久留里線、バス旅のはずがトホホの徒歩旅に

2013年には「青春18きっぷ」のポスターにもなった平山駅。駅前には有名な焼きそば店があり、車で訪れた人が駅の無人の改札口を抜け、列車の来ないホームで旅情を味わっていた

 【汐留鉄道倶楽部】千葉県の房総半島には里山の魅力あふれるローカル線が多い。小湊鉄道、いすみ鉄道、銚子電鉄、そしてJR東日本の久留里(くるり)線。

 中でも久留里線は終点の上総亀山発の列車が朝の8時48分の後は14時26分まで5時間半以上空いてしまうなど“秘境”感が強い。2012年までキハ30、キハ37、キハ38のレトロな国鉄型気動車が走り、列車がすれ違う駅のホームでは「タブレット」(通行証)の受け渡しも見られた。そんな久留里線を10年ぶりに訪れた。

 本数が少ない「盲腸線」(行き止まり路線)の旅は、終点まで乗った列車で慌ただしく折り返すことになりがちだ。今回は上総亀山から歩いて行ける「亀山湖」にも足を伸ばしたい。

 ネットで調べると、千葉駅から鴨川市に向かう高速バスの「カピーナ号」がある。日中は1~2時間に1本、久留里線の各駅付近にもこまめに停車する。このバスを活用し、途中の久留里から先の平山、上総松丘、上総亀山の各駅で、列車は来ないが非日常のゆったりした時間を過ごそうと思ったのだが…(ここでネタバレしてしまった読者の皆さん、ごめんなさい)。

 11月某日。カピーナ号で館山道を経由して午前10時すぎに久留里駅前に着いた。ここから始発の木更津までは1時間に1本程度の列車がある。無人駅のホームに出ると、木更津へ折り返すキハE130が1両ぽつんと止まっていた。

 駅前の観光交流センターの一角にある「久留里線博物館」に行ってみた。100年以上前の1912(大正元)年に開業した同線の歩みを記した年表、写真などのほか、実物のタブレット閉そく機など、展示物も充実していた。帰りがけに地元の案内役の方と雑談。ここからカピーナ号で一駅ずつ乗り降りしながら上総亀山まで行く旨を告げると、旅のプランを根底から覆す言葉が返ってきた。

 「カピーナでは久留里から乗って、平山で降りられないかな」

 念のため、運行するバス会社に電話で聞いてみたが、答えは同じだった。後でホームページを確認すると「(久留里線沿線の停留所を含む)天羽田杉浦~君津ふるさと物産館の相互の乗降はできません」と赤い文字ではっきり書いてあった。千葉市エリアと鴨川市エリアを“直結”する座席定員制の高速バスを、本数の少ない久留里線の列車を補完する交通手段と勝手に思い込んでいたのだった。

 幸い、この時点でまだ11時すぎ。帰路は久留里線を木更津まで乗り通す予定で、上総亀山の発車時刻までは3時間半近くある。久留里から上総亀山まで、駅間距離で約10キロ。アップダウンはあるにせよ、線路にほぼ並行して県道(久留里街道)が続いている。これは上総亀山まで歩くしかない、と決断した。

 コンビニでおにぎりとお茶を買い込んで久留里を出発。暑くもなく寒くもなく、絶好の里山散歩日和だった。しかし、時間に余裕があると思って向かった久留里城が意外と県道から遠く、時間を大きくロスしてしまう。

(上)2010年7月、久留里~平山のS字カーブで撮影した国鉄型気動車。同じ場所に行ってみると、線路の両脇にススキが群生して景色が一変していた。(下)帰りの予定を変更し、上総亀山駅と亀山湖の間にある「亀山藤林大橋」バス停から乗ったカピーナ号。この後館山道で事故渋滞に巻き込まれた

 スマホの地図アプリを頼りにできるだけ近道をしたつもりが、地図では存在する道が雑木林の中でどんどん細くなって途切れ、野生動物に出くわしたらどうしようとドキドキしながら引き返したことも。

 結局、久留里から1駅先の平山駅にたどり着くまで2時間以上かかってしまった。三角屋根のこじんまりした駅舎と黄色く色づいたイチョウの大木に迎えられ、少しだけ癒やされた気分になった。

 ここで歩くのを諦め、平山発13時59分の列車に乗って12分で上総亀山に到着。15分で折り返す木更津行きには乗らずに発車シーンを撮影し、亀山湖を散策してカピーナ号で千葉に戻った。

 後日、カピーナ号を運行するバス会社にあらためて問い合わせたところ、高速バスは認可を受ける際の条件設定で制約があるとのことで、途中区間だけ路線バス扱いにするのは難しいのだろう。

 筆者のように利用したい鉄道ファンや旅行者はいるかもしれないが、久留里線同様、需要は極めて少ないようだ。会社としては採算面も考慮しなければならず「すべてを網羅して役に立てるのが理想だが…」と担当者は言葉をのみ込んだ。

 ☆藤戸浩一 共同通信社スポーツ特信部勤務

※汐留鉄道倶楽部は、鉄道好きの共同通信社の記者、カメラマンが書いたコラム、エッセーです。

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