2020年を振り返って(第1回/全3回)

2020年を振り返って

 2020年は年初から新型コロナウイルス感染拡大に翻弄された。
 東京オリンピック・パラリンピックをはじめ、様々なイベントが中止や延期、規模縮小を余儀なくされ、インバウンドは消失した。政府の相次ぐ支援策の効果で、企業倒産は抑制されたが、休廃業・解散は過去最多ペースで推移。足元で、これまでと違う何かが動き出したことを示唆する一年だった。
 与信面から2020年を振り返り、2021年を展望する。


企業倒産 2019年の11年ぶり増加から一転、再び減少へ

 2020年の企業倒産は、新型コロナウイルス感染拡大への政府の資金繰り支援や金融機関の弾力的な対応で、落ち着いて推移した。
 2020年1-11月までの企業倒産は、件数が7,215件(前年同期7,679件)、負債総額が1兆815億2,800万円(同1兆2,663億7,400万円)だった。
 2019年の企業倒産は、深刻な人手不足、消費増税などの要因で9月から増勢ペースを強めていた。このため、2020年に入っても件数は四半期ベースで1-3月期2,164件(前年同期比12.9%増)と2ケタの増加率を見せた。だが、コロナ禍での資金繰り支援効果が出始めた4-6月期は1,837件(同11.4%減)、7-9月期も2,021件(同7.3%減)と減少に転じ、2020年の企業倒産は2019年(8,383件)を下回ることが確実になった。
 新型コロナ感染拡大で、政府・自治体ならびに金融機関は特別貸付や実質無利子・無担保融資、持続化給付金などの資金繰り支援に取り組んだ。こうした措置が奏功し、4月に初めて緊急事態宣言が発令されたが、裁判所の一部業務の縮小もあり、5月の企業倒産は56年ぶりの300件台という異例の低水準につながった。
 しかし、支援効果は一過性に過ぎない。集計対象外だが、負債1,000万円未満の倒産は1-11月累計で583件(前年同期比20.9%増)と急増。10月までで、2000年以降で年間最多の2010年(537件)を超えた。緊急避難的な融資で急場を凌いでも、支援効果が薄れ、手元資金が枯渇するケースが増えつつある。
 新型コロナの収束が見通せず、落ち込んだ売上の回復メドが立たない企業は多い。資金繰り支援を受けた分だけ、過剰債務に拍車がかかっている。2020年の倒産は前年を下回る見込みだが、次第に疲弊した中小・零細企業の息切れの兆しも出始めている。

倒産減少の陰で休廃業・解散が急増

 倒産が抑制されるなか、休廃業・解散の流れが強まっていった。休廃業・解散は、倒産と違い、裁判所への申立などの手続きはなく、その事実は官報にも掲載されない(一部除く)。また、すべての企業が機関決定を経て解散を結了するわけでもなく、全件把握は難しいのが実情だ。東京商工リサーチ(TSR)では毎年1回のペースで休廃業・解散の件数を公表していたが、コロナ禍で閉店やシャッターの閉じた企業が増えてくると、「途中経過」の開示を求める声が、中央省庁や自治体、金融機関、マスコミ、研究者から多く寄せられた。
このため、TSRは9月と11月に「速報値」として状況を公表。11月26日公表した1-10月の累計件数は4万3,802件に達し、2019年の年間件数(4万3,348件)をすでに上回った。このペースで推移すると、調査を開始した2000年以降で最多だった2018年(4万6,724件)を上回るのは確実だ。
 TSRが2月以降、全国の企業1万社以上を対象に実施している毎月のアンケート調査でも深刻さが浮かび上がる。「コロナ禍の収束が長引いた場合、廃業を検討する可能性があるか?」の質問に、7.6%の中小企業が「ある」と回答した(11月調査)。「平成28(2016)年経済センサス-活動調査」では、国内の中小企業数は357万8,176社で、単純計算で約30万社が廃業の危機に瀕していることになる。
 ニューノーマルに対応できない企業の淘汰は、ある程度避けられないだろう。だが、サプライチェーンや雇用の受け皿が喪失すると、産業や地域が一気に衰退しかねない。「経済合理性ありき」ではない企業や地域特性を加味した、企業に寄り添った支援が必要になっている。

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新型コロナが変えた日常

 新型コロナウイルスの感染拡大を、まだ異国の出来事とのんびり構え、花粉症に備えてマスクを買っておこうかとドラッグストアに足を運んだ時は、こんな一年になるとは思いもしなかった。店頭からマスクが消えていることに驚き、何軒もはしごして、やっとの思いで十数枚のマスクを手にしたのが1月末。それから1カ月もしないうちに、「新型コロナの影響を受けた破たん第1号」という知らせが愛知県の情報担当者から情報本部へ寄せられた。以降、ほぼ毎日のように「新型コロナ関連破たん」と向き合うことになった。
多い日には10件の関連破たんが発生している。とくに多いのが、飲食や宿泊業、アパレル関連だ。そういえば、息子の小学校卒業式後の飲食店を貸し切ってのお別れパーティーが中止となり、中学校に入学したものの入学式は執り行われず、保護者同士の顔合わせの場でもあった懇談会もなくなってしまった。イベント等がなく、外出の機会も少ないのだから、衣服を新調して出かけようという気持ち以前に、新調する必要がない。
「新型コロナ関連破たん」は、自粛が続く生活の延長にある。

コロナ禍の悲劇、世界中で

 6月、弁当の製造販売会社が債務整理に入ったとの情報が入り、現地に赴いた。店舗は雑居ビルの1階にあり、外壁にはメニューが貼られたままだった。ドアを開けて声をかけると、段ボールなどが並ぶ店の奥から社長が出てきてくれた。“様々な”手続きが進行中で、今は何も話せないとしながらも、「コロナの感染拡大でイベントがなくなり、仕出し弁当の受注もなくなった」と沈んだ様子で打ち明けてくれた。
 中小企業にとって、主力事業の落ち込みは経営を揺るがす問題だ。突如として現れた新型コロナに太刀打ちできず、経営破たんした企業は12月8日現在で804社(負債1,000万円未満を含む)にのぼる。
 日常を奪われたのは日本だけではない。ロンドンで働いていた私の友人は職を失った。スポーツ関連メディアで働いていたが、3月中旬に解雇を言い渡された。東京オリンピック・パラリンピックの開催延期を見込んだクライアントが計画の縮小を決めたためだ。
 生活の変化はそれだけではない。スーパーの入店制限に夜間の外出制限――。挙げればきりがないが、パブ文化のあるイギリスでも店内では着席が基本となり、アプリでの注文が導入され、店員とのコミュニケーションが最小限になったという。11月に街で始まった2回目のロックダウンは解除されたが、警戒制度により生活には制限が付きまとう。窮屈だが、安心してクリスマスが迎えられるよう耐える日々が続く。
 世界中の人々が同じことを願うクリスマスが、いままであっただろうか。

希望退職、リーマン・ショックとは異次元の様相

 2019年12月に1.57倍だった有効求人倍率は、2020年9月に1.03倍まで落ち込み、10月も1.04倍と低水準が継続している。1倍を切る地域も散見され、一部の業種を除き“人余り”の傾向が強くなっている。
 人員削減の波は上場企業も例外ではなく、2020年は12月7日までに90社で早期・希望退職を募集することが明らかになった。90社は、リーマン・ショックの影響が深刻化した2009年(191社)に次ぎ、2番目に多い水準だ。対象人数も判明分だけで1万7,697人と2019年通年(1万1,351人)を5,000人以上すでに上回っている。
 業種は、アパレルが最多の17社で全体の約2割を占め、自動車関連11社、市況悪化など事業環境激変のあおりを受けた電気機器(10社)や、外出自粛・三密回避が直撃した外食(7社)、小売(6社)と“コロナの犠牲”となった業種が目立った。
 リーマン・ショックと比較されやすいコロナショックだが、早期・希望退職に関しては、まったく異なる変遷を辿るだろう。リーマン時は、直後の2009年に募集企業191社、対象人数は2万2,950人と記録的な水準となった。一方、翌2010年は82社、1万2,223人まで減少し、ほぼ1年で収束した。ただ、コロナ禍は、感染者数同様、業績の低迷も終わりが見えない状況で、多くの企業で業績回復への先行きは視界不良のままだ。さらに、従業員の賃金を支える雇用調整助成金の特例措置が2021年の早い時期に終了する可能性もあり、企業はさらなるコストカットを求められる。
 2021年に募集する企業もすでに9社、対象人数は1,950人にまで拡大している。早期・希望退職の波は2021年も増勢基調で推移するだろう。

(続く)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2020年1月15日号掲載「2020年を振り返って(第1回/全3回)」を再編集)

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