「うそつき」 裏切られた教会近づけず 被害「隠蔽」と症状悪化 カトリック聖職者の性被害

女性は今もPTSDの症状に苦しみ、教会には近づいていない(写真はイメージ)

 カトリック長崎大司教区に所属する男性神父から性被害を受け、その後の対応でさらに傷ついたとして、大司教区を相手に提訴する女性が長崎新聞の取材に応じた。今年夏から数回にわたって胸の内を明かし、大司教区に対して「裏切られた」との思いを語った。

 女性によると、男性神父とは家族ぐるみで17年来の付き合いがあった。女性は男性神父がアルコールに依存していることを知っていた。2018年5月、女性は他の神父らに頼まれ、男性神父を見舞うために県内の教会を訪ねた。神父の住居である司祭館に入ると、酒の臭いが充満し、部屋は散らかっていた。片付けようと台所に立った時。突然、男性神父に後ろから覆いかぶさられた。目の前に包丁があり、女性は「下手したら殺される」と思った。無理やり体を触られても「やめてください」と声を振り絞るのが精いっぱいだったという。
 女性は心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症。神父の祭服を見ると恐怖がよみがえり、叫び声を上げたこともある。ミサの時間に震えが止まらず、フラッシュバックが起きるとその間の記憶を失った。仕事を辞めざるを得なくなった。
 だが、神父らの対応は女性をますます傷つけた。警察に被害届を出そうとすると、思いとどまるよう促されたという。「最後までしてないんだから」「信徒は神父の言うことを聞いて当たり前」とも言われた。女性は自分を責め、何度も自殺を考えたという。「本当にきついのに、それを分かってもらえなかった」
 女性と大司教区の示談は19年8月に成立した。男性神父のわいせつ行為の結果、女性がPTSDを発症したことで生じた損害に対し、大司教区が賠償金を支払うというものだった。
 県警は今年2月、男性神父を強制わいせつの疑いで書類送検。だが長崎地検は4月、不起訴とした。大司教区は報道機関に「(女性に)今後も誠意を持って対応する。(聖職者による性被害を)二度と起こさないよう再発防止に全力を尽くす」との声明を出した。
 しかし、女性の苦しみは終わらなかった。大司教区内の会議の議事録に高見三明大司教の発言が載った。「女性のことは『被害者』と言えば誤解を招く。『被害を受けたと思っている人』などの表現が望ましい」
 発言は男性神父が不起訴になったことを受けてのものだった。議事録は不特定多数の神父や信徒が目にしうる文書。女性は被害自体が「隠蔽(いんぺい)」されてしまうと感じ、症状がさらに悪化した。「被害者でないなら、なぜこんなに苦しむのか。いっぱい傷ついたのに、まだ、こんなに傷つけられないといけないのか…」
 この女性を支え、女性が「命綱」と呼ぶ大司教区の職員も、別の神父らからパワハラを受けPTSDを発症したとして休職している。
 女性はいま、自宅のカーテンを一日中閉めてふさぎ込み、孤独に症状と闘う日々が続いている。教会では許しや慈しみを説かれたが、今では怖くて近づけなくなった。教会への思いを問われ、女性は力なくつぶやいた。
 「うそつき」


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