コロナ禍、不動産市場の実態は?

「大都市の駅近マンションに需要がなくなる」説は本当だったか

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 新型コロナの感染拡大で「不動産市場は冷え込む」「移住が進んで駅近のマンションの需要がなくなる」などの言説が広がった。しかし、ふたを開けると首都圏の住宅市場は活況で、海外からの不動産投資も増えるなど様相はかなり異なっているようだ。不動産コンサルタントの長嶋修氏が、住宅・不動産全体の市場について解説する。

▽住宅の活発な取引

 緊急事態宣言中には「都市部の不動産需要が落ち込む」という言説が広がったのは記憶に新しい。

 結果的にオフィスの空室率は上昇したものの、都心や都市部から郊外・地方への目立った人口移動は起きておらず、大都市の住宅市場は好調だ。

 東日本不動産流通機構の調査で は、10月の首都圏(東京・埼玉・千葉・神奈川)の中古マンションの成約件数は3636件と、前年同月比31・2%増となった。10月としては1990年の統計開始以降、過去最高の水準だ。平方メートル当たりの単価も4・8%、成約価格は5・4%上昇し、いずれも5~6ヶ月連続で前年同月を上回っている。首都圏の中古の一戸建てはとりわけ好調で、41・8%増だ。

 首都圏の新築マンションの販売も大幅に回復。不動産経済研究所によると、10月の発売戸数は前年同月比67・3%増の3358戸で、価格も上昇している。契約率は好調の目安とされる「70%」の水準を上回っている。新築の一戸建ても同様の状況だ。

 バブル崩壊や、2008年のリーマンショックと今回が決定的に異なるのは、金融機関によるいわゆる「貸しはがし」といった事象が起きていないこと、そして「金融システムが破綻していない」ことの2点だ。

 リーマンショックでは、多数の新築マンションデベロッパーが資金繰りで耐えきれず、数千万円単位の値引きを行うなどして新築マンションを投げ売った。それでも資金繰りで持ちこたえられず、複数のデベロッパーが破綻した。こうした流れは中古マンションの市場にも波及した。

 しかし、今回のコロナ禍では、積極的な財政出動や金融緩和 が実行されたため、投げ売りが起こることはなかった。

 新型コロナの影響がもっと深刻で「ロックダウン」が長期的に渡って行われるといった事態になっていれば状況が全く異なっていた可能性も否定はできない。しかし、日本は欧米などと比較し感染者数・死者数ともに少なく、緊急事態宣言中に売買を「自粛」されていた中古マンションも、モデルルームが休業していた新築マンションも、内覧できるようになった一戸建ても、 緊急事態宣言前以上の活発な取引が行われるようになった。

▽コロナ禍でマンションが「勝つ」?

 次に、マンション建設の動向について考えてみよう。

 2000年代前半に8万戸台だった首都圏の新築マンション発売戸数は、19年には3万1000戸にまで減少した。これはマンションのニーズが「都心」「駅前・駅近」「大規模」「タワー」といったワードに代表される立地に集中するようになり開発用地が限定され、ホテル用地と競合していた事情があるからだ。

 大都市では、ホテルとマンションの用地取得がバッティングすることは多い。一般的にホテルのほうが収益性は高く、特にここ数年はインバウンド需要を見込んだホテル建設の用地取得が、新築マンションの用地取得を阻んできた。マンションのデベロッパーはホテル業者に土地を「持っていかれる」のを、指をくわえて見ているしかなかった。

 今回のコロナ禍で、ホテルなどの宿泊施設は軒並み業績不振に陥っている。インバウンド需要がほぼ消滅、感染再拡大でGoToトラベルも見直しを迫られている状況だ。

 仮にコロナ禍が長期化すれば、用地の取引価格がやや下がることはあるかもしれないが、ホテルが建つような好立地の新築マンションの建設が増える可能性もあるのではないかと筆者はみている。

▽「都心」「駅近」の需要拡大の一方…

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 近年、住宅の需要は、共働き世帯の圧倒的な増加や自動車保有比率の低下などから、通勤や買い物を始めとする生活利便性重視となっている。

 テレワークの進展も「都心」「駅前・駅近」のニーズに拍車をかける可能性がある。人材情報会社の学情が今年5月、20代の男女542人を対象に実施したアンケートでは、テレワーク経験者の約7割は「通勤時間をもっと短くしたい」と答えた。希望通勤時間の平均は29分。「15分~30分」「30分~45分」を希望する人が大半を占めた。

 ただ、全国一律で不動産市場が活況かというと、まったくそんなことはない。

 国土交通省が11月30日発表した10月の全国の新設住宅着工戸数は、前年同月比8・3%減の7万685戸と16ヶ月連続の前年割れとなった。

 銀行の不正融資問題や、アパートの建築偽装問題などで、賃貸を目的とした物件に対する金融機関の融資姿勢が厳しくなっていたうえに、新型コロナの流行による景気の停滞がさらなる下押し要因となった格好だ。

 とりわけ自動車保有比率が低い大都市圏では、住宅のニーズは駅から近い物件に集中している。通勤や買い物に不便な物件は、 いくら価格や賃料が安くても、買い手や借り手はそう簡単には見つからない。

 全国の空き家は2033年に2000万戸近くに上るとのシンクタンクの試算もある。今後、地方や、かつてベッドタウンと呼ばれた都市郊外などで、築年数が古い空き家の大量発生も見込まれる。

▽海外からも「触手」

 都心の中古マンション市場は日経平均株価の推移とおおむね連動するといわれる。日経平均は緊急事態宣言前に一時、1万6000円台まで落ち込んだが、現在は2万6652円(12月11日終値)と、コロナの感染拡大前を大きく上回る水準まで上昇している。新築マンションの在庫も減少傾向にあり、利便性の高い場所に立地する一戸建ても含め、 今後、さらに需要が高まると筆者は予測している。

 そして、他の先進国に比べコロナの影響が少なく社会が安定しているうえ、割安感のある日本の不動産には、海外マネーの触手が伸び始めている。

 不動産サービス会社ジョーンズラングラサールの調査では、今年1~9月期の東京への不動産投資額は194億ドル(約2兆円)で、世界の都市別で首位となった。昨年同期にトップだったニューヨーク、2位だったパリにも大きく差をつけた。コロナ禍で需要が増している物流施設や、安定的な収益を見込める賃貸マンションへの投資が増えているそうだ。

 特に、海外の投資家が日本国内の不動産を購入する「インバウンド投資」は好調で、1~9月期で1兆3268億円と、昨年1年間の投資額をすでに上回っているという。

 筆者が知る限りでも、1000億円規模の海外の不動産投資 ファンドが日本の不動産市場への参入を表明しているほか、筆者自身にも複数の照会がある。今後も日本の不動産への投資はさらに拡大する可能性がある。

 ただ、マネーが流入するのは東京などの大都市の利便性が高い場所に限られると筆者は考えている。日本の不動産は、以前から進行していた「価値が維持されるか上昇する」15%、「ダラダラ下落する」70%、「無価値になる」15%の「3極化」を、コロナ禍でさらに加速させることだろう。(不動産コンサルタント=長嶋修)