子は愛している、でも同性愛は受け入れられない。ドキュメンタリー映画「出櫃(カミングアウト)中国LGBTの叫び」が来年1月23日公開!

中国のLGBT当事者は推定約7000万人。かつて同性愛が犯罪とみなされていた中国では、同性愛者への偏見が根強く残っている。
本作品はそんな過酷な社会の中でも、親に自分のありのままを受け入れてもらいたいと奮闘するゲイの谷超(グーチャオ)さんとレズビアンの安安(アンアン)さんに追ったドキュメンタリー。
互いに大切な存在であるがゆえに激しく葛藤し、すれ違う親子を記録した54分間の先に見えてくることとは――。

――「同性愛は、自分の意思次第で治る」「結婚は人生で通るべき幸せの道」。勇気を振り絞ったカミングアウトも虚しく、親子関係に歪みを生むことになり…

地元の有名大学を卒業後、上海で塾講師として働きながら教員資格の認定試験に向けて勉強している谷超さんは26歳。癌を患っていた母親が回復した後、自身がゲイであると伝える予定だったが、病状が快方に向かうことはなく他界。以来、本当の自分を隠して生きてきた。

それから数年、帰省を機に谷超さんは父親にカミングアウトを決心。「結婚はまだか?早く彼女を連れてきなさい」「住む場所も車も用意する」と優秀な息子の将来に胸を含まらせていた父親であったが、息子の口からゲイであることを打ち明けられると先ほどまでの笑顔がすっと引き…。

一方、19歳の時に自身がレズビアンであることをカミングアウトした安安さんは、母親に受け入れてもらえないまま32歳となっていた。現在はパートナーと過ごしているが、女手ひとつで育ててくれた母親へ親孝行をしたいという気持ちは人一倍強く、少しでも自身を理解してもらいたいと同性愛者支援団体の催しに共に参加することに。

しかし、母親の口から出てくるのは「女性は結婚しないと幸せになれない」「娘が同性愛者なんて面子が立たない」と、13年前と全く変わることのない言葉ばかり。娘のことが大切だからこそ“フツウ”に生きて欲しいと願う母と、ありのままの自分を受け入れて欲しい娘の話し合いは徐々にヒートアップし、同性愛者支援団体の人が仲介に入るほどまでに発展していく――。

今作品の大きなテーマとなっている「親へのカミングアウト」というのはLGBT当事者である人ならば、ほとんどの人が一度は頭をよぎったことがあるはず。

嘘をつくのが限界、本当の自分を知ってもらいたい、恋人と結婚したい…思いは人それぞれだけど、二人のカミングアウトするまでの葛藤や同性愛者に対して強い偏見が残っている中国社会を目の当たりにすると、同性婚が認められるか否か過渡期である日本も例外ではないと感じてしまう。

ただ、そんな同性愛者にとって過酷な社会の中でも唯一、希望を見出せたのは二人の親に共通する“子を愛する気持ち”。

作品を観終えた今、この愛する気持ちが、いつか形を変えて二人の子どもに届く日を願うばかり(本当はここからがとっても話したいことなのだけど、結末を言ってしまいそうになるからこの辺にしておくわね)。

さて、東京ドキュメンタリー映画祭2019で上映され短編部門グランプリを受賞した『出櫃(カミングアウト)中国LGBTの叫び』。監督・房満満氏がLGBT当事者への関心を持つきっかけとなったのは、在籍している会社で出会った一人の後輩からLGBT当事者であることをカミングアウトされたことだった。

日本において中国人というマイノリティな存在として生きている房監督自身も、取材相手に対してその都度、中国人であることを打ち明けるか否か悩むことがあると話す。そういった経験もあって、セクシュアルマイノリティの方たちの苦悩も他人事とは思えなかったのだろう。

アジア圏内かつ文化的にも決して遠くはない中国で、同性愛者がどのような環境で生活をしているのか。ドキュメンタリーならではのミクロな視点で描かれる本作は、「自分がどう生きたいのか」心に問いかけるきっかけになるはず。

■ 出櫃(カミングアウト)中国LGBTの叫び
2021年1月23日(土)より新宿K’s cinemaにて公開
配給:パンドラ ©︎テムジン
■ http://www.pan-dora.co.jp/comingout/

記事制作/芳賀たかし(newTOKYO)

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