WEC:ル・マン復帰予定のプジョー、ハイパーカーに搭載するパワートレイン詳細を発表

 プジョーは12月14日、WEC世界耐久選手権でのスポーツカーレース復帰に向けて開発を行っているLMHル・マン・ハイパーカーについて、その核となるハイブリッドパワートレインの技術的詳細を明らかにした。

 2022年のWECで登場することが予定されているプジョーのル・マン・ハイパーカーは、排気量2.6リットルのツインターボV6エンジンと、フロントに搭載された200kWの電動モーターによって駆動される。『プジョー・ハイブリッド4 500kW』と呼ばれるこのシステムは、プジョー・スポールと同社のLMHプログラムのメインテクニカルパートナーであるトタル、さらに900Vバッテリーを供給するフランスの産業用電池メーカー、サフトが共同で開発したものだ。

 プジョーよると、後輪を駆動する後部配置の内燃機関の最大出力は500kW(約680ps)で重量は165kgだという。エンジンは7速シーケンシャル・トランスミッションに連結され、ギヤチェンジはステアリングホイールの電子制御パネルを介して行われる。

「プジョー・ハイブリッド4 500kWパワートレインのアーキテクチャは新しいWECの規定に基づき、非常に詳細に検討された結果だ」と述べるのは、プジョー・スポールのWECプログラム・パワートレインディレクターを務めるフランソワ・クードレイン。

「我々は当初、シングルターボを検討していたが、それではエンジンの重心目標を達成することができなかった」

「ツインターボV6ブロックは技術的、重量、補機類のパッケージング、信頼性、そしてパフォーマンスの間で最良のトレードオフを提供する」と、その採用理由を説明した。

 また、プジョーはLMHに搭載される200kW電気モーターは「市販車用の電気モーターとマネジメントシステムを開発してきたチームの経験が活かされている」としている。

 この200kW(約272ps)という出力は、LMHテクニカルレギュレーションで認められているエレクトリックパワーの最大出力だ。

 同規則によると、電気モーターはクルマがスリックタイヤで走行時に120km/hに達した段階と、ウエットタイヤ使用時に140~160km/hに達した場合、またはピットに向かうシーンに限り作動させることができ、120km/h以下で使用できるのはピットイン時のみとされている。

「モーター・ジェネレーション・ユニット(MGU)には軽量かつ高効率の1速トランスミッションと最新世代のインバーターを搭載し、バッテリーの電力をモーターに伝達する」とクードレインは説明する。

「パワートレインのエネルギー・マネジメントシステム戦略のおかげで、バッテリーに蓄えられたエネルギーを瞬時に使用できるようになる」

「PSAモータースポーツのWRC世界ラリー選手権(プジョー/シトロエン)とABBフォーミュラE選手権(DS)の経験は、コンピューターとエネルギーシステム(ブレーキング時のエネルギー回生、加速時のパワー、アンチラグシステム、燃料消費量の削減)を管理するためのソフトウェア開発に貢献するだろう」

プジョーが公開したLMHパワートレイン『ハイブリッド4 500kW』イメージ
バッテリーはドライバーの後部に置かれるカーボンケーシング内に収められる。

■フロントモーター使用時はエンジンの出力が絞られる

 ハイブリッドシステムはフランスを代表するオイルブランド、トタルの子会社であるサフトグループS.A.が開発した900ボルトのバッテリーで完成する。

 プジョーによると、レース前にプラグイン充電を行い、走行時には回生ブレーキによってエネルギーを蓄えるこのバッテリーはドライバーの後方、モノコック内の燃料タンクの下部に設置されるカーボンケーシング内に収められるという。

 V6エンジンはフルペースで走行している際にクルマが規定の500kWを超えないよう出力を制限することで、フロントMGUをアクティブに作動させることを可能としている。
 
 前述のとおり、電気モーターは車速が120km/h(ドライコンディション時)を超えない限り動かすことができない。そのため0~120km/h間はエンジンが500kWを出力するが、その後はモーターの作動に合わせて300kW(約403ps)に制限される。バッテリーの容量がなくなり、モーター駆動が止まるとふたたび500kWを発揮するという仕組みだ。

 これを駆動方式で見ていくとモーターが駆動している場合は四輪駆動に、エンジンのみで走行しているシーンでは後輪駆動となる。

 この動きを制御するためのセンサーシステムは、前後アクスルの出力レベルをモニタリングおよび伝達し、クルマの出力がWECのバランス・オブ・パフォーマンス(BoP)に準拠していることを確認する。

 サフトの最高技術責任者であるキャメン・ネチェフは「主なパラメーターはバッテリーに蓄えられたエネルギーの使用方法を最適化することだ」と述べた。

「これを実現するためには、非常に短い充電時間と大容量の蓄電池を組み合わせ、最大電力を可能な限り迅速に供給できるようなパッケージを形成する必要がある」

「もっとも競争力のあるソリューションは、充電の最適化とリアルタイムで利用可能な電力量のマネジメントにある」

 プジョーは2021年末のサーキットデビューに先立ち、同年初頭にこのパワートレインのベンチマークテストを実施すると予想されている。一方、2021年シーズンかLMHでのレースを開始するトヨタは、まだハイブリッドパワートレインの詳細をアナウンスしていいないが新型車両でのテストを開始している

プジョー・ハイブリッド4 500kWのインフォグラフィック

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