セのDH制、試験的に導入を 選手の負担軽減とパフォーマンス向上へ議論すべき

セのDH制、選手の負担軽減とパフォーマンス向上へ議論すべき時にきているか

巨人が来季、暫定的導入を提案も…

14日に行われたセ・リーグ理事会で、巨人がDH(指名打者)制を来季暫定的に導入することを提案したものの、その場で却下され、話し合いすら行われなかったという。来季開幕まではもちろん、2月1日のキャンプインにもまだ時間がある。検討した上で見送るのならともかく、議論さえ拒否するような理事会の雰囲気は不可解と言わざるをえない。

巨人はこの日、山口寿一オーナー名義で理事会に提案書を提出した。その中でDH制を導入すべき3つの理由を挙げている。概ね、1.来季はコロナ禍の影響が不透明な上、東京五輪開催に伴う過密日程で行われるため、投手の負担を軽減することが望ましい 2.1人でも多くの野手に出場機会を与え鍛えたい 3.点差によって投手が打席の後方に立ちバットを振らない、または空振りする場面が見られるが、プロスポーツとして本来許されない──というものだ。

私見をはっきりさせておくと、試験的に導入してみたらいいと思う。「制度というものは1度導入すると簡単には戻せない」という意見もあるが、選手、ファンにとってよりよりスタイルを模索するためなら、試行錯誤があっても良いと考える。何より、DH制は選手の負担軽減とパフォーマンスの質の向上につながる可能性があると見る。

今さら言うまでもなく、日本シリーズでセ・リーグ球団はパ球団に8年連続敗退。今季はコロナ禍で中止となったセ・パ交流戦でも、開催された過去15年で、セ球団の通算勝利数がパ球団のそれを上回ったのは2009年の1度しかない。巨人・原辰徳監督をはじめ、セとパの実力差がここまで開いてしまった一因に、DH制の有無を挙げる声は数多い。

投手は相手投手が打席に立たない分、息を抜く所がなく、結果的に技術が上がる。そういう投手に対抗するうちに、打者のレベルも自ずと上がっていく──というものだ。科学的実証は難しいが、結構当を得ているのではないかと思う。何より、巨人以外の5球団に、惨敗続きの原因を究明しようという熱意と、このままではファンに見向きもされなくなるかもしれないという危機感が、果たしてあるのかが疑問だ。

パのDHは1人の先任者のものではなく、複数の主力打者が交代で守備の負担を軽減…

プロの世界で投手が打席に立つのは、体力的な負担が大きく、リスクも高い。死球や走塁中のケガの危険はもちろん、内角球に詰まらされ、手がしびれて次の回の投球に影響を及ぼすケースもある。そういうリスクを回避するため、よほどのチャンス以外では、ストライクを3球見送って帰ってくるような投手が多いわけだ。DH制でなくても、投手たちは“自衛手段”を取っているのだが、ファンから見て気持ちのいいものではない。

高校野球であれば、「エースで4番」の選手も多く、教育の一環として「投げても打っても全力プレー」を求めてもいいのかもしれないが、体が資本で生活がかかっているプロの投手全員にそれを求めるのは酷だろう。

もちろん、中には元巨人の桑田真澄氏のように、常にバットを短く持ち打つ気満々で打席に入った投手もいるし、とんでもない打力の持ち主も現れる。巨人V9時代のエース、堀内恒夫氏は投げてはノーヒットノーラン、打っては3打席連続本塁打の離れ業を演じた。江夏豊氏は阪神時代、延長11回表まで相手にヒットを1本も許さず、その裏に自らサヨナラ本塁打を放ってノーヒットノーランを達成したことがある。

「DH制を導入すれば、そういうドラマが生まれなくなる」という意見もある。しかし、DH制の下でも指名打者を使うことは義務ではない。日本ハムが現エンゼルスの大谷翔平投手の在籍時、パ・リーグ公式戦で大谷の登板日にDHを使わず、打席にも立たせたケースがあったように、場合によっては投手に打たせる余地もある。

また、DH制は昔から「打撃だけは超一流、守りは三流──というタイプの選手にもチャンスが広がる」と言われてきた。個人的にはそんな“偏った天才”を見てみたいが、最近はパ・リーグでもDHは、1人の先任者のものではなく、複数の主力打者が交代で守備の負担を軽減するためのポジションになっているのが現実だ。

ソフトバンクは今季、チーム最多の42試合で先発DHを務めたバレンティンが、左翼でも12試合に先発。デスパイネは19試合、柳田は17試合、グラシアルは17試合DHを務める傍ら、守備にも就いた。日本ハムのスタメンも、中田がDH55試合&一塁62試合、近藤がDH33試合&左翼70試合、西川がDH15試合&中堅100試合と分担されていた。

昭和のプロ野球を知るOBからは「何でもかんでも負担軽減とか言って、選手を甘やかすな!」と怒りの声も聞こえる。それにも一理あるのだろうが、適度の休息を取ってパフォーマンスの質を上げる考え方が浸透しつつあるのは確かだ。1度、セ・リーグという“畑”にDH制という種をまいて、どんな実がなるのか見てみたいと思う。

話し始めれば、ファンからもDH制導入に賛否両論が上がるはずだ。しかし少なくとも、「野球は9人対9人。嫌なものは嫌」とばかりに、議論も尽くさずに旧態依然としたシステムを続けていくことを歓迎する野球好きはいないだろう。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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