フィンランドの小学校では「宗教」を学ぶ──日本では馴染みのないその内容は?

世界的にも進んでいるフィンランドの学校教育。その根底に流れている教育の理念について、今回は日本人にはあまり馴染みのない「宗教」という科目について踏み込んでいきます。

新型コロナはフィンランドでも深刻な状況

日本でも昨今、新型コロナウイルスの感染者が増加していますが、フィンランドでも深刻な状況だと現地に住む友人から聞きました。

毎年、人々が楽しみにしているクリスマスマーケットも中止。大人のスポーツも基本的にはすべて禁止。政府は“子どもたちの日常生活や学びは止めない”という方針を打ち出しているものの、ヘルシンキの病院のベッド数が不足する可能性もあるとのことから、一部の子どものスポーツ(サッカーや、ホッケーなどの練習や大会)も中止されているとのことです。

今は、「最低限、クリスマス前までは通常の学校運営をする」ことが目指されています。

フィンランドの一般家庭のクリスマスの様子。今年は親戚や友人を招いてのクリスマスを自粛するそう
フィンランドではクリスマスには多くの大学生がサンタさんのアルバイトをしていますが、今年は「玄関先」でプレゼントを渡すスタイル

今回は、フィンランドの小学校1、2年生のカリキュラムの中の一つである“religion(宗教)”について書きます。

カリキュラムには別途 “ethics(倫理)”もあり、日本の教育での「道徳」はどちらかというと“ethics(倫理)”に近いと感じます(倫理については次回書く予定です)。また、日本の義務教育の中には「宗教」に該当する教科がなく、比較が難しいことから、今回は学ぶ内容や狙いを細かくお伝えすることなく、概要をお見せして、フィンランドどのような国を目指しているのかをシェアします。

まず、前提として、フィンランドにおける宗教について簡単に説明します。国民の約8割がルター派のキリスト教徒で、毎週末教会へ通うような熱心な人もれば、教会へ行くのは年に1、2回という人もいます。

また日本と比較すると、国民全体に対する移民の割合も高く、彼らは独自の宗教をもっていたりもします。

小学校での宗教の授業は、“全体として特定の宗教を学ぶ”といったものではなく、よりよい人生を生きるため、また違う宗教をもつ人を理解しともに社会で生きていくために、学ぶものなのです。

relision(宗教)をどう捉え、そのタスクを何としているか

The task of subject of religion is to provide the pupils with an extensive general knowledge and ability regarding religion and worldviews.

「宗教」という科目は子どもたちがさまざまな宗教についての基礎知識をもち、世界を宗教という観点から考える能力を身につけるためにあります。

まずは自分のルーツや家族のもつ宗教・生活習慣を理解した上で、複数の視点から「宗教」「文化」「多言語」を見ることで拡い世界観を獲得することが重視されます。

その結果、子どもたちが自分自身・暮らし・人生において大切にすべきことを認識しながら自分をマネジメントし、一方で別の宗教観・人生観を許容することのできる視野や知識を身につけることを目指しています。

「宗教」で学ぶ内容

小学校1、2年生の「宗教」の教科で学ぶ内容は、大きく以下の3つに分けられます。

1. 自身と自身の宗教との結びつきを学ぶ

子どもがもつ(実際には、家族が信仰をしている)宗教について、その歴史背景や世界観について学びます。また、子どもの発達に合わせて“クリスマス”や“イースター”などの宗教的イベント、“賛美歌”や“教会”など身の回りにある宗教的な事柄を用いた学びを大切にします。

宗教によってイベントや習慣が違うのはなぜだろう? といった問いから、自分のもつ宗教についての理解を深め親しむとともに、別の宗教の存在を認めることのできる視野を備えはじめます。

2. さまざまな宗教を学ぶ

フィンランドでは、基本的にはルーテル派のキリスト教徒が多いと書きましたが、地域によっては正教会の人の割合が高かったり、イスラム教の人の割合が高かったりもします。

そんな環境に暮らす子どもたちが、自分の住む地域にはどんな宗教をもつ人たちがいるのか、またその宗教とはどんなものなのか、さらに「無宗教」の存在について学び、宗教的多様性に対しての理解をもつようになります。

3. よい人生とは

宗教という枠組みを超えて、「よい人生」について考られる力を養います。どんな宗教をもっていても、人は誕生し死を迎えることにおいて共通しています。また、同じく私たちは地球環境を共有し 個人差はあれど、人間としての感情をもっているという点では同じです。

“多様な宗教をもつ人と社会の中で共存する”ということを前提に、自分はどんな行動をすべきかの指針を子どもがもてるような学びを提供します。

多様な宗教に対応したカリキュラム

フィンランドのカリキュラムでは、「キリスト教(ルター派)」「正教会」「キリスト教(カトリック)」「イスラム教」「ユダヤ教」の、各宗教の考え方に適応した個別のカリキュラムが記載されています(“自身と自身の宗教との結びつきを学ぶ”“さまざまな宗教を学ぶ”“よい人生とは”の項目について上記の5つの宗教それぞれの記載があります)。

最後に、実際の小学校での運用について少しお伝えします。ある小学校の「宗教」の時間、黒板の時間割表では以下の写真のように表示されていました。

「イスラム教」「キリスト教」「無宗教」

「無宗教」のクラスを見学したところ、“人の誕生と成長”をテーマに興味深いワークをしていたことが、印象的でした。

写真のまわりに、子どもや先生が集まって話をしている
子どもたちや先生の小さいころの写真

上の写真は、子どもたちや先生の「小さいころ」。ワークは、“この赤ちゃんは誰?”という楽しいゲームだったのですが、ただ答えを当てるだけではなく「これは○○さんだと思う、なぜなら髪の色が今と同じだから」など、友だちや先生のことをよく観察し、共通点を見つけながら答えを導くことを子どもに促すワークでした。赤ちゃんのころと今の姿は大きく違いますが、その人個人として変わらないこともある。そして皆が成長をして老いていく、ということを感じられるワークでした。

よい人生を生きようとする上で避けられないテーマ

日本に住んでいると「宗教」をあまり身近に感じないという方も多いと思いますが、世界に目を向けると、「宗教」を中心に人生を営んでいる人も多く、彼らと関わるうえで、また仮に自分が無宗教であっても、自分がよい人生を生きようとする上で避けられないテーマなのではないかと、個人的には考えています。

フィンランドの小学校教育では、宗教を学ぶことで“自分と他者、そして社会を大切にできる子ども”を育てようとしているのです。

次回は、フィンランド教育における「ethics(倫理)」についてお伝えいたします。

これまでの【フィンランド教育はなぜ子どもを幸せにするのか】は

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