『悲熊(1)』キューライス著 優しさがキラキラ輝く物語

 「ネコノヒー」「スキウサギ」「スキネズミ」など、多くの魅力的なキャラクターを生み出してきた漫画家・キューライス。彼の新刊は、悲しみに満ち満ちた悲劇の熊、「悲熊」が主人公の物語だ。

 傷つきやすくて悲観的、おまけに被害妄想も激しい。目の前の人に共感して悲しくなり、目の前に誰もいなくても誰かの悲しみを想像するだけ悲しくなる。良かれと思ってやったことが全部裏目に出て、疑われたり叱られたり。味噌汁こぼす、ソフトクリーム落とす、落としたケーキの箱が車に轢かれ、そして蕎麦湯が来ない。職場は漆黒級のブラック企業で、ボーナスはどんぐり、日曜日は打刻が禁止、ポスターには「月月火水木金金」の文字……。

 とにかく冴えなくて、とことん運が悪い。悲熊の日々は見事に悲しいことばかりだけど、だからその分、小さな小さな幸せをめいっぱい噛み締めることができる。その健気さに触れ、周りの人たちはそっと優しさを差し出すのだ。

 スーパーのおばちゃんは買わなくてもいいからとすき焼きの試食をさせてくれ、焼き芋屋のおじさんはお金が足りない悲熊を見て、何も言わずに看板に「ハーフサイズ」を書き足してくれる。同僚のヒグマは仕事中に居眠りをしてしまった悲熊の仕事を何も言わずに助けてくれ、ハンバーガー屋さんで仲良くなったのりこさんは、お金がなくてすき焼きを食べられない悲熊のために、クリスマスパーティーにすき焼きを用意して招待してくれた。

 どんなに晴れても夜空は暗く、悲しいことの方がはるかに多い。それでも闇夜にまたたく星のような、時折触れる優しさがキラキラ輝く物語。こんなふうに誰かの幸せを掛け値なく願い、誰かに差し出された優しさをまっすぐ受け取ることができたら、今よりも少し顔を上げられるようになるかもしれない。生きることは恐れるに足りないものだと気付いて。

(LINE Digital Frontier 1000円+税)=アリー・マントワネット

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