コロナ禍で急拡大する中国のオンライン医療、強みを見せるアリババ、JDドットコム

新型コロナ禍の感染が拡大した今年1~3月、中国では病院に感染者が溢れ、中国政府は医療資源のほとんどを感染対策と治療に充てざるを得なくなりました。

そうした中、持病を持つ人々にとって、病院にかかることは非常に混雑かつコロナ感染の恐れがあることから、自宅に居ながら診療から処方、薬品の配送までしてもらえるオンライン医療の利用が増加しています。

オンライン医療は、医薬品の流通や診療の仕組みを大きく変える可能性があります。中国の株式市場で次なる成長産業として注目度が高まるこの分野を解説します。


新型コロナ禍をきっかけに中国でオンライン医療の利用が増加

中国の大手オンライン医療会社である平安ヘルスケア・アンド・テクノロジー(香港:1833、以下平安ヘルスケア)の発表によると、同社はアプリを通じてオンライン診療サービスを提供しており、新型コロナの感染拡大期間中(2020年1月22日~2月6日)の新規登録者数は新型コロナ発生前の10倍、1日あたりの診療数は同9倍に急増しました。

また、同業大手のアリババ・ヘルス・インフォメーション・テクノロジー(香港:241、以下アリババ・ヘルス)は、各病院と提携して慢性病患者向けにオンライン上で薬品の処方と販売、配送サービスを拡大させています。さらに、AI技術を駆使して新型コロナのCT検査支援にも乗り出すなど、患者や医師の利便性向上に尽力しました。

こうしたオンライン医療の普及に向けた各社の取り組みは、今後医薬品の流通や診療の仕組みを大きく変える可能性があり、中国の株式市場では次なる成長産業としてオンライン医療に対する注目度が高まっています。

中国医療業界の問題点と政府当局の取り組み

現在、中国では優れた医療資源を持つ病院が大都市に偏っており、患者は有名病院に殺到してなかなか診療してもらえないことが社会問題となっています。また、病院は低い診療報酬を補うために、自ら処方薬を販売して経営存続を図る「以薬養医」(薬品を売って医者を養う)という構造も医薬品価格の高止まりを招いています。

こうした問題点を解決するために、中国政府は「オンライン診療」を拡大させ、処方薬を「オンライン薬局」(医薬品のEコマースサイト)で販売できるように規制緩和を進めています。

オンライン診療の普及や処方薬の流通改革が業界の成長を後押し

このうち「オンライン診療」は、現在糖尿病や高血圧といった慢性病患者を主な対象としています。ビッグデータに基づいた効率的な診療と投薬が可能になると同時に、病院の混雑解消や診療の効率化にもつながると期待されています。

また、「オンライン薬局」については、現在中国の薬品販売金額の約85%は処方薬で、その大部分は病院が直接販売しています。今後規制緩和が進めばEコマースによる処方薬のオンライン販売が急拡大すると予想されます。

処方薬のオンライン販売は、流通過程を省くことで薬品価格の引き下げと患者負担の軽減をもたらすメリットがあり、「オンライン薬局」の運営会社にとって大きな商機にもなっています。

調査会社であるフロスト&サリバンの予想によると、中国のオンライン薬局とオンライン診療の市場規模は、今後10年間でそれぞれ現在(2020年予想)の7.6倍と18.5倍に拡大する見通しで、オンライン医療業界の成長余地は非常に大きいと言えます。

アリババ、JD、中国平安保険傘下のオンライン医療大手に注目

オンライン医療の関連企業として、JDドットコム傘下のJDヘルス(香港:6618)とアリババ・グループ傘下のアリババ・ヘルス(香港:241)、中国平安保険傘下の平安ヘルスケア(香港:1833)などが挙げられます。

このうちJDヘルスとアリババ・ヘルスは、中国の医薬品オンライン小売市場でそれぞれ市場シェア1位(29.8%)と2位(27.1%)を誇っており、平安ヘルスケアは業界最大の専属医療チームを擁するなどオンライン診療に強みを持っています。

12月8日、JDヘルスは香港市場に新規上場し、初値が公募価格から34%高、時価総額は約4兆円と投資家から高く評価されました。今後オンライン医療業界の市場規模拡大に伴って関連企業の更なる成長が期待されます。

<市場情報部 アジア情報課長 王曦>

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