コロナ禍で家計負担が増える!? 高齢者医療費負担引き上げに児童手当削減…期待外れの第三次補正予算案

政府は2020年度第3次補正予算案を近日中に閣議決定する見込みです。2021年度当初予算案と合わせた15ヵ月予算となるもので、主な政策は以下の通りです。

<文:ファンドマネージャー 山崎慧>


政府は第三次補正予算案を閣議決定へ

● 新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金の増額による医療体制の強化。
● 全国民分の数量確保を目指したワクチン接種体制の整備。接種費用の国費負担。
● 地方創生臨時交付金の拡充。
● 営業時間短縮要請の協力金。
● Go To トラベル・イートの6月末まで延長。段階的見直し。
● 既存政策の延長雇用調整助成金特例措置の2月末まで延長。段階的に縮減。
● 資金繰り支援の延長。民間金融機関は3月末、日本政策金融公庫は2021年前半。
● 中小企業の事業転換・再編支援。
● 経営統合を行う地域金融機関への資金交付制度創設。
● 脱炭素に向けた革新技術開発を支援する基金創設。
● 脱炭素投資減税。
● 電気・燃料電池自動車の普及促進。
● 国内外でのサプライチェーンの強靭化支援。
● 国土強靭化5ヵ年対策。
● 世界に伍する規模の大学ファンド創設。
● 自治体システムの共通化、行政手続きのオンライン化。

事業規模は73.6兆円。財政支出は40兆円とされています。しかし、貸し付けである財政投融資などを除いた国費が30.6兆円で、本予算への組み入れ分を除いた今回の真水は20.1兆円程度となります。

Go To キャンペーン、資金繰り支援、雇用調整助成金は延長

評価できる点はGo To キャンペーン、資金繰り支援、雇用調整助成金の特例措置(助成率100%)の延長です。

10月の景気ウォッチャー調査では、改善の方向感を示す現況DIが2014年以来となる54.5まで上昇しました。けん引役となっているのが飲食業と旅行業で、現況DIがともに過去最高となったほか、水準でも通常の閑散期のレベルまで大幅に回復しています。

景気ウォッチャーによるコメントでは「Go To キャンペーン」という文言が80回も登場し、7月から開始されたトラベル・イート事業の本格化が回復の起爆剤になったことがうかがえます。

飲食・旅行業は、引き続き厳しい経営状況が続いているものの、落ち込みを和らげたという点でGo To キャンペーンが飲食・旅行業にとって大きな助けとなったのは明らかです。感染拡大を受けて当面は縮小を余儀なくされるものの、感染が鈍化した時点で迅速に再開できる体制が望まれます。

雇用調整助成金の特例措置と資金繰り支援の延長も、事前に広く予想されていましたが、評価できる内容です。平時であれば、収益力の乏しい企業を資金繰り支援によって延命させることは好ましくありません。しかし、失業予備軍ともいえる休業者は依然として170万人おり、このまま企業が破綻し大量の失業が発生すると、その後の回復もおぼつかなくなります。

景気回復を確実にしていくためには企業の存続と雇用の維持が必要です。今回の補正予算はこれらの最低ラインはクリアしたと言えます。

家計向け給付金は含まれず真水は予想以下

一方、失望的だったのは家計向け給付金が含まれなかったことです。コロナ禍の特徴として、年金受給世帯をはじめとした大部分の家計収入への影響が限定的な一方、一部業種に属する世帯で収入が大幅に減っていることが挙げられます。

「新しい生活様式」からの出口が見通せない中、収入が大幅に減った世帯に限定してマイナンバーに紐づけて30万円を給付するという当初の案を中心に、家計向け給付金は前向きに検討されるべきでした。

今回の補正予算では脱炭素減税などの地球温暖化対策も目立ちますが、コロナ禍において家計向け支援よりも優先させるべき政策課題とは思えません。また、今回の補正予算に合わせて高齢者医療費負担の2割への引き上げと児童手当の削減も閣議決定される見込みで、家計負担はむしろ増えるというやや信じがたい状況です。

世耕参院幹事長が「30兆円ぐらいの真水があってもいい」と発言するなど予算の大型化観測も出ていましたが、実際の真水の金額はそれを大きく下回りました。また、今回も予備費が5兆円含まれるほか、脱炭素基金など短期的な景気の支えにはならない項目も計上されており、見た目以上に中身に乏しい印象です。

今回の第三次補正予算は家計向け給付金や持続化給付金が含まれた第一次、第二次補正と比べて大幅に見劣りしています。著者は、必要最低限なレベルはクリアしたものの期待に沿う内容にはならなかった、と評価しています。

補正予算を用いた一刻も早い医療体制の強化を

今後期待がかかるのは、緊急包括支援交付金による医療体制の強化です。新型コロナウイルスの感染再拡大を受けて一部では局地的な医療崩壊が報じられていますが、最も状況が深刻とされる大阪府でも、人口880万人に対して重症者は150人程度です。

緊急事態宣言以降、診療報酬は減少した状況が続き、大部分の病院は通常時より稼働率が落ちています。こうした医療の偏在を解消するためにはコロナ対応に向けた医療従事者、病床確保への追加的な予算の大幅拡充が求められます。

人口当たりベッド数など医療体制の指標が世界トップクラスの日本で、欧米対比で重症者が大幅に少ない中、局地的な医療崩壊によって外出自粛が全国的に呼び掛けられる状況はどう考えてもいびつです。

医療体制の強化がなされない中、都道府県による外出自粛要請を受けて日本の移動指数は直近で低下しています。忘年会や新年会、年末年始の旅行需要にも期待できず、社会的な閉塞感は続きそうです。

すでに社会問題となりつつある失業、廃業、自殺者、家庭内暴力、精神疾患の増加、出生率のさらなる低下が懸念されます。給付金が無い中で家計へのダメージを和らげるには、生活を平常時に近づけるしかありません。

給付金を配らないという決断を下した以上、今回の補正予算を用いた一刻も早い医療体制の強化は、医療業界だけでなく行政の責任と言えます。

※内容は筆者個人の見解で所属組織の見解ではありません。

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