「包括的担保」、金融庁・尾﨑監督局総務課長に聞く(後編)

-包括的担保では、企業側が自社の強み・弱みを把握し、それを伝える力があることが前提になっていると感じる。

 研究会の中でも出ていた議論だ。事業者は、金融機関に対して、自分たちの事業の中身をしっかり開示して説明する必要がある、それが融資を受ける際の大前提になる、との話があった。

-それを全ての事業者は出来るのか。事業者への支援は。

 金融機関側が事業者に寄り添って支援できるかどうかは、事業者側の努力も重要だ。ただ、強み・弱みを事業者がアピールする、金融機関がそれを理解して対応するということまで至らなくとも、事業者と金融機関がコミュニケーションを通じて相互理解を深めていけば、金融機関は事業者に寄り添っていくことはできる。包括的担保は、融資後もコミュニケーションを継続していくツールになる。事業者も自分たちの経営を高めていくことが可能になる。

-定性情報が重要になるが、ローカルベンチマーク(経済産業省が推進する経営診断ツール)のようなものが登場するのか。

 既に様々なベンチマークがあるなかで、金融庁として新たに何か作ることは念頭にない。金融機関側は事業者支援のための最適な方法をとることになる。現在の法制度のなかで、経営者保証なしには資金にアクセスしにくい、十分に資金調達できない事業者にも新たな選択肢を提供できればと考える。金融緩和のなか、格付けが高く無担保・無保証で借りられるような事業者に融資が集中する一方、それ以外の事業者をどのように支援するのかが重要な課題であると、これまでも申し上げてきた。もちろん、これまでの枠組みを全部ひっくり返すような話では全くない。これまで個別担保も含めてうまく回っていた融資実務があって、事業者が望む限り、それらは尊重されるべきだ。

-“日本型金融排除”の問題意識と繋がる。

 根底は同じだと思う。将来性があっても、経営者保証を負わざるを得ない、借りられないような事業者に新たな選択肢がいる。

-その一方で、すべての事業者がキャッシュフローの増大、成長を求めているのか。現状維持でいいとの判断もある。

 経営判断の問題だと思うが、現状維持自体も非常に難しくなっている時代でもある。将来のキャッシュフローに対して関心がないということはないのではないか。そこに着目するのは、金融機関にとっても重要だと思う。

-金融検査マニュアル廃止で“フォワードルッキング引当”の取り組みもあるが、考え方は近いのか。

 事業価値は現在の有形資産の価値とイコールではない。将来のキャッシュフローが重要になる。将来を見るという点では、共通しているところもある。

-引当の合理性は判断が難しいとの話もある。

 「にわとりが先か卵か先か」になるが、制度ができて金融機関が事業に包括的担保を設定する実務が出てくれば、モニタリングをしっかり行うことにより、絶えず事業をみていくことになる。継続的にやっていくなかで、金融機関のノウハウも磨かれていくのではないか。

-経営者保証との兼ね合いは。

 経営者保証を取らなくてはいけない理由は、信用補完や債務者への規律付けなどがある。包括的担保の場合、期中管理をより深く行えるようになるので、債務者への規律付けがなされる上に、優先弁済が確保され、債務者の状況が悪くなった場合に早期の支援ができることで、信用補完の効果もある。包括的担保の導入により経営者保証が果たしていた役割は不要になると考えている。
 経営者保証が事業承継の妨げになっているとの話もあるなか、包括的担保が、経営者保証に代わって、信用補完と規律付けの役割を果たすことが可能になるのではないか。

-リスケを繰り返している債務者への支援の在り方は変わるのか。

 包括担保の場合は、仮に延滞が不可避になった場合も、将来キャッシュフローの改善が見込まれるよう、経営改善を促すことになる。そのためには、しっかりと期中管理を行って、債務者の事業を理解しないといけない。もちろん、苦境を乗り切るためのリスケは包括的担保の下でも手段としてあり得るが、単にリスケを繰り返しても本業が改善できなければ、いずれ行き詰まる。

-すでにリスケ中の企業への対応は。

 経営改善、事業再生、事業転換等の支援を行うことで将来キャッシュフローの改善に繋げるよう支援していくことが望まれる。

-単独再生が難しい場合は。

 スポンサーに、事業を買い取っていただくこともあるだろう。スポンサーに対し、包括的担保で資金を融資することも考えられる。

-廃業支援については。

 清算する場合でも、見込みがある事業が残されていれば、切り出して生かすため、その事業に包括的担保を活用して支援することはあり得る。

-登記制度は工場財団のような仕組みを想定するのか。

 工場財団のような登記の仕組みは、コストがかかると感じている。事業全体を担保にする際は、登記制度も、なるべく効率的、簡素なもの、コストのかからないものが求められる。登記に際して、担保の中身を細かく記録することを要求するとコストがかかる。担保が存在することが分かるようにして、「警告型」のような形にすることも考えられるのではないか。包括的担保を設定したとしても、より事業を理解して支援できる債権者が現れれば、健全な競争の観点からも、担保権者の交代が出来ることが望ましい。
 新たな債権者がリファイナンスし、新たな包括担保権者になる。それがスムーズにできる制度が望ましいと考えている。貸し手の間での競争が、借り手の利益に繋がることが重要だ。

包括的担保後編

‌尾﨑有・金融庁監督局総務課長(TSR撮影)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2020年12月14日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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