<南風>失われた30年とOISTの成功

 面談でピーターにこう伝えた。「OIST周辺に自給自足型経済を実現するテックスタートアップハブを創り上げたい」。うれしいことに彼は私がOrb時代に書いたポスト資本主義社会構想の論文を読んでくれていた。こうして、私は2019年9月よりOISTに参画、現在に至る。

 ここよりは未来について語ろう。まずは日本が失われた30年で迷走する中、なぜ、OISTはわずか10年で世界9位になれたか? ここが全ての起点になる。

 成功要因は3つ。まず多様性。OISTには日本特有の「同調圧」がない。日本でなぜ「出る杭は打たれる」のか? 答えは「同質指向社会」で多様性がゼロだから。一方、OISTは世界60カ国以上からAクラス人材が集う強固な多様性がある。故に、尖(とが)ったアイデアがガラパゴス化せず世界に出られる。

 次に学際性。21世紀は細分化ではなく統合化の時代。20世紀に大学は専門化が進んだ。ハーバード大では現12学部の内半数6学部は20世紀に創設。しかし、1970年代から行き詰まり、分野横断の研究が活発化、これが現代のノーベル賞の中心。OISTは教育から教授同士の会話を促す建物に至るまで学際性を追求しデザインされている。

 最後はピーター提唱のハイトラストファンディング。研究者を信じ細部に口を挟まない。正反対が、経産官僚肝入りの2千億円VC産業革新機構。結果は大失敗。原因は、起業家に対してマイクロマネジメント。

 21世紀イノベーションの代表格iPhoneやテスラはこの3つの融合から生まれた。創造的破壊から逃げ、多様性を社会から排除したがる日本社会が、今後、世界の表舞台で活躍する可能性はゼロと予言しよう。しかし、OISTは違う。OISTは沖縄の「未来の全て」であり、日本の「最後の希望」である。

(仲津正朗、OISTアントレプレナー・イン・レジデンス)

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