『今日も嫁を口説こうか』平子祐希著 野生の高2カップル爆誕

 175回。なんの数字かおわかりだろうか。これは本書の中で、著者が妻の名前「真由美」を登場させた回数だ。ちなみに全188ページ中175回。お、おう……。

 芸人・アルコ&ピースのボケ担当、平子祐希によるこのエッセー。テーマはタイトルの通り「嫁」である。愛妻家として知られる平子は、出会って16年が経った妻・真由美と、今も「付き合いたての高校2年生カップルの熱量」を保ち続けているのだとか。

 友達の友達として出会い、第一印象はお互いにファッションもノリも大嫌いなタイプだったという。その関係が決定的に変わったのは、友達として軽いハグをしたときのこと。「私たち、もともとひとつだったんじゃない!?」と思ってしまうほどの「絶対的な一体感」を抱く二人。野生のカップル爆誕の瞬間だ。そこから現在に至るまでの、平たく言えば馴れ初めと惚気、またマンネリ知らずの恋愛関係を継続する秘訣をまとめている。

 「家事はデートだ」「ケンカは好みの異性のカタログの見せ合い」「『良き夫』『良き妻』の概念を捨てよ」「一生の責任を負うという感覚は、ナルシシズムの極致だ」「今、自分の置かれている環境を疎ましいものだと恨み続けるのか。はたまた、そうした環境を最大限に謳歌し、遊び場にするか」……。

 「いい夫」を捨てよと言いながら、結果いい夫的行動で妻から感謝される平子。そのモチベーションは一貫して「僕は圧倒的な恋愛感情100%で真由美が好きなだけ」ということ。愛情なのか欲望なのか衝動なのか、なんと呼んだらいいのかわからない感情に身を任せ、妻にモテたい、喜んでもらいたい一心で家の中でもこまめに働く平子。そのまっすぐさに応えるように、真由美も深い愛情で平子を支え、応援する。「つがい」という言葉がよく似合うベストカップルぶり。そら175回名前を呼ぶわ。

 ネタだと舐めてかかったら大間違い。まったく新しいような、すっかり忘れてしまっていたような、愛する人との向き合い方を提案する一冊だ。野性の動物的勘に突き動かされていると言ったらいいのか、理屈も打算も見栄もない純度の高い関係に、気付けば胸を打たれていた。

 「いつだって“これが最後”と思って抱いている」という平子。今この瞬間の幸せと向き合うことは、その裏にある切なさと向き合うことでもあるのかもしれない。

(扶桑社 1300円+税)=アリー・マントワネット

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