【独自】薬局DXを加速させる32社のドラッグストア連合「SOO」の実相

コロナ下でも、いや、コロナ下だからこそ、薬局DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みを加速させている企業がある。それが32社のドラッグストアが参画するSegment of one&only;株式会社(通称SOO、平野健二社長=サンキュードラッグ社長)だ。顧客データを統合、分析し、顧客像に合ったヘルスケア情報を届ける。情報には動画を多用。商品販売増だけでなく、生活者の未病への貢献度を高める可能性を秘めている。同社は業界では、誰もがその存在を知っているが、各社が上場企業ではないため、市場関係者からの関心を集めないかもしれない。しかし、地域ごとの取り組み向上がじわじわと日本全体に与える影響は大きくなっているのだ。

45年間で人口が35%減った地域で 増収増益を続けているサンキュードラッグ

SOOを語るには同社社長を務める平野健二氏率いるサンキュードラッグを説明する必要がある。

サンキュードラッグとは、どんな企業なのか。一言でいうと、「45年間で人口が35%減った地域で増収増益を続けている企業」である。

同社は福岡県北九州市と山口県下関市を中心に店舗を展開するドラッグストア。本社のある北九州市門司区の人口は、1975年には15万人だったが、現在では9万5000人を切っている。高齢化率は36.8%。当地は高齢化・人口減少先進地域といえる。

なぜ、このようなエリアで、人口に大きく左右される小売業である同社は好業績を残すことができたのか。その秘訣こそ、データを基にしたマーケティングである。

平野氏は、同社全店の顧客データを統合することで、顧客像に合った品揃えと提案をすることに着手。システム投資もかかったが、一人一人の顧客が同社の立地の違う店舗でどのような買い物行動をしているかが初めて分かった。そして、顧客は同社のどの店舗に行っても、自分のことを“知ってくれている”同社と、どんどん接点を増やしていく。「かかりつけドラッグストア」の発想である。

その一人一人の顧客に、在宅医療を筆頭に、配食やさまざまなサービス提供を付加していった。今では「食事をお届けしている高齢者のほとんどが独居であることが分かった。コミュニケーション難民である可能性がある」との考えから、店舗に出向いてもらって食事をしてもらうという取り組みも始まっている。

現在、目標として掲げるのは、「歩いて来られる範囲の買い物充足率99%」。それは街から姿を消した肌着、文房具などのお店を補完する意味合いもある。

この北九州市の成功事例を、全国各地で地域に密着するドラッグストア企業が共有することを目指したのがSOOなのだ。

8000億円規模の会員共通システムに 決済機能を付ける計画

具体的にSOOが手掛けているサービスの一つが「ドラポン」と呼ばれる共通会員システム。現在、参画する企業の総年商は8000億円以上。「ドラポン」の加盟者数は10万人を超えた。

加盟各社の会員カードを通じて顧客がドラポンに登録すると、顧客像と時期に合ったヘルスケア情報が配信される。クーポンやサンプルもそうだが、例えばアラフィフ女性には、「脂肪の減らし方は体質別にあるって知ってましたか?」「よりよい睡眠には〇〇がオススメ!」と、思わず見てしまう気になるトピックを配信してくるのだ。

開くと動画もあり、文字情報だけではない、とっつきやすい情報が特長だ。これらの取り組みは、「ドラッグストア企業がオウンドメディア(自社保有メディア)に力を入れ始めた」と言い換えることもできる。

企業はこれまで宣伝をかけようと思えば、テレビなど既存のメディアに広告費を払って、短い商品や自社の宣伝を行ってきた。

しかし、ドラッグストア企業はすでに会員カードを通して多くの顧客とのリーチを持っているのであり、メーカーとの関係性を通して多彩な健康情報を内部に保有している。これをオウンドメディアとして発信し始めたことは、極めて理にかなっている。

ドラポンでは、どんな顧客がどのような発信に関心を示したか、リアル店舗の送客につながったのかを分析し、精度を高めている。

この仕組みは、アフターコロナによって、ともすると、店舗に訪れる機会が減少する小売企業にとって、店舗の外でも「顧客に適切な商品をお勧めできる」という意味で価値が高まっている。

「そもそも顧客が3万SKUの商品が揃っているドラッグストアに足を運んだ時、自分に合っている商品を見つけることはできていたのか。ドラポンは顧客に合った商品をお勧めすることができる。それは商品の価値を上げることにもつながる」(平野社長)。期せずして、コロナがドラッグストアの在り方を見つめなおす契機ともなっている。

ドラポンは決済機能を付ける計画を進めている。さらに各社の店舗に商品受け取りロッカーの設置も進んでいる。

保有する健康情報との連携強化や 異業種とのコラボが検討中

ドラポンの価値を高める計画はさらに検討が進んでいる。

例えば、処方箋情報との融合だ。もちろん、処方箋情報は機微情報のため細心の取り扱いが必要になるが、「糖尿病関連の処方箋であるのに、調剤に一度しか来ていない患者」が把握できていたとする。この患者は、多忙などを理由に治療を中断してしまっている可能性がある。こういったケースで、ドラポンを通してこの層に適切なアプローチをすることができたら、重症化予防への貢献につながる。

そのほかにも、特定の商品を繰り返し購入している顧客に対して、ある疾病の予備軍ではないかと仮説を立てる。その上で、医師からの疾病予防情報を配信し、関心を示すアクションが見られれば、さらにアプローチすべき層であることが分かる。こういった具合に、顧客像に応じた貢献度を高めることができる可能性がある。

発症前に顧客との接点を持っているドラッグストアだからこその強みが生きてくる。

あるいは、このプラットフォームに乗せられるのは、健康情報に限らないかもしれない。

実際にドラポンには全く異業種である大手企業とのコラボレーション案件が舞い込んでいる。
「リアル拠点がデジタル武装をした時、既存にはなかった価値が生まれ始めている」(平野社長)

ひらの・けんじ●1959年生まれ。一橋大学商学部卒業後、サンフランシスコ州立大学にてマーケティングを専攻(MBA取得)。1985年サンキュードラッグ入社、2003年代表取締役社長就任。32社が加盟するマーケティング企業Segment of One&Only(SOO)社長のほか、九州大学客員教授なども務める

【編集部より】本インタビューは、薬学生向け「MIL NEXT VISION」との連動企画です。ぜひ、そちらもご覧ください。

「“My Dream is…”を一生語れたら素敵だよね」平野健二(サンキュードラッグ)

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