自粛より「萎縮」 学生を信用できない大学の惨状

オンライン授業が続き、学生の不満は高まっている(写真はイメージ=PIXTA)

 コロナ禍で未だにオンライン授業が続く大学。学生たちの不満は限界に近づき、SNSで「#大学生の日常も大事だ」という投稿が、多くの共感を得た。それでも大学は、対面授業の本格的な再開に消極的なまま。感染拡大への懸念からだが、今後の展望が示されないことに、現役の学生はもちろん、受験生にまで不安が広がっている。このままでいいのか。大学通信常務取締役で「笑うに笑えない大学の惨状」などの著書がある安田賢治氏が実態を解説する。

 ▽「健康診断だけ」の学生も

 大学は1年前から、想像できないほど大きく変わった。何事にもオンラインが活用されるようになり、2020年の春は環境整備に追われた。3月に前期授業のオンライン切り替えを宣言する大学が出て、遅い大学でもゴールデンウイーク明けにはオンラン授業が始まった。小学校、中学校、高校が休校、分散登校を経て、対面授業の再開に至ったが、大学は、後期授業もいまだにオンライン中心だ。大学はコロナ禍で自粛というより「萎縮」しているようだ。

 ある有名大学では、1年生の多くが入学後、キャンパスにほとんど足を踏み入れたことがない。大学に行ったのは「健康診断の時だけ」という学生もいるほどだ。入学式は中止、授業はオンラインだけで、友人もできないという学生は少なくない。理系学部では実験や実習の授業が早くから対面で行われているが、文系学部の授業は、ゼミナールなど一部を除きオンライン中心で「すべてが対面授業」には程遠い。

 なぜ大学だけがコロナ禍に対応できないのか。「できない理由」としてはいくつか挙げられている。大学は小中高と違って学生が多く、何百人も一度に受ける授業があるため「3密」ができやすいから、県をまたいで通学してくるので感染リスクが高いから、また、学生は集まって騒ぐのでクラスターが発生しやすいから、などだ。

 しかし、学生が多いといっても、全校生徒が2000人を超す私立の中高一貫校だって珍しくないが、ちゃんと対面授業を行っている。学生数2000人は大学で計算すると、1学年500人程度。このような大学はたくさんある。小中高生のように全員が1限目から授業を受けるわけでもないので、密な状態は避けられよう。

 授業で学生が教室に集まり過ぎ3密になるのなら、教室を分散して授業を行えばいい。ところが、大学の都合で空き教室がないから、学生を分散させて授業ができない。電車やバスを使って広域から通学しているのは、私立の中高生だって同じだ。学生が集まると騒ぐというのなら、注意すれば済む話ではないか。そんなに学生を信用できないのだろうか。

多くの学生がキャンパスライフを楽しめない状況が続く(写真はイメージ=PIXTA)

 ▽人間関係学ぶ機会奪われて

 ただ、大学側に言い分もある。感染者が出た大学が、激しく非難にさらされたからだ。大学に非難の電話やメールが届き、感染した学生だけでなく、その家族まで誹謗中傷にさらされたという。最近でもコロナ感染者が出た大学で「教育実習先が受け入れを拒否」「その大学の学生というだけでアルバイトを解雇された」など、感染者だけではなく、在学生や保護者にまで影響が及んでいる。過度な「萎縮」は問題だが、大学に対する周囲の視線も、寛容なものに変えていかなければならない。

 もともと大学では「授業も大切だが、それ以外のキャンパスライフも重要」と多くの学長が語ってきた。キャンパスでは、学生同士の議論やグループ発表に向けての意見交換、教え合いがあった。それを活性化するため、各大学は校舎内に「ラーニング・コモンズ」と呼ばれる学生が気軽に議論できるスペースを設けている。また、学生は、クラブやサークル活動、アルバイトなどを通して、人間関係を学び、コミュニケーション能力を育んできた。「今の学生はコミュニケーション能力に欠ける」と、採用する企業でよく言われる。それを鍛えて社会に送り出してほしいとの要望は強いのだ。しかし、コロナ禍によって、機会の多くが失われ、どう穴埋めしていくのかが大きな課題だ。

 こういった機会を提供するためにも、感染対策に留意したうえで、対面再開への道を徐々に開いていくことが重要だろう。一方で、オンライン授業の利点もあった。学生の出席率が高くなり、授業への参加態度も、対面授業より積極的なケースが目立つ。「オンデマンド」なら、いつでも自由に何度も見ることができるので、学生の学力が上がった。

 大学の経営陣にもメリットがあった。オンラインになって、授業を学内の誰もが視聴できるようになり、教員の授業評価が簡単にできるようになったのだ。今までは「ブラックボックス」だった授業の中身が、はっきり可視化できる。これをもとにすれば、今後は、さらに授業改善が進み、評価の低い大学教員の淘汰が進むだろう。教員の授業が分かりやすいかどうか、学力を鍛えてくれるかどうかは、大学選びには欠かせない要素となるはずで、大学は優秀な教員を集めたり、育成したりすることがより一層求められる。大学の質が上がれば、学生にとって好都合だ。

 対面を再開しても、当面はオンライン授業との併用が現実的だろう。こうしたオンラインのメリットは、引き継いでいくべきと考える。

 ▽実は「まじめ」な大学生

 実は、今の学生は「まじめ」だ。大学に行かず、アルバイトに明け暮れたり、遊んだりしていても卒業できた親世代の時代は、とっくに終わっている。「授業の出席数を学生の成績判定に活用するな」と文部科学省が言うほど、授業に出席するのは当たり前だ。例えば2単位を取るには、90分の講義を15回受けることが求められ、休講すれば必ず補講をしなければならない。昔のように休講になったら学生が喜ぶことはない。

 成績もGPA制度と呼ばれる評価方法で、より厳格につけられている。同制度は、学生の履修科目の成績評価を点数化し、それらの平均で評価基準を与えるもので、学生は好成績をとらないことには、就職に影響すると考えている。同じ科目を複数の教員が担当する場合でも、授業内容や成績のつけ方の統一が図られているため、楽に単位を認める教員などいない。教員が授業をきっちり行い、学生がしっかり学ぶのは当たり前。教員が授業開始時間から遅れたり、終了時間より早く授業を終わったりすると、学生から文句が出る時代なのだ。

 リモート授業が続く中、経済苦などから、多くの大学で年度末に退学者や休学者が増えるとの予想も報じられている。まじめに学業と向き合う今の学生たちに対して、コロナ禍でも大学には、最大限寄り添う姿勢を見せてほしい。

2020年の大学入試センター試験。受験生には大学進学への不安が広がっている。

 ▽戸惑う受験生

 現役の学生とともに、今後の大学の動向に気をかけるのが受験生だ。来年度の授業がどうなるか不透明では、不安が大きい。早く「オンライン授業と対面授業が半々」など、大学が公表すれば、それをもとに志望校を選ぶことが可能になる。しかし、コロナ感染拡大の行方が分からず、公表の動きは鈍いままだ。受験生にとっても、地方から東京の大学に進学して、すべてオンライン授業だとしたら、東京で学ぶ意味がないだろう。友達も画面の中だけでしか会わず、話せないのでは、自宅から授業を受けていても同じだ。

大学入試センターが発表した2021年度の大学入学共通テストの志願者数は53万5245人。前年度比で4.0%減少した。今こそ、大学には学生、受験生が不安を少しでも解消できるよう、今後の展望を示すべきだ。いつまでも「萎縮」している場合ではない。

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