47知事の履歴書を調査~東京大学26人・他府県出身19人(八幡和郎)

2020年も4都県で知事選挙が行われたが、東京の小池百合子、熊本の蒲島郁夫知事は順当に現職勝利になったが、富山と鹿児島では現職が敗北して、新田八朗、塩田康一という清新な実力派知事が誕生した。 現職知事の再選率は従来、9割くらいあったのに、4人のうち2人が負けたのは驚天動地。もちろん、富山は多選と高齢、鹿児島は実務能力不足という現職に敗北の原因があったのかもしれないが、現職ならたいてい当選という図式に変化が出る予兆かもしれない。

私はかつて、『歴代知事300人 日本全国「現代の殿様」』(光文社新書)、『地方維新vs 土着権力 47都道府県政治地図』(文春新書)という本を書いたことがあって電子書籍ではいまも手に入る。  また、『47都道府県政治地図』(啓文社書房)にも衆参両議院の議員の選挙事情とともに、戦後の歴代知事の短い紹介をしている。また、今週発売になる『日本史が面白くなる47都道府県県庁所在地誕生の謎 』(知恵の森文庫)では、その知事たちの城である県庁舎の歴史をたどっている。 

そこで、これを機会に、何度かに分けて、昭和22年に始まった公選知事の歴史を振り返り、地方自治の回顧と将来展望をしてみようと思う。これまでの70年のあいだの知事の総数は、精査はしてないが、ざっと数えると延べ331人だと思う(2人は離任したあと再任)。

まず、今回は知事たちの経歴に焦点を合わせてみよう。 ここでは、時系列で理解できるように、1947、1977、2007、2020年における数字を別表に並べてみた。1947年に行われた初の知事公選の当選者を見ると、当該都道府県の官選知事を経験した者が27人と過半数を占めた。これは、旧体制への郷愁というよりは、消去法でそうなったとみた方がいい。

まず、第一に、新憲法と地方自治法の発足を翌月にひかえて、衆参両議院選挙、都道府県と市町村の首長や議会の選挙がいっせいに行われた。しかも、占領軍の命令によって公職追放が広汎に行われたので、候補者が不足していた。とくに、有力な民間政治家は国会議員をめざす傾向が強かったようである。

そして第二に、当時は二大政党でなく、自由、民主、社会をはじめとする小党乱立だったので、複数政党の合従連衡を組むためには、政党人よりも官選知事を初めとする官僚が好ましかった。  ただし、この官選知事は、最後に職にあった人ではないのが普通だ。官選知事が立候補するに当たっては、選挙管理知事に近い性格の後任者の任命がいったんされたので、多くの場合は、最後から二人目の官選知事が横滑りした。  官選知事の主流は内務官僚だったが、民間からの登用が3人、外務が2、商工、農林、農商務(農林と商工の分離前の採用)、逓信がそれぞれ一人ずついた。  また、霞ヶ関出身者としては、いずれも他府県の官選知事経験者で地元出身の内務官僚と農林官僚が一人ずつ、商工省の地方出先トップ、元検事にして元代議士、それに商工官僚経験がある元貴族院議員がいた。いわゆる中央官僚ということでいうと、官選知事の総数と結果的には同じ27人だった。

その後、革新自治体が増えたりしたこともあり『地方の時代』といわれた1970年代には減少したが、最近ではコンスタントに半数以上を占めている。  現在の状況を数えてみると、総務省12,経済産業省8人、外務省、財務省、国土交通省(旧運輸省)2,農水省1人である。旧自治省以来、総務省が多いのは当然だが、平松守彦大分県知事以来、経済産業省がそれに次ぐ数を送り込んでいる。 地方公務員は1947年には二人でそのうち一人は労組委員長だった。その後、1977年には11人にもなった。庁内の出世頭が、50歳前後で部長や副知事になって、そこからオール与党体制でというのがひとつのパターンだった。

しかし、現在はわずか4人で、しかも、北海道の鈴木直道は東京都職員から夕張市に出向、栃木県の福田富一は高校を卒業して県職員になったが早々に宇都宮市議に転進した。秋田県の佐竹敬久は秋田県職員だが角館佐竹家ということで一目置かれ、普通と違うキャリアを歩み総務部長から知事選挙に出馬したが落選。その後、秋田市長を経て知事になったので、特殊例だ。結局、副知事から知事になった長崎県の中村法道のみが1970年代型のオーソドックスな地方公務員出身者だ。 極端な年功序列で50歳で課長がやっとという人事ではチャンピオンは生まれない。

私が提案するとすれば、県庁プロパーの部長は50歳くらいを標準として、あとは定年までラインをはずれた役職についてもらえばいいのではないか。  理事とか参事とかいう、昔の軍隊で言えば大佐だとか中尉だとかいった肩書きと仕事を切り離すのも一案だ。現状では、県庁に入って地方公務員になって、知事になる可能性はほぼゼロなのである。  女性は太田房江大阪府知事の誕生からときどき現れているが、その後、頭打ちだ。小池東京都知事になって一気に増えるかと思ったが、逆に悪い見本になってしまったという人もいる。やはり、目立った成功を収める女性知事がでてこないと状況は大きく変わることはないのではないか。

現職の学歴では東京大学以外は、京都、一橋、早大、慶応が2であとはひとりずつだ。旧帝大では東北と九州がひとりずつ。  留学、勤務を含めて海外経験を持つ人も多い。プロフィールやwikipediaの記事に入れてない人もありうるので、見落としがあるかもしれないが、私の計算では、18人が在外経験者だ。留学では米国のほか、フランス国立行政学院(ENA)出身の古田肇岐阜県知事や問題のカイロ大学卒と言われる小池知事もいる。  勤務先ではイタリアが花角英世新潟県知事、仁坂吉伸和歌山県知事、塩田康一鹿児島県知事と三人いるのが面白い。もう辞めたが、仲井眞弘多沖縄県知事もイタリア留学だった。 あと、地元出身でない知事が19人というと驚く人が多いが、その個別事情は、別の回に紹介したい。

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