<金口木舌>「逆境をばねに」

 戦い終えてなお美しい。そんな感慨を覚える試合だった。アメリカンフットボールの甲子園ボウルである。悪質タックルと言えばスポーツに詳しくない人も思い出すのではないか▼ボールを投げ終えた選手に強烈なタックルを浴びせ、けがをさせた。これが監督らの指示だったとされ社会問題化した。その因縁の当事者が大学王座決定戦で戦った

▼悪質反則を犯した日本大と負傷者を出した関西学院大である。東西の雄の対決らしい競り合いにはすがすがしいシーンがあった。激しいプレーに絡んだ敵同士がたたえ合うようハイタッチを交わす。倒れた相手には手を差し出して引き起こした

▼処分を受け、日大は下部に降格したが、挫折が選手を強くした。競技に真面目に取り組み、学業もおろそかにしない。そんな姿勢が徐々に認められ、信頼を取り戻した。まさに逆境をばねに復活を遂げた

▼逆境といえば、大会中止が相次ぎ、競技者は難しい調整を強いられる。そこで真摯(しんし)に競技と向き合い、結果を出す選手もいる。重量挙げの宮本昌典選手がそうだ。全日本選手権で日本記録のトータル345キロで優勝した

▼地道な下半身強化で五輪メダル圏とされる350キロに近づく。師で東京五輪金メダリストの三宅義信さんは、まだ記録は伸びると見る。東京五輪の新旧メダルを並べるまで宮本選手のたゆまぬ努力が続く。

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