2020年を振り返って(第2回/全3回)

閉店ラッシュの百貨店にコロナ禍のダブルパンチ

 2020年は「百貨店」受難の年だった。各地で閉店が相次ぎ、苦境が浮き彫りになった。1月に山形県の老舗、大沼が破産。3月には愛知県のほの国百貨店が閉店し、特別清算を申請した。春から夏にかけては新潟三越、そごう・西武の地方4店舗、福島県の老舗・中合など10店舗の閉店が集中した。
 百貨店の頼みの綱だったインバウンド需要がコロナ禍で消失、外出自粛や臨時休業・時短営業が広がった。とはいえ今年の閉店は大半がコロナ以前に計画され、たまたま時期が重なっただけだ。背景には消費者の百貨店離れという構造的な問題が、手つかずの状態で横たわっている。
 より深刻なのは地方都市だ。今年、山形県と徳島県の2県が「百貨店空白県」となった。地場百貨店31社の最新決算は増収はわずか5社にとどまり、赤字が15社と半分を占めた。地域に密着し、地元を代表する「旗艦店」、「一番の老舗」という語句は、すでに過去の話だ。狭い市場と限られた経営資源では、百貨店が業績改善を図る方策は限られる。従来の百貨店というカテゴリーや固定観念にとどまらない、思い切った変化が必要ではないだろうか。
 百貨店売上高(百貨店協会調べ)は、10月まで13カ月連続で前年割れだ。このうち訪日客を対象とした免税売上高は3月以降、前年比約9割減が続く。新型コロナの逆風を受け、百貨店の閉店ラッシュはさらに加速するだろう。生き残りをかけた統廃合や再編だけでなく、経営破たんによる突然死も現実味を帯びている。

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上場企業を襲う業績悪化、リスクを見据え手元資金を確保する動き

 新型コロナウイルスの影響で業績を下方修正した上場企業は、これまで1,000社以上に及び、下方修正したマイナス分の合計は売上高で11兆円、最終利益も5兆円を超えた。グローバル展開しサプライチェーンや市況減退が懸念される製造業と、外出自粛や臨時休業・営業時間短縮で個人消費の急減が直撃したサービス業、小売業の3業種で約7割を占め、新型コロナのインパクトの大きさを物語っている。
 一方、新型コロナへの対応で、金融機関などからの資金調達を公表した上場企業も200社以上にのぼり、コミットメントラインの設定などを含めた調達総額は合計で10兆円を超えた。トヨタ自動車の1兆2,500億円を筆頭に、1,000億円以上の調達が少なくとも27社と、自動車や鉄鋼などの大手メーカー、航空会社など、国内各業界を代表する企業が並ぶ。
 「新しい生活様式」の実践で、従来のビジネスモデルや収益環境は大きく変わった。事態の長期化とウィズコロナに備えた運転資金の確保を急ぎ、キャッシュポジションを高める動きが広がっている。

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私が愛したタピオカ

 私はタピオカが好きだ。休みの日は東京・下北沢に通い、いくつものタピオカドリンク店を渡り歩いた。2019年は「タピオカ・第3次ブーム」の真っただ中。週末ごとにそんな生活を楽しんだ。ところが、2020年に入ると状況が一変した。新型コロナ感染拡大で、タピオカのシーズンであるはずの夏を前に、なじみの店がいくつも閉店した。
 「タピオカブームは不況の前兆」という説がある。第1次ブームではバブルが崩壊し、第2次ブームではリーマン・ショックが襲った。そして、第3次ブームでは新型コロナの感染拡大。偶然とはいえ、あまりにも大きな節目とシンクロする。
 東京商工リサーチ(TSR)が保有する企業データベースで、タピオカブーム全盛期の2019年9月から2020年3月にかけて増えたタピオカ関連企業は52社あり、このうち1年以内に新設された企業(新設法人)は24社だった。これがコロナ禍が深刻化した2020年4月~8月に増加したタピオカ企業は13社にとどまる。このうち、新設法人は2社しかなかった。休校で主要顧客だった学生が激減し、タピオカ関連企業の起業ペースは大幅に鈍化したようだ。これはまずい!私の愛するタピオカが衰退してしまう。
 タピオカドリンク店に取材すると、意外な答えが返ってきた。「サラリーマンなど男性を含む幅広い年齢層の方が買いに来るようになり、ブームが落ち着いてきた代わりに、“タピオカ”が広く定番化してきた」といった声もあり、悲観的な見方ばかりでもない。
 タピオカとデリバリーやテイクアウトの相性の良さは、新しい生活様式の強みにもなる。コロナ禍で変化した人々の消費行動にうまく寄り添い、タピオカ人気を不動のものにできるか。勝負の時かも知れない。タピオカよ、永遠たれ。

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‌タピオカ・第3次ブーム

預託法改正へ、持続化給付金などの不正受給も問題に

 2020年も預託商法(オーナー商法)が注目された。2月、食品の「オーナー商法」を手がけていた(株)ケフィア事業振興会(TSR企業コード:298080745)の元代表ら9名を警視庁が出資法違反の容疑で逮捕した。9月には磁気治療器などの「オーナー商法」を展開していたジャパンライフ(株)(TSR企業コード:291624898)の元会長ら十数名を警視庁など合同捜査本部が詐欺容疑で逮捕した。
 高齢者などから商品を預かり、運用の実態がないのに高い配当をうたい、多額の資金を集める詐欺的な預託取引が横行し続けてきた。だが、ジャパンライフやケフィア事業振興会など消費者被害が続出し、預託商法を原則禁止とする特定商品預託法の改正が2021年に国会に提出される予定だ。
 現在でも預託商法で多額の資金を集めている企業がある。法改正を前に、資金を集める動きが強まる可能性もあり、2021年も預託商法には目が離せない。

 さらに、高級車も投資対象になった。個人投資家が高級車を購入し、カーシェア会社に預け、そこから配当を受け取る仕組みの「スカイカーシェア」が話題になった。カーシェアを運営していた(株)SERIAS(TSR企業コード:027949605)などグループ会社は10月、投資家らに突然「破産手続きに入る」と告知。投資家が購入した高級車の所在がわからず、社会問題化した。運営グループは11月24日、破産開始決定を受け、破産管財人が車両の返還手続きが進めるが、破産配当の見込みは立っていない。

 新型コロナの支援策である「持続化給付金」も、不正受給の対象になった。個人事業主と偽装する不正受給が、各地で摘発されている。警察関係者によると、ある企業グループが全国の中小企業にダイレクトメールを送付しているという。商品を購入すれば「持続化補助金」を得られるという内容だが、実態の伴わない詐欺的手法の可能性が高い。今後、コロナ支援の詐欺の立件は、ますます増えるだろう。
 雇用調整助成金の不正受給にも注目だ。東日本大震災時にも、中小企業緊急雇用安定助成金(現在の雇用調整助成金)の不正受給の摘発が相次いだ。厚生労働省は、「たとえわずかな日数であっても、休業等を水増ししたり、教育訓練中に通常業務を行ったことを隠して申請することなどは不正受給にあたる」と指摘する。不正受給が判明すれば、社名の公表や悪質ならば刑事告発の可能性もある。
 すでに首都圏で立ち食いそばチェーン店を展開する大手が、アルバイトをグループ会社に転籍させながら「特別休暇」として雇用調整助成金を受給していたことが実名で報道された。新型コロナで資金繰りが悪化している企業は多い。その悩みに付け入り、詐欺に巻き込まれるケースや、安易な気持ちで不正に手を染める経営者がいる。コンプライアンス意識の徹底が、その揺らぎに歯止めをかける最後の砦だ。一つの判断ミスでも、築き上げてきた信頼が地に落ち、消費者や社会は許さないことを肝に銘じるべきだろう。

(続く)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2020年1月16日号掲載「2020年を振り返って(第2回/全3回)」を再編集)

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