件が複雑だからです。「加給年金」がもらえる条件と、その「落とし穴」について解説します。


加給年金は「つなぎの年金」

(1)加給年金の目的

ねんきん定期便を見れば、将来受け取れる年金見込額が載っていますが、「加給年金」は含まれていません。実は、加給年金という単独の年金は存在していません。老齢厚生年金に条件付きで加算される家族手当のようなもので、「加給年金額」というのが正しい名称です。

大半の会社で実質的な定年は60歳です。一方、年金を受け取れる年齢は原則として65歳、5年のブランクがあります。その間、夫婦そろって年金を受け取れるようになるまでは収入が厳しくなります。そのため配偶者が65歳になって老齢基礎年金を受け取れるまでの間の「つなぎの年金」として加算されるものです。

なお、高校生までの子供がいる場合にも加算されますが、この記事では、「子供は独立している」と仮定してお話しましょう。

(2)加給年金額はどのくらい?

加給年金額は、配偶者がいる場合に加算されます。2020年度の場合、特別加算16万6,000円を含め39万900円となっています。

加給年金額が加算される「基本的な3条件」

「配偶者がいる」というだけでは、加給年金はもらえません。では、次に満たすべき条件は何でしょうか? 「夫のほうが年上で、厚生年金に加入している期間が長い」と仮定して説明しましょう。なお、妻のほうが加入期間が長い場合、妻と夫を置き換えて理解してください。

夫の厚生年金加入期間が20年以上あって、年下の妻の加入期間が20年未満の場合、妻が65歳になるまで夫の老齢厚生年金に加算されます。なお、加算されるのは夫が老齢基礎年金を受け取る時(一般に65歳)からで、夫婦間の年齢が離れているほど、加算される期間が長くなります。

なお、妻の年収が将来にわたって850万円未満という条件がありますが、現在では多くの人が該当するものと思います。

・夫の厚生年金加入期間が20年以上
・妻の厚生年金加入期間が20年未満
・生活をともにしている妻の年収が、将来にわたって850万円未満

これが、加給年金が加算される「基本的な3条件」だとわかりました。
ただし、妻の厚生年金加入期間の変化や、年金の受け取り方などで加算されたり、加算がストップされたりすることもあるので注意しましょう。加算条件が複雑なうえ、流動的。これが、ねんきん定期便には記載されていない理由です。

「基本的な3条件」以外の、細かい条件

60歳以降も厚生年金に加入しながら働いている場合、在職老齢年金というしくみがあり、給与収入や年金収入の額により年金額が少なくなったり、支給されなくなります。また、夫が年金をもらっていて妻が60歳以降も働いている場合、雇用保険から失業給付を受け取っている場合も、加給年金額が加算されたり加算されなくなったりするケースがあります。以下、加給年金額にまつわる細かい支給条件をまとめました。

・妻の加入期間が20年以上に変化した場合
夫の年金に加給年金が加算されていても、妻の厚生年金加入期間が20年に達した場合、夫に加給年金額が加算されなくなります。ただし、妻の厚生年金加入期間が20年になっていても、妻が年金を受け取らない場合、夫に加給年金額が加算されます。

・妻の加入期間が20年以上だが、雇用保険からの失業給付を受給している場合
雇用保険からの失業給付と老齢厚生年金が受け取れる場合、失業給付を優先的に支給することになっています。失業給付を受給できる間は、老齢厚生年金の支給は停止されます。そのため、妻が失業給付を受給している間は、夫に加給年金額が加算されます。

・妻が在職老齢年金に該当している場合
では、妻が在職老齢年金に該当している場合はどうなるでしょうか。在職老齢年金に該当して、妻に年金が一部でも支給されている場合、夫への加算は停止されます。しかし、全額停止されている場合は、夫への加算があります。

・妻が年上の場合
今までは、「妻が年下」と仮定してお話してきました。では、「妻が年上」である場合、どうなるでしょうか?

年上の妻の場合は、夫の年金に加給年金額の加算はありません。でも、妻の厚生年金加入期間が20年未満なら、妻が65歳になったときに妻の老齢基礎年金に振替加算が加算されます。なお、振替加算は、年金加入期間が40年に満たない人を対象に支給されるものなので、昭和41年4月1日以前生まれの人にのみ支給されます。

加給年金の“落とし穴”とは?

最後に、「加給年金」に関する“落とし穴”を紹介します。加給年金の加算を目的に、配偶者が仕事を辞めることはお勧めしません。「厚生年金の加入期間が20年に達してしまうから、支給がストップされないよう仕事を辞めよう」などという判断は本末転倒です。

加給年金額は、配偶者が65歳になるまでの間だけ加算されるものです。たとえば5歳の年の差がある場合、5年間しか支給されません。2歳の差ならば、2年間です。通常は働いていれば、年収は39万円よりずっと上にいくはずです。働いていれば、加給年金額よりもたくさんのお金を稼げ、妻自身の年金額も増えるということ。「人生100年時代」の今日は、配偶者自身の収入や年金額が増えるような働き方をお勧めいたします。

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