【Editor's Talk Session】今月のテーマ:コロナ禍の中でタワーレコードが起こした変化

Editor's Talk Session

音楽に関するさまざなテーマを掲げて、編集部員がトークセッションを繰り広げる本企画。第13回目はタワーレコード新宿店、梅田NU茶屋町店、福岡パルコ店、本社広報から、それぞれの代表者に参加してもらった。2020年3月の緊急事態宣言が出た直後の動きや、店舗営業を休業せざるを得なかった期間のこと、そんな中でも前向きにアップデートしていった取り組みなどを語っている。

座談会参加者

■村越辰哉(新宿店)
5年の大阪勤務を経て2020年11月より新宿店に異動、久しぶりの東京生活と思いきや、ほどなくwithコロナ(泣)。でも、ラジコ生活で新たな音楽との出会いはむしろ増えました。

■木原鎌介(梅田NU茶屋町店)
2005年7月、広島店入社。20年3月、梅田NU茶屋町店に異動。ダンスミュージック全般、NBA、欧州サッカー、スーパー銭湯をこよなく愛する広島県人。

■橘 佳世(福岡パルコ店)
大阪などの店舗勤務をし、現在は福岡パルコ店勤務、入社10年目。クラシック好きですが、音楽なら何でも好き。最近は漫画も好きで冨樫義博作品をコツコツ読んでいる。

■寺浦 黎(本社広報)
大阪と埼玉での店舗勤務を経て入社4年目、マスコミの窓口担当。幼少期から打楽器が大好き、普段は刄田綴色(東京事変)の活動をウォッチしている。

■石田博嗣
大阪での音楽雑誌等の編集者を経て、music UP’s&OKMusicに関わるように。編集長だったり、ライターだったり、営業だったり、猫好きだったり…いろいろ。

■千々和香苗
学生の頃からライヴハウスで自主企画を行なったり、実費でフリーマガジンを制作するなど手探りに活動し、現在はmusic UP’s&&OKMusicにて奮闘中。ディズニーとドラマが好き。

■岩田知大
音楽雑誌の編集、アニソンイベントの制作、アイドルの運営補佐、転職サイトの制作を経て、music UP’s&OKMusicの編集者へ。元バンドマンでアニメ好きの大阪人。

新店をオープンするくらいの 意気込みで準備をしていた

タワーレコード福岡パルコ店

千々和
3月に新型コロナウイルス感染拡大の影響で緊急事態宣言が出てから、各店舗でどんな動きがありましたか?

村越
報道で新宿という地名がフォーカスされたこともあって、運営はより慎重に進めていたんですけど、新宿店が入っているデベロッパーさん全体で時短営業をすることになって、まずは営業時間がイレギュラーになりました。その段階ではここまで長く続くと思っていなかったので、いつ営業時間が戻るのかも含めて次月以降の予定を立てていたんですけど、だんだんリリース延期やイベントの中止も増えて状況が悪い方向に進んでいき…“来ていただけるお客さまに全力で楽しんでもらえるように”っていうのを一番に考えて運営をしていますが、新宿周辺は感染者数にもろリンクするような感じでしたね。

木原
僕は緊急事態宣言前に広島店から異動してきたので、お店の状況を把握できないまま休業になってしまって。休業にあたってお客さまにどういったご案内をするか本社や各店舗と連携を取ったり、スタッフのモチベーションを下げないように“これからどうやって盛り上げていくか?”ということを考えながら、いつでも営業を再開できるように準備をしていました。


週末休業が始まって、4月の半ばから1カ月半くらい休業したんですけど、その間にもリリースはありますし、お客さまからのお問合せも多くいただきました。休業中はその対応も含めて営業再開に向けて準備をしていて、いつ再開するかが分からなかったので、木原さんと同じように最高のコンディションと、それこそ新店をオープンするくらいの勢いで、“営業再開したら絶対にお客さまに喜んでもらえるようにする”っていう意気込みで準備していました。

千々和
お客さまにとっては新譜をCDショップに買いに行って、店内のポップを見て新たな出会いがあったり、アーティストにとっても作品を広めてもらうという大切な流れが中断されてしまった期間でしたよね。

村越
休業期間中も新譜の入荷があるので、商品の在庫を営業している店舗に移動させたりもしていました。営業再開に向けた段取りも状況に合わせて何段階か変わっていって、明確な計画が立てにくい時期でしたね。そんな中でも、店舗のスタッフがオンラインで商品企画の記事を書いたり、今までできていなかったことに対してアイディアを出し合ったりと、図らずも新しい取り組みができたのは、今後につながることとしてプラスになったと思います。

寺浦
私は取材も減ってしまったのでよくSNSを見ていたんですけど、スタッフが自宅で作ったポップをTwitterに載せていたんです。ハッシュタグを作って各店舗のポップが一緒に見られるようになっていて、ネット上で店舗同士でのアイディアの共有ができていた印象がありました。他にも新しい動きとかありましたか?


Twitterのモーメント機能を使って、企画ごとの情報をまとめて連載のような見せ方をしていましたね。他のお店も同時期にモーメント機能を使っていて、今までにない取り組みだったと思います。

岩田
そういった取り組みはスタッフさんからの案が多いんですか?

寺浦
基本は現場スタッフが多いですね。Twitterのアカウントも店舗ごとにあって個人名を入れて投稿することもありますし。

石田
その頃によく言われていた“音楽を止めるな”ということに対する、ひとつのアクションだったんでしょうね。

村越
そうですね。そこは休業中もそうですし、休業中に発売日を迎えた新譜があるので、営業再開後はいかにそういった作品をお客さまに届けるかを考えました。現在も、タイミングの問題でプッシュしそびれてしまった作品にスポットを当てることを意識しています。

石田
4月にライヴハウス支援のプロジェクト『LIVE FORCE, LIVE HOUSE.』を立ち上げたりもしていましたけど、本社が起こしたアクションに対して各店からの反応はあったんでしょうか?

寺浦
『LIVE FORCE, LIVE HOUSE.』のプレスリリースを出した時に、いろいろな店舗の方から“うちの地域にこんなメディアがあるんですけど、担当の方出てみませんか?”という連絡をもらったりしましたね。もともと『NO MUSIC, NO LIFE.』というコーポレート・ボイスを取り扱っている部署がやっている企画にお店のプロモーション力が紐づいて、全国に展開していった感じがしました。

今までのタワレコと新しいことが 合わさればもっと面白くなる

タワーレコード梅田NU茶屋町店

千々和
休業期間や自粛期間で新しい取り組みもやりつつ、やっと店舗の営業が再開できた時のお気持ちはいかがでしたか?


さっきも言った新店オープンくらいの心持ちで、スタッフみんなでレイアウトも変えたりしていて。個人的にも込み上げるものがありました。お客さまに来ていただいて、“いらっしゃいませ”“ありがとうございました”っていうやりとりがとても感動的で、改めて感謝した瞬間でした。常に忘れてはいけないことですけど、今もその気持ちが続いていて、“来てくださる方がいかに楽しんで帰っていただけるか?”という想いでやっています。

木原
お店を再開する時はどういった状況で営業をすることになるのか不安もあったんですけど、予想以上に多くの方が来てくださって、来られないお客さまからもかなりの数のお電話をいただきました。タワーレコード(以下、タワレコ)に勤めてから休業は初めての経験だったんですけど、お客さまが来ていただけるのは当たり前のことじゃないんだと改めて思った一日でしたね。

千々和
music UP’sもタワレコさんに置いていただいていて、営業再開後にCDと一緒に写真を撮ってSNSにあげてくれる方もいたので嬉しい気持ちでした。まだまだ油断はできない状況ですが、新宿店では再開後どうでしたか?

村越
新宿店は6月1日からの再開で他の店舗に比べてやや遅れての営業再開でした。他の店舗の様子も聞きつつ、感染対策をどのようにやるのがいいのかっていうのは今も継続しています。イベントがまだできないので、イベントスペースも商品を置く場所として売り場づくりをしたりと、タワレコが昔からやってきた店頭作りに立ち返っての再開でしたね。あと、スタッフとも久々に顔を合わせられて嬉しかったです。

千々和
アーティストから作品を預かって、それがリスナーの手に届くのを日々見届けていると思いますが、そんなみなさんから見て今の音楽業界はどう見えていますか?

村越
大きいテーマですね…今はなかなか実演奏を届ける場がないわけですよね。タワレコでいうとインストアイベントやライヴ事業が関わってくると思うんですけど、そこがなかなか思うようにできない状況だとすれば、我々の役割はいかに音源を届けるかってところだと思います。アーティストさんがライヴができないコロナ禍の中で作った作品も出てきているので、今までのライヴの中から生まれてくる楽曲だったり表現とも変わってくるんですかね。それがどのようにしたらより興味を持っていただけるのかっていうところなのかな?

木原
お店に来られるお客さまは20代の女性の方が特に多くて、その方たちが応援しているアーティストさんのリリースがある日はたくさんのお客さまがご来店されるので、自粛期間や休業期間があったとはいえ、音楽への熱は全然下がっていないと感じています。タワレコは、そういったアーティストを応援するお客さまを応援していこうと思ってます。


アーティストさんがライヴで“CDを出します”って発表するのに併せて私たちが動くこともあって、アーティストさんや音楽業界のみなさんにたくさん助けられて販売してきました。でも、今はライヴが思うようにできなくなっているので、私たちがそこをどうカバーできるのかっていうのが課題だと思ってます。私は今までのタワレコが好きでずっと働いているんですけど、これからは人が集まることが難しい状況なので、今までのタワレコの良いところと、これからアップデートしていくところが合わさったらもっと面白くなると感じています。

寺浦
アップデートという部分ではタワレコが配信のプラットフォームになって、アーティストさんがインストアイベントでやれないことをオンラインイベントとして実施できないかという提案をしています。今は電子チケットサービスのteket(テケト)さんと連携して、商品を買った人だけが観られるイベントを実施していて、渋谷店B1のスタジオから生配信をしたり、収録をしたりと、ほぼ毎日イベントをやっています。今まで渋谷に来られなかった地方や海外のお客さまがたくさんいることに気づかされるきっかけにもなり、300人くらいしか入らない会場でやっているイベントが2,000人~3,000人の方に届くっていうのは、先ほど橘が言った新しいこと、今までやってこれなかったことなんだなと。

石田
自粛期間以降、音楽特番が増えましたよね。それによって旧譜が売れてたりってことはあるんですか?

村越
動き始めてはいますね。テレビでアーカイブ映像が使われることも多いのでそういったメディアの映像や、筒美京平さんが亡くなったことも大きいですし、宮本浩次さんのカバーアルバム『ROMANCE』(2020年11月発表)のリリースだったり、昭和の歌謡曲にスポットが当たっている流れもあると思います。過去のものに目を向けたり、じっくり自分の好きなことを深堀りしていく時間を持った一年でもあるので、それが今後の音楽シーンにつながっていったらいいなと思っています。自分自身もじっくり音楽を聴く時間があって、音楽やカルチャーに対して求めていく気持ちは高まっている実感があります。

寺浦
映像作品や書籍など、時間をかけて楽しむ商品への注目も高まっていると思いますね。

石田
アーティストにインタビューをしていると、自粛期間に10代の頃に好きだった曲を聴いて“改めてロックが好きだ”と実感したと語っている人もいて、それはリスナーも同じなんじゃないかと思いますね。

千々和
サブスクが普及して音楽を聴く機会が増えた方もいると思いますが、そこから掘り下げてみると必ずCDに行き着くと思うんです。“CDはなくなる”と何度も言われてきましたが、今後はその台詞が古くなっていくんじゃないかなと。店舗としての今後の動きについてはいかがですか?

村越
渋谷店同様、イベントですね。新宿店でも徐々に再開しようとしています。お客さまがアーティストと触れ合う機会を取り戻しつつ、新宿店は10Fにアナログの専門フロアーもあるので、パッケージを手に取る喜びや贅沢もしっかり届けていきたいと思っています。若い方の姿が一番目立つ時間もあるし、最近ではレコードプレイヤーを買う方もいるので、店舗ならではのフロアーを活かしていきたいですね。

タワーレコード 新宿店 10階 「TOWER VINYL SHINJUKU / タワーヴァイナルシンジュク」

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