総資産2億超えの52歳会社員「娘に有利に生前贈与したい」

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、52歳、会社員の男性。2億を超える金融資産をお持ちの相談者。今後、娘さんに有利に生前贈与していきたいといいますが、どのような方法があるのでしょうか。公認会計士・税理士の伊藤英佑氏がお答えします。

52歳、会社員です。1人娘の結婚や孫誕生のタイミングで、金融資産を有利に生前贈与していきたいのですが、どのような方法がありますか。

【相談者プロフィール】

・男性、52、会社員、既婚

・同居家族について:妻(52)専業主婦、長女(23)会社員

・住居の形態:賃貸

・毎月の世帯の手取り金額:100万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:300万円

・毎月の世帯の支出の目安:45万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:23万円

・食費:5万円

・水道光熱費:2万円

・保険料:2万円

・通信費:1万円

・お小遣い:5万円

・その他:7万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:50万円

・ボーナスからの年間貯蓄額:200万円

・現在の貯蓄総額:1億3,000万円

・現在の投資総額:1億円

・現在の負債総額:0円


伊藤:ご質問者は会社員で収入の半分以上を貯蓄され、52歳にして貯蓄総額1億3,000万円、投資総額1億円の2億円を超える金融資産を所有しています。堅実な生活ぶりが窺えます。
妻は専業主婦、長女は23歳の会社員で、今後、結婚や孫誕生のタイミングも見越しつつ一人娘にどのように生前贈与をしていくのがいいかを考えていきましょう。

生前贈与の王道的な手法「暦年贈与」

財産を移転する際の課税は、生前では年間の贈与額に応じて贈与税が年ごとに課税され、亡くなった時に基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の人数)を超える分の財産には相続税が掛かります。贈与税は年間110万円までは非課税枠(基礎控除)があり贈与税はかかりませんので、毎年親族へ資金を贈与していくことが基本です。これを暦年贈与といいます。

年間110万円までというのは、贈与を受ける人単位ですので、長女が結婚し孫ができた際には、長女、長女の旦那、孫へそれぞれ贈与していくことが出来ます。逆に、例えば同じ年に2人から100万円ずつ贈与を受けた場合は200万円の贈与を受けたものとして贈与税が課税されます。

孫が産まれて幼い頃からでも生前贈与していくことは可能です。未成年の孫への贈与は親権者(孫の親である長女夫妻)が法定代理人として管理します。なお、未成年者への贈与は法定代理人が同意すれば贈与契約は成立し、未成年の子が贈与契約の事実を知っていなくても無効にはならないとされていますので、贈与契約書に受贈者の孫の名前だけでなく法定代理人の父母も署名押印し、成年になるまできちんと管理してあげることになります。

超過累進税率の仕組み

贈与税・相続税ともに、贈与額・相続額が多くなるにつれ超過累進税率が適用されます。親から子、孫への贈与・相続を、なるべく低い税率で進めていくことが、税金の観点からは有利になります。例えば、310万円を贈与すると(310万円- 110万円)×10%の20万円の贈与税が掛かり、310万円に対して6.4%の課税です。

相続税は基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の人数)を超え、法定相続割合で税額を出し、取得額で按分します。仮に相続時に2憶3600万円以上の財産があり、妻と子どもに基礎控除後に法定相続割合でそれぞれ1億円を超えると、5000万円超1億円以下の部分には30%、1億円超2憶以下の部分には40%の相続税が課税されます(一次相続で妻は配偶者控除で課税はありませんが、ここでは詳細は割愛します)。

相続前3年内の贈与と親が出した生活費には課税されない

年間の贈与税の税率と相続時の相続税の税率を考えながら、贈与と相続を合わせてより低い税率で長期的に生前贈与を進めていくのが、生前贈与の有利な方法の基本的な考え方となります。相続前3年内の贈与は相続財産に加算されますので、相続直前での贈与は対策になりません。また、蓄財ではなく費消する生活費等を社会通念上で常識の範囲内で親が子どもや孫の生活費の面倒を見ることは贈与に当たりませんので、子どもの生活費等を親が出してあげることは相続財産を減らすという意味では相続税対策となります。

もっとも、これらは税金のことだけを考えた場合ですので、子どもの経済観念への教育方針とも合わせて適正な範囲で考えていくのが良いでしょう。また、法律的には、贈与をした資金は贈与を受けた人の財産になり、贈与者は自由に出来なくなりますので、ご自身のライフスタイルも踏まえてプランを考えていきましょう。

ご質問者がまだ52歳という年齢を考えれば、今から暦年贈与を続けていけば、非課税枠の範囲内や低税率の贈与税で、それなりの額を生前贈与していくことは出来るでしょう。まだまだ現役でお仕事もされているでしょうから、財産の将来シミュレーションと生前贈与でいくら残していきたいか、子どもに相続財産としていくら残してあげたいか、予備資金やご夫婦の老後の楽しみとしてどうしたいかなどを考慮しながら計画を立てていくと良いでしょう。

生前贈与をしたつもりで「名義預金」にならないよう注意

生前贈与で問題になりがちなのは、親が勝手に預金口座の名義だけ子どもなどのものを作成し、お金を移していくだけで親が自分で管理をしている場合で、生前贈与が有効になっていないようなケースです。税務上は名義が置き換わっただけで、「名義預金」と言いますが、財産が贈与者である親に帰属したまま状態となります。税務調査等があった際に相続時に被相続人の相続財産として認定されてしまいますので、確実有効に生前贈与を進めることが重要です。

名義預金とされてしまうケースでよくあることが、親が子ども名義の口座を作って資金を移していたが、その預金口座の管理(通帳・印鑑などの保有)を親がしていたり、贈与で資金を移した口座から贈与者であるはずの親の生活費等のために引き出しがされてしまっている場合などです。

「名義預金」にならないように、踏むべき手順

各人別に「贈与契約書」を毎年その都度作成し、各人が印鑑をご用意ください。贈与者と受贈者の届出印が同じであると、税務調査で「名義預金ではないか」という指摘を受けやすくなります。出来れば、贈与者・受贈者各人でそれぞれ印鑑を作成・使用し、それぞれ各人が保管・管理してください。また、贈与契約書の日付・住所・氏名は自筆がベターです。

そして重要なことは、贈与資金は贈与を受けた人の財産ですので、受贈者がお金の管理をしてください。未成年の孫へ贈与した場合は上述の通り親権者である親が管理します。また、毎年その都度、贈与の手続きをします。例えば、ある年に500万の贈与を決定して5年間で分割払いしたものなどとされないためです。そのため、贈与自体は口頭であげる人ともらう人の双方の意思があれば有効に成立しますが、毎年、贈与契約書を作っておくことが無難です。

「あえて贈与を年間110万円以上にして贈与税申告をすることで贈与の事実があったことを確かなものにできる」と解説されることがよくありますが、贈与税申告をしたことをもって必ずしも贈与の事実が税務上確定するものとはなりません。受贈者に知らせず親が勝手に贈与税申告をしているような場合は「名義預金」となります。子が自ら贈与税申告を行うことは、親から受けた贈与を確実に認識していた証拠の1つとなる可能性はありますが、実態としてきちんと有効な贈与の手続きをしていれば、年110万円ずつの贈与をあえて111万円以上にして贈与税申告をするかどうかは、各人の判断で構わないでしょう。

様々な非課税贈与制度等の活用

非課税贈与制度の特例や、現金以外での生前贈与の方法も一通りは知っておくと良いでしょう。

令和3年3月末までの時限措置でもあり、現在のタイミングや使い勝手の問題はありますが、結婚・子育て資金の一括贈与の特例、教育資金一括贈与という制度があります。住宅取得等資金の贈与の非課税の特例は要件により最大3000万円まで、時限措置ですが新型コロナの影響で延長があり、取得期限(令和4年3月15日)までにその家屋を取得し、居住期限は令和4年12月31日)までが対象です。

これらの特例延長やその時々で新制度があるかもしれませんので、長女のご結婚や出産、新居購入のタイミングで適用できる特例がないか調べてみるといいでしょう。相続時精算課税制度はただちに検討は不要だと思いますのでここでは詳細は省きますが、制度があることは知っておきましょう。

生命保険は法定相続人の人数×500万円まで非課税ですので、非課税の枠は使っておくといいでしょう。
不動産は売買価額より相続税評価額が有利になることがあります。

また、現実に戸籍を変えることまでする人は多くはありませんが、お話までに、孫を養子縁組で法定相続人を増やすという方法もあります。法定相続人が増えることで様々な相続税の控除等が広がります。

生前贈与の手続きなどと合わせ、これら様々な制度をどう組み合わせていくか、自分に合う適正な方法を探して資産の全体管理をしていくといいでしょう。場合によっては専門家に相談しながら全体のコーディネートのプランを立てるといいかと思います。

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