【デジタルでドラッグストアは何をするのか?】かかりつけドラッグストアの答え

「外来調剤の服薬フォローの場で、ICTを活用した多職種の情報共有を推進することで患者を中心にしたシームレスな支援につながる」。今後、ドラッグストアが取り組むべきデジタル活用の方向性について、龍生堂本店の関口周吉社長はこう答える。地域包括ケアが叫ばれる中、実は在宅医療の場では多職種での情報共有システムが整いつつある一方、“入院でも在宅でもない”外来調剤は情報共有の面で遅れている領域になっている。患者は入院、外来、在宅を行ったり来たりするのが現実であり、外来調剤における情報連携はシームレスな患者支援には不可欠だ。

“外来調剤”の服薬フォローをICTで効率化

こうした将来展望が描けるのは、同社が売上の65%を調剤事業が占め、物販から調剤、在宅医療まで切れ目なく地域住民の生活支援にあたる「かかりつけドラッグストア」だからだろう。

龍生堂本店は本社のある東京都新宿区を地盤に29店舗のドラッグストアを展開。店舗数こそ多いわけではないが、同社が古くから掲げてきた「かかりつけドラッグストア」の業態は、業界関係者から高い注目を集めてきたもので、関口社長の父である先代の故関口信行氏は、日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)の第3代会長を務めた。関口社長自身もJACDSの理事を務めている。

現在、同社は在宅医療現場で新宿区限定の医療連携システムを利用している。ざっくりいうと、SNSのようなシステムで、医療職種が患者さんに関する情報を書き込み、お互いに共有することができる。

SNSの良さと同じように、リアルタイムで情報がアップされること、確認するのは読む側が都合の良い時間でできることなど、多くのメリットがある。このシステムを活用することで、多職種から「薬剤師さんからの情報は役立つ」と言われることも増えたという。

課題として挙げられるのは、新宿区限定のシステムのため、区境に住んでいる患者・顧客の情報のやりとりができないこと。ここは今後、共通システムのエリアが拡大していく流れや、都内共通システムの登場などが待たれるところだ。

「こうしたシステムを外来調剤でも導入すべきだ」というのが、関口社長の考えだ。

それができれば、リアルタイムでの情報共有のメリットなどが外来調剤でも享受できることになる。

また、業務効率化のメリットも大きい。薬機法改正で服薬中の状況フォローが義務化された。薬剤師は必要に応じて調剤薬を渡した患者の状況を確認する。しかし、この得た情報の医師へのフィードバックはFAXや文書などが用いられている。情報の効率的な蓄積や薬剤師の業務負担の重さなどが問題になってくることも考えられる。

こうしたICTの活用は薬局・ドラッグストアに限らず、医療現場でも進んでいる。2020年春の診療報酬改定では、在宅患者緊急時等カンファレンスなどでICT 活用が認められた。複数の人が関わる情報共有をICTによって、いかに効率化するかは共通の課題だ。

「通院以上在宅未満」の人のスクリーニング

関口社長がもう一つ、ICT活用で取り組むべき課題と捉えているのが、「治療が困難になっている人」のスクリーニングだ。

業界の成長は「必要とされるか否か」次第

こうした地域への貢献に思いを巡らせているのも、「ドラッグストア産業が将来的にも成長するか否かは、ドラッグストア産業が社会から必要とされる存在になっているか否か次第だ」という関口社長の考えがある。

「昭和から平成になって、令和になりました。昭和と令和は“和”という文字が共通しています。昭和にあって、平成に失われたもの。それを取り戻すことが令和の宿題のように感じています。それは例えば、人と人とのつながりや縁のようなものではないでしょうか。それを取り戻すためのツールの一つがデジタルだと思うのです」(関口社長)

デジタル庁の創設が新聞紙上をにぎわせ、少子高齢社会下で生産性を高める施策として注目を集める。ただ、効率化だけでは、ドラッグストア業界が担う「健康」、もっというと「幸福」に価値は生み出せない。

くしくもコロナで社会から注目度、存在感も高まったドラッグストア業界から、デジタル業界に伝えるべきメッセージはたくさんありそうだ。

せきぐち・しゅうきち 1973年生まれ。帝京大学薬学部卒業後、株式会社龍生堂本店に入社。その後、調剤事業部長、営業本部長を経験したのち、1999年に同社取締役。2016年から現職。

【編集部より】本インタビューは、薬学生向け「MIL NEXT VISION」との連動企画です。ぜひ、そちらもご覧ください。

「薬剤師は社会に貢献するために存在している」関口周吉(龍生堂本店)

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